大学で増殖する造語、「学群」「学域」「学環」って?

この春に入学した新大学生もそろそろ新しい環境になれたころだろうか。ところで大学の組織の名称と言えば「法学部法学科」や「理学研究科」のように学部、学科、研究科という名称が一般的だ。しかしここ数年、「学群」「学域」「学環」「学府」など新しい組織名が目立っている。なぜ名称を変えているのだろうか。

高知工科大学は今年4月、それまでの「マネジメント学部」を改組して「経済・マネジメント学群」を設置した。それまでは商学を中心に教える学部だったが、新たに経済学も盛り込み、3年生で専攻を選ぶまでの2年間はそれぞれの基礎をひろく学ぶカリキュラムに改編した。

「学群」としたのは「いろいろな学問分野を含めた広がりをもたせるため」と同大の福田直史事務局次長は説明する。学群という名称ならば「複数の学問分野が群れ合い広がっていくイメージ」(福田局次長)が生まれるからだ。

この「学群」という名称を初めて使ったのは筑波大学だ。1973年に旧東京教育大を移転・再編するにあたり、後の筑波大学長になる福田信之氏は著書「筑波大学のビジョン」の中で、当時のカリフォルニア大学サンディエゴ校のマスタープランの影響を受けて学部横断的な組織をつくったと書いている。

同書によれば、このプランは大学を集団の意味をもつ「クラスター」3つに分けて学生の所属組織とし、教員が所属する研究組織「デパートメント」と分離するというものだという。教員と学生が同じ組織に所属する「学部」とはまったく異なる組織だ。筑波大はこれにならって従来の「学部」をやめ、複数の学部を集めた「学部群」を意味する「学群」という名称を作り出したようだ。

その後「学群」という言葉を使う大学はなかったが、2005年には桜美林大が「学群」に変更。高知工科大も追随するなど、学群という言葉に再びスポットライトが当たった形だ。

8「学部」を3「学域」に再編

金沢大学は2008年に「学部」から「学域」に移行した。その下には「学類」が並ぶ(金沢大学提供)

「学部」にかわる言葉は学群だけではない。「学域」という名称も登場している。先駆けとなったのは金沢大学。08年に全学規模の再編をおこない全8学部を3学域に改組した。その際、新組織は「基礎的かつ共通する部分を共有する」という意味を強調するために学部をやめ、「学域」としたという。その後、4年後には大阪府立大学が「学域」を設けた。

「○○研究科」という名称が多かった大学院の名前も変わってきている。東京大は00年に学生組織と教員組織を分離させた「情報学環・学際情報学府」と呼ぶ大学院を創設した。創設に関わった東京大学大学院情報学環の水越伸教授は「学環」というのは東大の造語で「さまざまな『学』を『環』状につなぐという意味がある」と説明する。九州大学も同年に同様の組織再編を行い研究院・学府制になった。京大はその2年後新しい大学院を創設したが、その名称は「地球環境学堂・地球環境学舎」。学堂も学舎も「学問をおこなう場所」という意味をもつ言葉だ。

こうした大学の名称変更をみると、いずれも幅広い領域の学問を教える組織には「学部・学科」という言葉はなじまないという意識があるようだ。ではそもそもなぜ学士課程の組織を「学部」というようになったのだろうか。

始まりは東大、「学部」ではなく「部」だった!

歴史をひもとくと1877年(明治10年)、東京開成学校と東京医学校を合併して東京大学が作られた際、はじめて「学部」ということばが現れる。東京大学の寺崎昌男名誉教授は「政府がつくり文部省が所轄する東京大学という一『大学校』の中で、法学なら法学、文学なら文学という専門教育を担当する『部(セクション)』という意味合いをもって作られた」(「プロムナード東京大学史」)と指摘する。同氏によれば創立された当初、文学部は「文」学部ではなく「文学」部と認識されており、官公庁の一つの部局という意味だったというわけだ。

その後、1886年の帝国大学令で学部は「分科大学」に名称を変え文科大学、医科大学、工科大学などになった。その後1919年に再び「学部」に戻しこの名称が定着した。各分科大学を学部に戻した背景には法人格を持つ大学と、その一部である分科大学が同じ「大学」という名称を使うのは不適切だという意識があったようだ。以来、大学の学士課程は学部という単位で構成されるようになり、「大学の学部は特定の学問分野の専門教育を行うところ」という意識が定着したようだ。

これがここ数年で風向きが変わったのは、少子高齢化の急速な進展で「大学全入時代」となったことの影響が大きい。大学進学が半ば義務的になり、目的が定まらないまま進学する学生が増えたため、以前のような狭い学問の範囲について4年間教える学部学科制では学生のニーズに応えることができないという意識が高まっている。金沢大学は再編にあたり「従来の学部・学科制だと(『英語学』や『数学』などといった)特定の学問を追究するという縦割り色が強く、学生の入学後の志望や適正判断の変化に対応できない」としている。

「学生や社会のニーズに対応」、その効果は…

さらに企業も大卒の学生に高い専門性より幅広い知識を求めるようになり、大学の教育が社会ニーズとずれているという指摘も増えた。高知工科大では「たとえば工学部機械工学科の学生は機械工学については詳しいがそれ以外のことが分からないことが多い。だが社会に出てからは専門に隣接する分野の知識も必要で、従来の学部学科制の教育は今の社会のニーズに合っていないという卒業生や企業からの意見が寄せられていた」(福田直史事務局次長)と改組の理由の一端を打ち明ける。

こうした再編や名称変更は受験生にはどう見られているのだろうか。駿台予備学校進学情報センターの石原賢一センター長は、「名称変更の影響は特に表れていない」としながらも、「高校までの勉強と大学の専門教育との乖離(かいり)が広がり、受験生が専門を選びづらくなっている昨今、受験時に専門を絞らない大学には一定の魅力があるのでは」という。しかし入試の倍率ではまだ大きな変化があったとはいえない。

少子化が進み、今後大学間競争の激化は必至。「学びたいことは決まっていないが、とりあえずその大学に入りたい」という受験生にとっては「学部」から「学群」「学域」などへの改組・名称変更は効果があるかもしれない。一方で勉強したいことがある程度はっきりしている学生も少なからずいるので、「学部」もまだまだ捨てられないようだ。

(桜井豪)