ヘルスUP

日経Gooday 30+

大人になっても身長は伸び縮みする?

2015/5/4

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 聞きたかったけど、聞けなかった。知ってるようで、知らなかった。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
実は大人でも身長はかなり変化する。(c)Corina Rosu-123RF

 子供のころ、毎年の身体検査で身長を測るのが楽しみだった人は多いと思う。年々伸びていく数字は、成長の証。少しずつ大人に近づいているような気がして、ドキドキしたのかもしれない。

 それが思春期を過ぎて、あまり数字が変わらなくなると、身長への興味も消えてしまう。大人になってからは、体重なら気になるけれど、身長はどうせ変わらない、と思っている人が多いはずだ。

■大人でも身長が1日で2センチ変わる?

 「いやいや、大人の体でも身長はかなり変化するのですよ」

 こう話し始めたのは、千葉・柏リハビリテーション学院 学院長で、整形外科医の下出真法氏。えっ、まだ伸びるのですか?

 「子供のように伸びるわけではありませんが、1日の中でかなり変化します。朝と夜で、2センチぐらい伸び縮みすることもありますよ」。

 ほぉー、そんなに変わるのか。下出氏によると、身長が一番高いのは、朝起きた直後。日中の起きている間に徐々に縮み、就寝前には最も低くなるという。

 「大相撲の新弟子検査で、背の低い入門希望者が測定の直前まで横になっている姿が、よくテレビニュースに流れます。あれは、理にかなったやり方。ずっと横になっていれは、背が伸びた状態を保てますから」

 なるほど。日内変化がかなり大きいので、学校で行う身体測定は、誤差を減らすため午前中に行う決まりになっているそうだ。

 でも、どうしてこんなに変化するのだろう?

■椎間板は圧迫されると縮み、圧迫が解けると膨らむ

椎間板が水を吸って厚みが増す朝には、身長が高くなりやすい。一つひとつの椎間板の厚みが1ミリ程度変化すれば、全体で2センチ以上変わることになる。(c)Peter Lecko-123RF

 「その秘密は、背骨の構造にあります」と下出氏は言う。

 背骨は、1本の骨ではない。骨盤の上に、椎骨(ついこつ)という骨が24個も積み重なってできている。小さな骨が連なっているから、全体が滑らかに曲がったりねじれたりできるわけだ。

 椎骨と椎骨の間に挟まっているのが、椎間板(ついかんばん)。これは弾力性に富む組織で、背骨にかかる重さを支えるクッションの役割を果たす。

 椎間板は、外側を線維輪(せんいりん)という硬い組織が囲み、その中に、ゲル状の成分が詰まっている。この中心部が「髄核(ずいかく)」。これがクッションの本体だ。

 「髄核は、紙おむつのように吸水性が高い成分でできています。ここに圧力がかかると、じわじわ水分を放出して縮み、圧力から解放されると再び水分を吸い込んで膨らむのです」と下出氏。

 夜、寝ているときは、椎間板にかかる圧力が小さい。そのため髄核は水分を吸ってゆっくりと膨らむ。椎間板の厚みが増し、朝には身長が高くなっている。起きているときは椎間板が圧迫されるので、髄核が水分を放出して薄くなる。だから日中は背が縮むわけだ。

 計算上、一つひとつの椎間板の厚みが1ミリ程度変化すれば、全体で2センチ以上変わることになる。椎間板のわずかな変化が、身長を大幅に伸び縮みさせるのだ。

 「宇宙飛行士が宇宙遊泳から帰ってくると、身長が4~5センチも伸びていることがあるそうです」と下出氏は言う。重力がなくなると、椎間板はそこまで膨らむのか。すごいものだ。

■加齢とともに椎間板の中が“干からびる”

 通常、椎間板の弾力は、年齢とともに落ちていく。圧力による厚みの変化の幅も狭くなる。だから朝と夜の身長差は、高齢になるほど少なくなるという。

 「年をとると、髄核の吸水力が落ちるのです」と下出氏。髄核に含まれる吸水性のゲル成分は、加齢とともに減っていき、水分を吸って膨らむ力も弱くなる。老化に伴って、背骨の中が“干からびて”しまうわけだ。

 そして弾力が落ちた椎間板は、変形や障害も起きやすい。典型的なのが、椎間板の一部が背骨の外に飛び出てしまう「椎間板ヘルニア」。クッション性の衰えた椎間板が、圧力に耐えられず、壊れてしまう現象だ。

 体重60キロの人が中腰になると、テコの原理で、椎間板には150キロほどの圧力がかかるという。椎間板は、瞬間的には数百キロもの荷重に耐えられる強い組織だが、加齢によって弾力が衰えたところに、長年の負担が積み重なれば、壊れてしまうこともある。

■人類は2本足で立ったことで、椎間板への負担が増えた

 「そもそも人類は、進化の過程で二足直立姿勢になったときから、椎間板を酷使する宿命を背負ったといえます」と下出氏は話す。

 背骨はもともと、動物の体の中を水平に貫く骨格だった。四足動物は今でも、その基本骨格を保っている。この構造において背骨は、「梁」(はり)のような役割を担う。

 ところが、今から700万年ほど前、人類の祖先は二本足で立ち上がった。この瞬間、それまで「梁」だった背骨の役割が「柱」へと一変し、椎間板に大きな負荷がかかるようになった。人間が無理な姿勢へ進化したから、椎間板が壊れやすくなったという側面もあるわけだ。

■背骨の健康を保つには姿勢をこまめに変える

 では、椎間板の負担を減らすには、なるべく横になっているのがいいのだろうか?

 「いえ、全く圧力をかけないのも問題です。椎間板は、圧力の変化で膨らんだり縮んだりしながら、内部の水分を循環させているのです」(下出氏)

 実は、椎間板には血管が通っていない。内部の組織に酸素や栄養を届けるには、血流以外の方法で、水分を巡らせる必要がある。その大役を担っているのが髄核。膨張と収縮に伴ってポンプのように水を吸ったり吐いたりして、循環させているのだ。

 「ずっと横になっていると髄核が伸び縮みしないので、循環が悪くなります」と下出氏は言う。こうなると酸素と栄養の供給が滞り、椎間板の老化が一層進んでしまう。

 「健康な椎間板を保つには、圧力を適度に変化させる必要があるのです。それには、同じ姿勢を続けないこと」と下出氏。体をこまめに動かし、椎間板に圧力をかけては休め、伸縮させる。これが、背骨の健康を保つ秘訣だ。

(北村 昌陽=科学・医療ジャーナリスト)

Profile 下出真法(しもで まさのり)
千葉・柏リハビリテーション学院学院長。NTT東日本関東病院脊椎・脊髄病センター長。
1947年生まれ。73年東京大学医学部卒業。東京女子医科大学整形外科講師、社会保険中央総合病院(現東京山手メディカルセンター)整形外科部長などを歴任。

ヘルスUP新着記事

ALL CHANNEL