尼崎脱線、遺族が歩んだ10年 「安全な社会」へ結束

発生から10年を迎えた兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故。乗客106人が死亡した惨事で肉親を失った遺族らは、「安全な社会」の実現へ向け、共に歩みを進めている。

「娘の死に疑問が残るまま終われない」。業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に対し一審に続き二審も無罪判決が出た後の今月上旬、長女(当時40)を亡くした藤崎光子さん(75)は話した。

組織罰を考える勉強会で講師の話を聞く藤崎光子さん(右から2人目)ら(兵庫県西宮市)

強制起訴につながった検察審査会の議決の背景には、遺族らの結束がある。遺族らの意思を確認した上で、検察官役の指定弁護士は上告を決めたが、現場から遠い立場にある組織幹部の刑事責任の認定は難しい。

それでも遺族らは、被害者参加制度を使って法廷で歴代社長と向き合い、事故への思いを話せたことには意味があったと感じている。「遺族の想(おも)いがあったからここまで来れた」

遺族の会、2カ月後に発足

脱線事故の遺族の会は事故2カ月後に誕生。藤崎さんが信楽高原鉄道事故(1991年)の遺族から進言されたのがきっかけ。「集まれば力になる」。現場を訪れる遺族ら一人ひとりに手紙を渡した。遺族44人、負傷者1人での出発だった。

活動の柱の一つが支え合いだ。日常の中で、家族を失った人々。メンバーらは週末の会合などで、当事者でなければ分かりにくい心の傷や悩みを語り合った。暮らしの立て直しへ共に歩んだ。

もう一つが安全の追求。昨春にまとまった「JR西日本安全フォローアップ会議報告書」。遺族らは怒り・悔しさと共に、原因究明の徹底を同社に訴えたが、感情をいったん収め、実のある再発防止策を考えるため、加害者側と同じテーブルに着いた。過去には例のない試みの成果だ。

報告書ではシステムの総合管理、外部の第三者の検査などが必要と結論付けた。今月中旬には、海外に拠点を置く組織による監査の導入を同社が公表。監査が安全対策に的確に生かされるよう期待されるが、遺族の一人、浅野弥三一さん(73)は「成果が出て初めて(JR西を)信頼できる」と話す。遺族らの目は今も厳しい。

安全管理模索し、韓国とも交流

一方で、遺族らは安全管理の不備で大事故を起こした組織に上限のない罰金を科す海外の「組織罰」の研究などを通じ、より安全な社会を目指す新たなつながりの誕生に向け、歩みを進める。

京都府福知山市花火大会の露店爆発事故(2013年)、韓国セウォル号沈没事故(14年)など国内外の大事故の遺族同士の交流は広がる。そして、改めて記憶を風化させまいという試みも進んでいる。

今月中旬、日本大学(東京)法学部で行われた脱線事故を題材にした模擬裁判。組織罰の研究を通じて遺族と連携する船山泰範教授の講義だ。学生は事故の悲惨さや背景、現在の日本の刑法の仕組みなどを学ぶが、こんな言葉も聞かれた。

「脱線事故を知らなかった」「大きな組織がまさかこんなに大変な事故を起こしていたなんて」……。「まだまた、遺族らが伝えるべきこと、やるべきことは残っている」。藤崎さんらは痛感している。

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