デジタル機器での目の疲れ 原因は自律神経の混乱
パソコン、スマホ、タブレット…。私たちの身の回りは、目に負担をかけるIT(情報通信)機器であふれている。だから目が疲れるのも仕方がない――と思っているアナタにこそ知ってほしい。パソコン画面を見ていて「疲れた」と感じるのは、目だけの問題ではないかもしれない。自律神経のバランスが乱れている可能性があるという。
「デジタル環境の中で、私たちの目は、本来のあり方と違う働きを強いられています。それが自律神経まで狂わせるのです」
現代人の目の問題に詳しい、梶田眼科院長の梶田雅義さんはこう話す。ほお、本来のあり方ってどういうことだろう。早速お話を聞いてみよう。
デスクワーク時の目は矛盾に悩んでいる
私たちが何かを見るとき、眼球の中では、距離に合わせてピントを調節するしくみが働いている。この調節を行うのが水晶体(レンズ)だ。遠くを見るときは水晶体が薄く、近くのときは厚くなる。ガラスのレンズと違って水晶体は柔らかいので、柔軟に厚さを変えられるのだ。
「厚みを変化させるのは、毛様体筋(もうようたいきん)という小さな筋肉です」。このリング状の筋肉は、レンズの周りをぐるりと取り囲んでいる。近くを見るときは筋肉が縮んてリング径が小さくなり、レンズが厚くなる。遠くを見るときはリング径が拡大し、レンズが薄くなる、というわけだ。
~目の中の筋肉がレンズ厚を変化させる~
さて、問題は自律神経。実は毛様体筋は、副交感神経の命令によって収縮するという。
ご存知のように、自律神経には交感神経と副交感神経がある。興奮するときに働くのが交感神経、リラックスするときに働くのが副交感神経。つまり、近くを見る(毛様体筋が収縮)ときは、体をリラックスさせる神経が必ず働くのである。
「その昔、人間が狩猟生活をしていたころは、日中は緊張しながら遠くを見て獲物を探し、夜の団らんではお互いの顔を見てくつろいだ。目の使い方と自律神経の働きが、うまくマッチしていたのでしょう」
~自律神経の働きは目とつながっている~
だが現代ではどうか。多くの人が狩猟ではなく、デスクワークでパソコン画面を見ながら緊張している。仕事中の体は交感神経モードだ。でもパソコン画面は近くにあるので、これを見るには副交感神経が働かなくてはならない。この矛盾した状態が常時続くと、自律神経のバランスが狂ってしまうのだ。
~パソコンやスマホが自律神経を狂わせている~
こうなると、仕事をがんばろうと思っているのに、画面を見ると眠気やだるさが湧いてきて、やる気が出ないといった状況に陥る。頭痛や肩凝り、吐き気などが出ることもあるという。
こういう状態になりやすいのは、もともと視力が良かった人。遠くを見るのは得意だが、近くを見るときには毛様体筋が人一倍力んでいるのだ。また近視の人でも、矯正視力を高めすぎると同様のことが起きる。
さらに、だれでも30代ぐらいになると目の老化が徐々に進んで水晶体の柔軟性が下がり、毛様体筋が力みやすくなるという。
パソコンが楽に見える眼鏡を使ってみよう
「今の世の中では、遠くがよく見えることよりも、パソコンぐらいの距離を快適に見続けられることの方が大切」。視力より快適さ。パソコン使用時は、近くが楽に見える眼鏡を使うのがお薦めだという。
ところで、近くが楽に見える眼鏡っていうのは…。
「わかりやすくいえば老眼鏡ですね。度がごく弱い多焦点のものを使うと、パソコンやスマホが驚くほど楽になりますよ」
老眼鏡かと過敏に反応する人もいるだろうが、実は梶田さん自身、30代半ばからそういう眼鏡を使って、肩凝りがすっかり楽になったという。症状に思い当たる人、ここは快適さ優先で、眼科か眼鏡屋さんに相談してはいかがだろうか。
この人に聞きました
梶田眼科院長。日本眼光学学会理事。テクノストレス眼症など現代人の眼のトラブルに詳しい。「"見える目"と"快適な目"は違います。視力検査の結果が良くても、現代のIT環境を快適に過ごせるとは限らない。自分の生活に合わせた対策を」。
(ライター 北村昌陽)
[日経ヘルス2013年10月号の記事を基に再構成]
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