「男女の学力、環境が左右」 OECD事務次長に聞く
マリ・キヴィニエミ氏「女子も理系に目を向けて」
日本の女性の活躍の遅れは先進国の中でも著しい。このほど来日した経済協力開発機構(OECD)事務次長マリ・キヴィニエミ氏に男女の教育格差を中心に課題を聞いた。
――世界各国の男女の教育格差に着目して学習到達度調査(PISA)をしました。どんな男女の違いが見えますか。
「15歳時点では女子の方が成績は優秀だ。だが大多数の国・地域において数学は女子が男子より劣っていた。OECD平均で約10点の差がある。日本は特に得点差が大きい。ただフィンランドやスウェーデンなど、逆に女子の方が数学の成績が高い国もある。つまり生物学的な性差ではなく、環境要因が影響している」
「その一つは『女子は理系に向かない』とする思い込み。教師や親がこう考えて接しているために、本当は能力はあるのに女子は理系科目に自信が持てず、それが成績の低下につながっている」
――女子が理系に目を向けないと何らかのデメリットがありますか。
「OECDは基本的に、どの国でも性に関係なく個々が持つ潜在能力を発揮できるようにすべきであると考えている。個人にとっても好ましいし、一人ひとりの能力が効率的に発揮できれば国も豊かになり繁栄するからだ」
「OECD諸国の平均では工学・技術やコンピュータなどの理系職業に就こうと考えている女子は5%に満たず、男子より低い。本当は理系の優れた才能があるのに、その道に進まないのは社会的な損失といえる」
「大切なのは『男だから…』『女だから…』と偏見で得意分野を決めつけずに、個性をしっかり見極めること。学校や家庭の役割が重要だ。教師や親が意識を変えなくてはいけない」
――女性の活躍推進について今の日本の動きをどうみますか。
「日本政府や安倍晋三首相による、現状を変えたいという気持ちは海外にも伝わってきている。日本は深刻な少子高齢化に直面している。時間はかかるだろうが、変革を避けて通れない。特に重要なのは女性の就業率の向上だ。男性と比べて女性の就業率が低すぎる」
「2014年11月のG20首脳会議で25年までに男女間の就業率ギャップを25%縮めると参加国は合意した。試算によれば、日本が合意通りに男女間の就業率ギャップを改善できれば、何も手を打たなかった場合と比較して労働力人口は1.4%増え、国内総生産(GDP)を0.7%押し上げる」
――フィンランドは女性就業率が高い。どうやって実現したのですか。
「女性の社会参画意識がもともと高い。ただ以前は今ほど女性の就業率は高くなかった。きっかけは保育サービスの拡充などだ。1996年に保育に関する法律が改正され、保育施設の利用は子どもの権利だと明示し、自治体に子どもの受け入れを義務付けた」
「日本では希望しても施設不足で保育所に入れない事例が多くあると聞く。法改正前のフィンランドも同様だった。でも今は申請すれば必ず子どもを保育施設に預けられる」
「保育施設を整えるにはコストがかかる。ただ負担の側面だけをみてはいけない。女性が外で働けば所得を獲得し、納税もする。日本は配偶者控除など働かない方が得する仕組みも見直さなくてはいけないだろう」
(聞き手は女性面編集長 石塚由紀夫)
◇
非正規の多さ、日本の課題
「女性はすべてを手に入れられるのか?」。こう題したセミナーを国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)は3月中旬に東京都内で開いた。出生率と女性就業率がともに低い日本・韓国と、ともに高いフィンランド・ノルウェーを比較して課題を探った。キヴィニエミOECD事務次長はパネリストとして参加した。
日本で女性就業率が低い理由として挙がったのがパートなど非正規で働く女性の多さだ。日本では働く女性の約6割が非正規だ。
木下祐子IMFアジア太平洋地域事務所次長は「非正規はキャリアアップのチャンスが低く、賃金も安い。さらに日本では一度仕事を辞めると正社員として再就職が難しい」と報告。こうした状況が出産をためらわせ、女性の働く意欲をそいでいると指摘した。
北欧との比較では公的保育サービスの遅れと男性の家事・育児参加意識の低さが課題に上った。
ノルウェーのエネルギー会社、スタトイル・アジアパシフィック社のヒルデ・メレーテ・ナフスタ社長は「父親に産休取得を促すように法改正してから男性の取得率も上がった。共働きで十分に稼げるようになると、子どもをより多く産もうとする傾向がノルウェーでは見られる。共働き支援が大切だ」と主張した。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。