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 農業分野で女性の台頭が目立っている。これまでも農作業の多くは女性が担ってきたが、保守的な風土が残り女性の力は過小評価されがちだった。ところがここ数年、女性が前面に出て農業をけん引する例が目立っている。農林水産省も「農業女子プロジェクト」と銘打ち彼女らを支援する。
夫と野菜苗の会社をつくった小竹花絵さん(栃木市)

夫と野菜苗の会社をつくった小竹花絵さん(栃木市)

ビニールハウスに野菜の苗がずらりと並ぶ。珍しい品種のトマトやキュウリ、顔を出したばかりの双葉がびっしり詰まった箱もある。ここは栃木県栃木市にある野菜苗の会社パナプラスだ。

社長の小竹花絵さん(35)が、夫の仲田雅洋さん(39)と会社をつくったのは2010年2月。野菜の苗を全国のホームセンターや園芸店に卸している。夫婦2人だった従業員は今、15人まで増え、春の繁忙期には短期雇用を含め40人近くが働く。

小竹さんは非農家出身。大学では英米文学を専攻し将来の夢はフライトアテンダントだった。転機は突然やってきた。「大学で園芸の授業があり、自分たちで育てた野菜のおいしさにびっくり。これまで食べてきた野菜はなんだったのか。農業をやろうと決心した」

もともとのめり込む性格だ。畑を借りて野菜作りを始め、大学卒業後は園芸療法を学ぶため専門学校に入学した。そこで紹介された栃木県の花卉(かき)農家に就職し、出会ったのがその家の息子の雅洋さんだ。撤退が決まっていた農業施設を借り、2人で新事業に乗り出した。

自分が味わった感激をほかの人にも伝えたいと、家庭菜園向けの苗を売り出した。競争力を高めるため年2回以上収穫できるイチゴや、背が低いトマトなど珍しい苗を主力に据えた。「皆に喜ばれる仕事をしたい。バイヤーが届けてくれる客の声を聞くのが楽しみ」と小竹さん。

2.5ヘクタールの果樹園を経営する長沼由紀さん(山形県上山市)

「苦労も多いけど、やりがいの方が大きい」。こう断言するのは山形県上山市にある長沼果樹園の長沼由紀さん(41)だ。昨年から母、きみ子さん(63)の跡を継ぎ園主になった。山すその2.5ヘクタールの土地でサクランボやラ・フランスなどを栽培する。

祖父が始めた果樹園を父親が継ぎ、百貨店に卸すまでに育てた。由紀さんは3人姉妹の長女。専門学校を卒業し会計事務所に勤めたが、2年で退職して両親を手伝った。ところが10年前、大黒柱の父親が56歳で急逝した。「剪定(せんてい)などはすべて父がやっており、果樹園をどうするか途方にくれた」

一時は他人に譲ることも考えたが、母と2人で続けると決意。周囲の果樹農家に教わりながら必死で技術を身につけた。近所に住む妹の助けを借りなんとか果樹園を継続、固定客が増えてきた。

宅配商品に添える「果樹園便り」は女性らしい心遣いと臨場感にあふれると好評だ。「農業を取り巻く環境は厳しい。新品種に挑戦するなど生き残りを常に考えている」と由紀さん。長沼さん母子の奮闘に触発され、近隣では娘が跡を継ぐ例がでている。

農水省の調べでは農業就業人口の約半数は女性だ。だが農業委員や農業協同組合役員に占める女性の割合は14年で7%前後。男性優位のイメージは若い女性を農業から遠ざけ、45歳未満の新規就農者のうち女性は23%だ。

ところが最近、こうした流れに変化が出ている。農水省が音頭をとり、13年11月に「農業女子プロジェクト」を始動。女性農業者と企業が連携して新しい商品やサービスを社会に情報発信する。農業女性の存在感を高め、若い女性の参入を促す狙いだ。当初37人だったメンバーは15年3月には261人に増えた。

女性だけの農場の社長、食品貿易会社などを経てイチゴ農家になった女性、商社で16年働いた経験を生かし夫の農園をもり立てる女性ら多様な人材が顔をそろえる。参加企業は20社を数え、おしゃれな軽トラックも誕生した。

名古屋大学の生源寺真一教授は「日本農業の変化と女性の活躍の好循環が始まっている」とみる。現代の農業は農産物加工や販売、食事の提供までを視野に入れる。女性の得意分野だ。一方で、筋肉労働が多かった農作業は機械化で体への負荷が減り、女性が働きやすくなっている。

「農業を継ぐのは農家の長男という時代は過ぎた。非農家の人が農業法人に就職し、長男以外が農業を継承する例も増えている。主役としての女性の登場はこうした変化の象徴。慣行にとらわれない女性の発想が農業と関連ビジネスに新機軸をもたらす」と生源寺教授は話す。

女性が基幹的に働いている経営体は販売金額が大きく、多角化に取り組む傾向が強いことが農水省の調べで分かっている。日本政策金融公庫の調査では、女性役員や管理職のいる農業経営の現場の方が、いない現場より売り上げや収益力が向上した。元気な女性の参入が農業と地域に活力をもたらしそうだ。

(編集委員 岩田三代)

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