希望と配属違っても… 悲観禁物、キャリアは偶然に

4月は新卒入社や人事異動のシーズン。新たな職場や会社で働き始めた人も多いだろう。任された仕事が希望と異なっていたとしても悲観は禁物だ。設計図通りのキャリアを歩める人はごく一部。実は多くのエグゼクティブ社員も意に反した仕事や配属をバネにキャリアアップを果たしている。

事務から営業、半年悩む

東京海上日動火災保険執行役員、吉田正子氏

「営業をやってもらいたい」。支社長に突然配置転換を告げられ、言葉を失った。東京海上日動火災保険執行役員の吉田正子さん(53)が26歳のときの出来事だ。高校卒業後に事務を担う一般職として入社した。営業はもちろん未経験。女性一般職が営業に出ること自体、前例がなかった。

「会社の方針ではなく、支社長のアイデア。人手が足りず、売り上げをあげるためにその1年前から支社で事務を担っていた私に狙いを定めたのだと思う」。今でこそ笑顔で振り返るが、当時は戸惑いしかなかった。営業なんて想定外。かといって上司の提案は断れない。もともと長く勤めるつもりで就職したわけではない。女性はそれが当たり前の時代だ。「辞めどきかも」。真剣に考えた。

営業先で何を話せば良いかも分からず、半年苦しんだ。どうすれば売れるのか。悩んだ末に自分の強みを改めて問い直した。事務職として数多くの契約書を見てきた。一つ一つの契約を思い返しているうちに、どんな顧客がどのような状況のときに、どの保険を契約するかのパターンが分かってきた。売りたい商品を提案するのではなく顧客の状況に応じて適切な商品を提案できるようになって販売成績は上がった。

当時営業に出たのは2年間。30代は事務システム開発や人事制度見直しなどに携わった。ただ営業現場を知る強みが行く先々で役立ち、2013年に一般職出身で初の執行役員に就いた。「過ぎてみればピンチはチャンス。やりたいことだけやっていたら仕事は広がらず、成長もしなかったと思う」と吉田さんは強調する。

経営陣と対立、職失う

入居している高齢者と談笑する、オリックス・リビングの森川悦明社長(千葉県浦安市のグッドタイムリビング新浦安)

「この年になったとき、有料老人ホームを運営する会社の社長になっているなんて、想像もしていなかったですよ」。オリックス・リビング社長の森川悦明さん(56)は笑顔で話す。大学院で建築士の資格を取得し、ハウスメーカーに入社した。経験を積み、やがて建築士として独立する夢を持っていた。だが実際は想定外の繰り返しだ。

最初は新卒での配属だ。土地所有者に節税対策として集合住宅の建設などを提案する部署だった。最初から設計を担当するのは難しいと覚悟はしていた。でも不動産開発はあまりに畑違い。転職も考えた。

関心もなく始めた仕事だが、やっているうちに魅了されていく。「不動産開発は実現まで多くの企業や組織がかかわる。設計で自分の手を動かすよりも、人や組織をダイナミックに動かすのがおもしろかった」

「もっと大きなプロジェクトを担いたい」。リゾート開発などを当時手掛けていた西洋環境開発に1989年転職した。ただ程なくバブルが崩壊、所有不動産の売却や社員のリストラなどが主たる業務となった。

努力もむなしく状況は改善しない。再建方針を巡って経営陣と対立し、99年9月に辞表を出した。失業したとき、声を掛けてくれたのがオリックスだ。頓挫したゴルフ場開発プロジェクトをオリックスに売却したことがあった。計画変更に反対する関係者の怒りをなだめる姿が目に留まったのだ。

森川さんは「やりたい仕事ができるようになったのはごく最近」と苦笑する。でも後悔はない。「想定していない仕事を任されたから、予想外の成長を遂げられた」

想定外の出来事、味方に

キャリアの8割は偶然がもたらす――。米国スタンフォード大学教授のクランボルツ氏は提唱する。多くの社会人は「自分は何をやりたいのか」「何ができるのか」をしっかり検討し、実現に向けてプランを立て実行すべきだと信じている。だがビジネス界で成功した人を調べたところ、計画通りのキャリアを歩むケースは少数。8割は想定外の出来事がキャリアアップや成長の足がかりになっていた。

社会構造の変化が早い昨今、スキルや知識と同様に長期プランもいずれ陳腐化する。ただし、クランボルツ氏は偶然のチャンスを待つだけの消極姿勢は否定する。想定外の出来事を糧とし、成長できるように行動の心得を示している(=表参照)。

クランボルツ氏らの著書「その幸運は偶然ではないんです!」(ダイヤモンド社)を翻訳した慶応大学名誉教授の花田光世さんは「『やりたくない』『興味がない』と目の前の仕事を遠ざけた結果、思わぬ成長のチャンスを逃しているリスクもある。懸命にやっているうちにたどり着くキャリアも貴重だ」と解説する。

(女性面編集長 石塚由紀夫)

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