沖縄の食堂で出されるのは… 水でなくてアイスティー
米国への憧れか、南国気質か
地元の人に親しまれる那覇市泊の軽食店「ルビー」。「ティー」と書いたやかんが置いてある。水もあるが、多くの客はセルフサービスでアイスティーをコップに注ぎ、食事が出てくるのを待つ。沖縄の食堂ではよくある光景だ。レモンティーやストレートティーなど店によって風味は異なるが、砂糖入りで甘い点は共通する。
客も「ティー」と呼ぶ沖縄の紅茶は店外でも人気を博す。明治グループの沖縄明治乳業(沖縄県浦添市)は2011年に「花笠食堂アイスティー」を発売した。観光スポット、国際通り近くにある花笠食堂の紅茶を再現した。
開発に携わった仲田和男営業部長は若い頃、花笠食堂に通った。食堂を切り盛りするおばあに商品化をもちかけても「ならんよ」と断られ続けた。ようやく認めてもらい、一緒に作り始めると「砂糖じゃなくザラメを使うように」などと食堂のこだわりを反映した商品になった。
飲料メーカー | 商品名 |
沖縄コカ・コーラボトリング | 紅茶花伝ガーデンレモンティー |
沖縄ポッカコーポーレーション | アイスティー 沖縄 |
沖縄明治乳業 | 花笠食堂アイスティー |
やんばる食堂レモンティー | |
沖縄UCCコーヒー | UCCレモンティー(沖縄) |
「霧の紅茶」シリーズ | |
オリオンビール | レモンティー |
企画段階では「本当に売れるのか」と疑問視されたが、発売後は日を追うごとに注文が増え、ピーク時は月産20万本と牛乳の25万本に迫った。現在も月平均10万本を出荷する主力商品だ。12年には老舗「やんばる食堂」が監修したレモンティーも発売した。
飲料各社はスーパーやコンビニ、自動販売機向けに多くの紅茶をそろえる。県内工場で作る沖縄限定商品が大半だ。
沖縄コカ・コーラボトリング(浦添市)は「ガーデンレモンティー」を販売している。開発のきっかけは社員が娘から「学校の昼の弁当時間に友達はアイスティーを飲んでいる」と聞いたこと。社史には「1985年ごろから競合他社のティー製品が目立ち始めた」とある。
日本コカ・コーラに商品化を要請したが「全国的にレモンティー市場の拡大傾向は見られない」と断られ、やむなく競合社の伊藤園と共同開発。沖縄独自の「セイロンレモンティー」を発売した。
県民に紅茶が受け入れられた理由の一つは「米国文化の流れ」(仲田さん)との見方が多い。花笠食堂が紅茶の提供を始めたのは、国道58号沿線にあった米国人向け老舗レストラン「ピザハウス」にならったという。
米軍統治下で物資が不足した頃にはネスレやリプトンなど海外ブランドの紅茶が多く流通。緑茶や麦茶より海外から来た紅茶があこがれでもあったようだ。
もう一つの理由が南国特有の気候。台湾など東南アジアでは茶に砂糖を入れる文化がある。沖縄も甘さを好むため、紅茶と砂糖の相性の良さが普及に一役買った可能性がある。
沖縄コカ・コーラCSR推進課の嘉手苅修さんによると紅茶、コーヒーを含め「他県に比べて加糖のものが圧倒的に好まれる」。同社の場合、レモンティーの自販機での売り上げシェアは約10%と本土に比べて高い。「沖縄の大学を卒業して本土に行った人から『ケースで買いたい』との注文が寄せられることもある」という。
紅茶作りも沖縄に根付き始めた。沖縄は紅茶の名産地、インドのアッサムやダージリンと同じ北緯26~27度に位置する。北緯30度以南の「ティーベルト」に入り、沖縄特有の赤土「国頭マージ」は茶葉栽培に適しているという。
沖縄県は国の一括交付金を活用し「おきなわ紅茶ブランド化支援事業」を実施。栽培方法を指導したり、シークワァーサーを使ったフレーバーティーの作り方を研究したりと、力を入れる。茶葉の価格が上がらない中で、紅茶向けの方が高く売れるためだ。
沖縄県うるま市の「沖縄紅茶農園」の山城直人さんは紅茶向け茶葉を専門に栽培する。「世界に通用する紅茶を作りたい」と無農薬、有機栽培にこだわる。紅茶を使ったデザートやリキュールの商品化も手掛けた。
紅茶を飲む習慣が浸透する沖縄。さんぴん茶やウコンを使ったうっちん茶のように、沖縄ティーは新たな特産品として広がる可能性を秘める。
(那覇支局 藤田祐樹)
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