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双子の「石のリング」は建築のルーツ 大湯環状列石 ~『日本遺産巡礼』

2015/4/22

日経アーキテクチュア

世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人として少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある。そんな「日本遺産」の中からいくつかピックアップし、現地取材に基づく「旅立ちたくなる」ようなリポートを、ほのぼのとしたイラストとともにお届けする。今回は大湯環状列石。

盛岡駅から、いわて銀河鉄道、JR花輪線を乗り継いで2時間あまり。十和田南駅に着くと、ホームの脇にはストーンサークルの小さなレプリカがあった。環状列石が地域のシンボルになっていることがうかがえる。

そこからタクシーで15分ほどで大湯ストーンサークル館に到着。館の職員と一緒に、すぐ隣の環状列石を見て回った。

大湯環状列石は縄文時代後期(約4000年前)の遺跡。遺跡の中心には直径約52mの「万座環状列石」と、直径約44mの「野中堂環状列石」の2つがある。いずれも100基以上の遺構の集合体で、外帯・内帯とよばれる二重の環状で構成されている。環状列石の周囲には、貯蔵穴や柱穴なども多数見つかっている(写真:磯達雄)

1931年に発見されたこの遺跡は、縄文時代後期、約4000年ほど前のものとされている。

公道を挟んで2つの環状列石が並ぶ。東側が野中堂環状列石、西側が万座環状列石である。2つのリングを直線で結んで西に延ばすと、夏至の日没方向を指し示すことが知られている。

リングの直径は野中堂が約44m、万座が約52m。いずれも平らな地面に広がっているので、近づいても全体像がよく分からない。万座の方にはすぐ脇に見晴台が設けられているので、そこに登るとようやく「円らしい」ということが分かるくらいである。

近寄って見るとリングは、小さな石をまとめた配石がいくつもつながってできていることが分かる。はっきりとした規則性は判読できないが、それぞれに柱状の石が立っているようである。それとは別に、外側の輪と内側の輪の間、中心から北西の方角に「日時計状組石」と呼ばれるものが置かれている。その真ん中にもやはり柱状の石が立つ。万座の周囲には掘立柱の建物が復元され、これらも同心円状に配置されている。

環状列石とは何だったのか。発掘調査により、配石の一つひとつが墓であり全体で集団墓になっていることが判明している。また、葬送や祭祀(さいし)の儀式を行った施設でもあったらしい。これらに使われている緑色の石は、全て4km以上も離れた安久谷(あくや)川の川原から運ばれてきたものだという。縄文人がものすごい労力をかけ、強烈な意図と意志を持って、これをつくったことは間違いない。

■小さな建築のルーツ

石をリング状に並べて配置した古代遺跡を総称して「ストーンサークル」と呼ぶ。日本では、大湯のほか、小樽市の忍路環状列石や北秋田市の伊勢堂岱遺跡など、北海道・北東北地方に多くある。同様のものは世界の各地にもあり、英国のストーンヘンジや、アフリカのセネガンビア地域の環状列石は、世界遺産に認定されている。

それらはいずれも重い石を別の場所から動かし、横に寝ている状態から縦に起こしている。配置には意図があり、天に向かって伸びる立石の垂直性が見る者に崇高な感情を湧かせる。建築史家で建築家でもある藤森照信は、こうした遺跡群を、人類にとって「建築の起源」であるととらえて、高く評価している。

海外の有名なストーンサークルの石は巨大だ。例えばストーンヘンジの立石は、高さが5mもある。一方、大湯の環状列石の立石は、高さがせいぜい1m。これは建築のルーツとしてとらえるには、あまりにも小さい。

しかし日本の建築は、小さいことをその特質としてきた歴史がある。かつては茶室という世界最小のビルディングタイプを生み、現代でも狭小住宅のデザインを名だたる建築家たちが手掛けている。以前はウサギ小屋とバカにされた日本の小住宅も、最近では海外の建築界から注目され、それをまねたような住宅作品が海外にも生まれるようになった。

こうした日本の小建築のルーツが、この小さな石のストーンサークルなのかもしれない。

■永続するシンボル

大湯環状列石を訪れて感じたのは、ここの面白さは2つのリングが近接して並んでいる点にあるということだ。そして、それらは大きさといい、構成といいほぼ同じものをコピーしてつくったかのように見える。あたかも、鏡の前にものを置いたかのようである。

そもそも円というのは求心性の高い図像だ。ここではこれを重ねて同心円とすることにより、ひとつの中心を強調している。しかしこのストーンサークルをつくった縄文人たちは、同じものを2つつくって並べてしまった。中心は中心であるままに円は2つに分裂した。

どちらがオリジナルとももはやいえない。ふたつの円形は、互いが互いをまねているかのように、存在しているのである。

こうした並び立つ建築の例を、私たちはいくつか知っている。例えば伊勢神宮。そこでは、建築を隣り合う敷地に交互に建てることによって、それを永続させている。

あるいはにニューヨークにかつてあったワールド・トレード・センター(設計:ミノル・ヤマサキ、1973年竣工)。フランスの思想家ジャン・ボードリヤールは著書『象徴交換と死』(1976年、邦訳はちくま学芸文庫)で、競争することもなくただ向かい合う2棟のスカイスクレーパーを、資本主義が自閉的に完成してしまった姿と評した。つまり、資本主義の永続性のシンボルというわけだ。

大湯環状列石の双子のリングも、そうした建築の始まりのない永続性を示す記号

として我々の前に示されている。

(ライター 磯達雄、イラスト 日経アーキテクチュア 宮沢洋)

[日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』を基に再構成]

(参考)日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』では、開業100周年「東京駅」、近代化の傑作「富岡製糸場」から古代の最先端「伊勢神宮」、「三内丸山遺跡」まで東日本の珠玉の名所の30選をイラスト入りでリポート。これまでの旅行本とは一線を画すダイナミックな写真も見物。旅のお供にお薦めの一冊です。『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』、および両書の電子書籍も同時発売。

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