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未来の「話す家」、築100年の旅館 新旧の魅力に迫る

2015/4/4

 引っ越しシーズンの春。転勤や子供の成長に合わせ、住まいについて考える機会が多い季節だ。時代の流れとともに変化していく家。ITを駆使した近未来の住宅と、築100年の京町家を改修したゲストハウスを訪ね、新旧それぞれの魅力に迫ってみた。
2020年をテーマにした住宅のキッチン。最近食べたメニューや、スーパーのお買い得情報を表示する(東京都中央区)

■IT駆使した2020年、近未来の家

 東京五輪が開かれる5年後。わたしたちが住む家はどうなっているのだろう――。「2020年」をテーマに、住宅分譲の三井不動産レジデンシャル(東京・中央)とネットサービス企画開発のカヤックが共同制作した近未来の家。ITを駆使したコンセプト住宅をのぞいてみた。

「ツナガル窓」で空間を共有

 会場はキッチンとリビングダイニングが一体のワンルーム。まずは台所に立ってみる。「夕食のメニューでお困りのようですね。豆腐の賞味期限があと2日です。マーボー豆腐はいかがですか?」「長男の和也君は前日夜にカレーを食べると、テストの点数が上がっています。チキンカレーはいかがですか」。なんと、家が住人に語りかけながら、必要なデータやイラストをカウンターに次々と投映する。冷蔵庫の食材の賞味期限から子供のテストの点数まで、様々なデータをクラウドに蓄積すると、ロボット化した家が住人の行動に役立つ情報を提供してくれる。

 ダイニングにも仕掛けがある。テーブルの脇にある窓のような大きな液晶画面。インターネットを通じて他の場所にいる人とリアルタイムで交流できる「ツナガル窓」だ。例えば、娘の誕生日パーティーに田舎に住む祖父母を「招待」したとしよう。マイクに娘が息を吹きかけると、相手先のテーブルに置いたケーキのろうそくの火が消える、といった具合だ。音に反応して近くに設置した扇風機が作動する仕掛けで、一緒に食事をするだけでなく、空気も共有しているかのような気になってくる。

調理方法を教えてくれるキッチン(京都市北区の京都産業大学)

 「データをうまく集め、有意義な情報をどの場面で見せていくか考えて開発を進めたい」と三井不動産レジデンシャル市場開発部の町田俊介氏。この近未来の住宅、昨年は見学希望者が殺到し、追加で何度も開催したという。現在は公開していないが、夏に向け、より進化させた展示を計画している。

 大学でも研究が進む。京都産業大学の研究室ではリビングや洗面所、個室を改造して様々な実験を行っている。キッチンにはプロジェクターを使った仕掛けがある。食材をカメラが認識し、魚のどこに包丁を入れるかを映像付きで教えてくれる。これなら魚をさばくのが苦手な人も安心だ。風呂場では湯につかる高齢者の動きや呼吸の状態をセンサーが感知し、安全や異変をリビングにいる家族にメロディーで知らせるシステムを開発中。「家自体が人を見守ってくれる環境を作りたい」と平井重行准教授は話す。

 「ライフログ」という言葉をよく聞くようになった。自分や家族の生活行動を映像や音声などのデジタルデータで記録することだ。家自体にライフログをためて好きなときに引き出し、それを利用してアドバイスがもらえれば、より便利でわくわくする生活が送れるかもしれない。2020年が楽しみだ。

 

 

10棟のうち6棟がゲストハウス。虫籠窓(むしこまど)やべんがら格子など、京町家の特徴を残す(京都市上京区の「町家ゲストハウス」)

■築100年の京町家がゲストハウスに

 風情ある街並みが魅力のひとつの古都・京都。古い家々をながめながら散策すると自然に心が和んでくる。しかし京都市内には約5千軒の京町家の空き家があり、毎年約2%が取り壊されているというからもったいない。そんな中、外国人旅行客の増加で、空き家を宿泊施設に活用する動きが広がっている。改修した「町家旅館」を訪ねた。

部屋でくつろぐシンガポールから訪れた旅行客

 まず向かったのは上京区にある築100年あまりの町家だ。老舗の油専門店、山中油店が昨年の夏、ゲストハウスに改修した。玄関の格子戸をがらりと開くと落ち着いた和の空間が広がる。「うなぎの寝床」といわれるように奥行きがある構造で、居間は天井の梁(はり)がむき出しになっている。2階もあり、かくれんぼも楽しめそうだ。

 部屋をのぞいてみるとシンガポールから家族6人で訪れた旅行客がくつろいでいた。ふだんはコンクリート造りの家に住んでいるという一家。畳に寝っ転がったり、木の香りを感じたりして満足そうだ。妻のアリソン・リューさん(44)は「1棟貸しなので、まるで京都に住んでいるよう」と、ホテルや旅館では味わえない雰囲気を楽しんでいる。キッチンには電磁調理器が付き、風呂やトイレも今風に改修しているため気負わずに宿泊できそうだ。チェックインの対応や宿の運営は、ベンチャー企業の「京町家の宿」(京都市)が担っている。英語を話すスタッフが常駐しているため、外国人客も安心だ。1棟貸し切りの料金は曜日や季節で異なるが、2人で1泊2万7千円からで、人数が多いほど割安な仕組みになっている。

「庵町家ステイ」の筋屋町町家。高い吹き抜けに吸い込まれそうになる(京都市下京区)

 町家への関心の高まりは外国人ばかりではない。「わあ、なんだか吸い込まれそう」。高さ10メートルほどの「火袋」といわれるダイナミックな吹き抜けに見学者が一斉に天井を仰ぐ。炊事の熱気や煙を逃がす空間だ。京都市内に11棟の町家旅館を持つ「庵(いおり)町家ステイ」が企画した見学ツアー。観光名所の鴨川や川床を一望でき、京都らしさを存分に味わえる町家もある。

 「こんな家に住むことができたら」といったあこがれや、いきなり泊まるには不安のある人、「改修の参考になれば」と町家の持ち主が参加する。1回10人と少人数のため、畳に座ったりソファに腰を下ろしたりと若い世代も気軽に見学できる。ソファは一見似合わないと思うかもしれないが、案内役を務めた1級建築士の黒木裕行さんは「それぞれの京町家の良さを残しながら、今の暮らしにもなじむしつらえを考えた」と話す。

 次世代に伝えたい古くて良い家。国境や年齢を超え、その魅力が広がっていく。

(写真部 小谷裕美、三村幸作)

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