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我が子がLGBT(レズビアン、ゲイ、両性愛者、トランスジェンダー)と呼ばれる性的マイノリティーとわかったら、親はどう受け止めればいいのか。拒絶すれば子どもは行き場がなくなる。かといって親として葛藤もあるだろう。東京都渋谷区が同性パートナーの証明書発行を検討するなど、LGBTへの関心が高まる中、考えてみた。

商店街を一緒に歩く松岡宗嗣さん(左)と母の成子さん(東京都杉並区)

商店街を一緒に歩く松岡宗嗣さん(左)と母の成子さん(東京都杉並区)

松岡成子さん(49)が長男の宗嗣さん(20)からカミングアウトされたのは、昨年5月の連休のこと。長女と3人、レストランで夕食の最中だった。

「彼女はできたの?」

「できてない。女の子には興味がないんだ」

驚いたり、がっかりしたりすることはなかった。思い当たる節があったからだ。

1歳半で公園デビューした時。男の子なら飛びつく砂場遊びや水鉄砲、車のおもちゃには見向きもせず、興味を示したのはタンポポの花。ライダーごっこも苦手だった。ママ友と「将来のために源氏名を考えた方がいいかも」と冗談を言い合ったほど。中学高校では、同性とよくハグをすることで有名と聞いた。

だから、同性愛者と告白を受けたその場で、こう伝えられた。「宗嗣の人生なんだから好きなように生きなさい。ただ病気の時に隣にいてくれる人が大事で、親としてはそこが心配。それが男でも女でもいい」

子どもの頃から兆候があったことが、素直に受け止められた理由と成子さん。そうでなければ時間がかかったと思うが「親が子を自分の理想に誘導しようとするのはやめた方がいい」とも話す。宗嗣さんも「親に否定されたら逃げ道がなくなる」と強調する。

早大1年生の薫さん(仮名、19)は、そうした親の態度に悩む。女性として生まれたが、小学校低学年から体に違和感を持ち、高校の時に性同一性障害とわかる。高3の夏、母に打ち明け、胸の切除などの治療をしたいと話すと、「あなたはあなた。その体でいいじゃない」と言われた。しんどさを訴えても「信じたくない」。

父は「社会に出たらいろんな生き方があるとわかり、男性に体を変えなくても生きていける」ととりつくしまがない。20歳になれば親の同意なしに治療ができると伝えたら、「もしやったら家から出て行け」。

薫さんは「すぐに理解できないのはわかるが、理解しようとしてくれないのはつらい」と苦しみを吐き出した。

こうした親の対応で悲劇的なことが起きかねない。宝塚大学看護学部の日高庸晴教授らが2005年にゲイと両性愛の男性約6000人を対象にした調査によると「自殺を考えたことがある」のは65%、「自殺未遂をした」と答えた人も14%に達した。

子どものころから自らの性的指向に悩む姿が浮かぶ。薫さんも小学生の時に「電車に飛び込んだら、高いところから飛び降りたら、と自殺を何回も考えた」という。日高教授は「少し時間をちょうだい、でもいい。親は拒絶ではない態度を示して」と話す。

ゲイであることを公表した前東京都豊島区議の石川大我さんも「LGBTの当事者も自分の指向を長い時間をかけて受け入れる。親もすぐに理解できない自分に動揺するのではなく、時間をかければいい、と思ってほしい」と訴える。「子どもの側も、だめな親、と絶望しないで」。カミングアウトを出発点とし、親子の絆を結び直す長いプロセスが始まるのだろう。

文教大のLGBTサークル代表を務める陽希(はるき)さん(19)は、高校入学前、母親(58)へ大学ノート3枚6ページにわたる告白の手紙を書いた。

「自分は多分、性同一性障害かもしれません。99.95%ぐらいです。ごめんなさい」

母親は「15歳の子が将来についてこんなに悩んでいたのか、と胸が痛くなった」。ここから本を読み、ネットで調べ、専門医へ相談にも行った。高校にかけあい、戸籍の女性ではなく、男性として受け入れてもらった。「陽希」という男性名も夫と考えた。「カミングアウトからの2~3年間で、私の中で少しずつ解決されていった」と母親は述懐する。

LGBTの子を持つ親同士が、悩みを語り合う場も広がっている。NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」は06年に神戸市で活動を始め、東京、福岡でも定例会を開催。昨年からは名古屋市でも開いている。

今月22日に神戸であった会合には親や当事者ら約20人が集まった。性同一性障害の娘を持つ奈良県の女性は初参加。「子どもを理解するのにどういうステップを踏んでいったのか、知りたかった」と真剣な表情だった。

同法人理事の清水尚美さん(61)も息子がゲイとわかって悩んだ1人。同じような親は多いと聞き、会を立ち上げた。我が子の将来を悲観して、会合で泣き崩れる親はいまだにいる。だが「社会は変わってきている。子が語り始めたら耳を傾けてほしい」と、清水さんはエールを送っている。(編集委員 摂待卓)

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