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煙を上げて走り出しそう! 段ボール製のSL「D51」

2015/3/29

 段ボールだけを使い、原寸大の蒸気機関車(SL)「D51」を作り上げた段ボール工芸家が長崎県にいる。昨年九州を出発したD51は、各地で組み立てと解体を繰り返し、終点の東京を目指して現在“快走中”だ。製作の現場を取材した。
使用済み段ボールだけを使い制作した原寸大のD51。製作費用はのり代の25000円だけ(奈良県橿原市のイオンモール橿原)

■図面作り2年、スケッチは3000枚

姿を現したSLに多くの人たちから感嘆の声が聞かれた

 3月中旬の深夜、買い物客の姿が消えた奈良県橿原市のショッピングモールに、10トントラック2台分の部品が運び込まれた。その数およそ1700点。材料の段ボールには「ばれいしょ」などと書かれ、すべて青果店やそうめん業者から譲り受けたものだ。制作者の島英雄さん(65)は「中古じゃないと機関車の雰囲気がでない。表面が波打っていたり、ガサガサしているところがいい」とこだわる。ひとつひとつ取り付ける位置を確認しながら、床に並べる作業が未明まで続いた。

 この部品、島さんが採寸と図面作りを含め、2年10カ月かけて完成させたもの。モデルにしたのは東京都北区の飛鳥山公園に展示されているD51。メジャーやスケッチブックを手に2年間、ほぼ毎日通い採寸を繰り返した。書き上げたスケッチは約3000枚。それをもとに図面を起こし、手作業で段ボールを加工した。1000カ所あるボルトも含めてすべて段ボールで再現する徹底ぶり。現在も細かい部品を追加中で、東京到着までに200カ所ほど増えるという。

 

運転台に取り付ける計器類(写真上)やホースも段ボールで作り上げた

■細部にこだわり、作業はミリ単位

 組み立て初日。早朝から若い力が助っ人に駆けつけた。地元の工業高校などの生徒たち。島さんとは50近くも年が離れ、SLが走っていた時代を知らない世代だが、2日間のべ約80人が力を合わせた。「水平とれているかな」「2センチ間をあけて」。島さんは時折図面を見ながら、センチ、ミリ単位で指示を出す。作業開始から2時間ほどで機関車本体部分がまず組み上がる。気がつくと多くの買い物客が足を止め、巨大なかたまりを囲んでいた。「全部段ボール?」。そんな驚きの声が何度も聞かれた。車輪を取り付け、運転台も載せたところで初日の作業を無事終了。参加した宇田翔さん(16)は「本物のSLがこんなに大きいとは思わなかった」と機関車を見上げ息をついた。

細かな部分を調整する島英雄さん。「段ボールのもっている荒々しさが、原寸大SLの迫力を引き立てている」と話す

 島さんと「鉄道」の関わりは小学校低学年から。知人の紹介で入れてもらった機関区(車両基地)で大好きなSLをスケッチする日々。部品の大きさを測って図面を書き続けた。原寸大の部品を厚紙などで作り、品評会などに持ち込むことも。高校生の時だった。当時の国鉄の技術者が、部品を修理する際、島さんが描き保存していた図面を見せてほしいと頼んできたこともあったという。それから半世紀、建築設計の仕事についた島さんは、しばらく「鉄道」からは離れていたが、60歳を機に仕事をやめ、子供の頃からの夢だった原寸大のSL模型の制作に取りかかった。

 

■65歳、いまだ夢の途中

 組み立て2日目。高校生たちは機関車の後ろに炭水車を組み上げた。食い入るように作業を見つめる小さな子どもたちが増えてきた。煙突や運転台の計器類など、細かな部品の取り付け作業も進み、全長20メートルの巨体が全容を現した。2日連続で組み立て作業を見学した橿原市の森下宏一さん(79)は、「迫力がありますね。なつかしいです」と目を細めた。

迫力のある車輪は今にも動き出しそうだ

 島さんは「地元の人たちが参加、協力して組み立て、展示することで地域の活性化につながれば」と期待する。次はもともと制作目標だった日本最大で最速の蒸気機関車「C62」に挑む。子供の頃から書きためていたスケッチを基に、既に図面は引き終えた。夏以降に作り始め、5カ月で完成予定だ。噂を聞きつけアメリカ、イギリス、ドイツからも依頼が来ているという。「アメリカの機関車は全長40メートル近くある。制作に1年半はかかるが、集大成としてやり遂げたい」。島さんの夢に終着駅はなさそうだ。

(写真部 編集委員 井上昭義)

次の展示は4月下旬から5月中旬まで大阪。東京には8月にやってくる。

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