株、トレーディングからバイ&ホールドへ(武者陵司)

「日本株は20余年に及ぶ長期下落が終わり、長期の上昇相場に入った可能性が濃厚だ」

3月23日に日経平均1万9700円台と15年ぶりの高値をつけ、2012年11月から始まったアベノミクス相場は28カ月間で2倍超の上昇となった。20余年に及ぶ史上最大の長期下落が終わり、日本株式は長期の上昇相場に入った可能性が濃厚と思われる。歴史的大相場の値上がり幅は、米国(1943~68年、82~2000年)や日本の高度成長期後半(1974~89年)で10倍、日本の高度成長期前半(1950~1952年、1955~1961年、1965~1973年)でも5倍であることから考えると、いまだ2倍にとどまっている今の水準は、野球にたとえるならまだせいぜい2~3イニングに過ぎないのかもしれない。

相場が若いのは高値更新にもかかわらず懐疑論が強いことからもいえる。高値更新とはいえ投資家の主力部隊はまだあまり日本株を買っていない。その第1は海外投資家だ。彼らは、日本を軽視し日本株の比率を低く抑えてきた。実際昨年までの日本株高は円安と連動していたために、ドルベースで見れば日本株はまったく横ばいだったのであり、彼らの判断は正しかった。しかし今年に入り円と株との連動性がなくなり、円安が止まった中で日本株高に弾みがついている。長期デフレの象徴としての世界最低だった長期金利は上昇に転じ、世界最低はドイツに譲った。日銀の国債購入、政府の国債発行減少など玉不足の中での金利上昇は注目に値する。また大幅なマイナスで世界最低だった実質金利が上昇している。明らかに日本のデフレ脱却を市場は織り込み始めたのではないか。その中で日本株高と為替との乖(かい)離が始まった。円安の進行はほとんど止まっているのに株高が続く。その結果ドルベースで見ると日本株が世界主要国のなかでベストパフォーマーになり、彼らは急いで日本株の比率を高めざるを得なくなっているのである。

第2に国内の機関投資家や個人投資家も悲観バイアスを強く受け、株式保有を世界最低水準まで落としたままである。かねて日本国内に根強いアベノミクス批判派は、消費税増税と円安効果の遅延による一過性の経済停滞をアベノミクスの失敗の証拠と言い募ってきた。積年のリスクテークに失敗した日本の国内投資家は、リスク回避を主張する悲観論者の影響を強く受け最近まで警戒を解かなかったのである。

3月初めまで2市場の信用買い残は6週連続で減少し、売り残もやはり6週連続で増加しており、投資家は著しく警戒的であった。2012年11月アベノミクス相場が始まって以降の大幅下落は13年5月、14年1月、14年10月の3局面があり、いずれも信用買いが積み上がり売り残の減少で信用倍率5~7倍へと大きく高まった局面であったが、今は全く逆で3倍台なのである。

そもそも長期下落相場の中で生き残った日本株投資家はトレーディング投資家である。彼らにとっては株式投資とはトレーディング(つまり安く買って高く売る、またはあらかじめ高く売って安く買い戻す)なのであり、値上がりしたところは売る場面なのである。しかしいまや局面は変わった。売るためではなく、持ち続けるための投資へと、投資家の行動様式が転換する必要がある。持ち続けることを考えれば、買い値がいくらかは大した問題ではない。借金のコストはほぼゼロ、株保有のリターンは配当だけで1.6%と、大きなキャリーがとれるのであるから、持ち続ければ大きく報われる可能性は大きいのである。必要なことはいくらで買うかではなく今株を持つことである。トレーディングからBuy and hold の定着は資本の大移動と大幅な株価の水準訂正をもたらすだろう。

武者 陵司(むしゃ りょうじ) 武者リサーチ代表、ドイツ証券アドバイザー、埼玉大学大学院客員教授。1949年9月長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券株式会社入社。企業調査アナリスト、繊維、建設、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長に就任。09年7月株式会社武者リサーチ設立。主な著書に「アメリカ 蘇生する資本主義」(東洋経済新報社)、「新帝国主義論」(東洋経済新報社)、「日本株大復活」(PHP研究所)、「失われた20年の終わり」(東洋経済新報社)、「日本株100年に1度の波が来た」(中経出版)、「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。
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