ラッスン・あったかい、リズムネタが若者に受ける理由日経BPヒット総研 品田英雄

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今を象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のヒットワードは「リズムネタ」。お笑い界で“リズムネタ”“音楽ネタ”が大ブームになっています。

2015年に入ってお笑い界は“リズムネタ”“音楽ネタ”が大ブームになっている。と同時に、様々な議論を巻き起こしている。それは、お笑い界の大先輩たちが(ビートたけしや松本人志らも含まれる)、「おもしろいとは思わない」「素人の芸と変わらない」「この程度の内容ではすぐに飽きられる」といった内容の否定的な発言をして、賛否の意見がネット上で飛び交っているからだ。

だが、一般の人たちの人気は高まるばかり。今やお笑いは、才能あるタレントが優れたネタを披露するものではなく、見た者聞いた者が一緒に楽しめるおもちゃのような存在になりつつあるようだ。

8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」を、ほかの芸能人がテレビ番組でマネしたり一緒に演じたりして、話題を呼んでいる

リズムネタとは、リズムにのせてギャクを次々と繰り出すもので、かつてオリエンタルラジオが大人気になった「武勇伝、武勇伝~」や、藤崎マーケットの「ラララライ体操」などが有名だ。音楽ネタでは「なんでだろう~、なんでだろう~」のテツandトモなどが記憶に残る。

そして今、このリズムネタを覚えておかないと若者のお笑いを理解できなくなっているのが以下のフレーズとコンビ名だ。

【1】 「ラッスンゴレライ」 by 8.6秒バズーカー

その代表が、大阪府出身のはまやねん(24)と田中シングル(24)がコンビを組む吉本興業所属の8.6秒(ハチテンロクビョウ)バズーカーだ。リズムにのせて「ラッスンゴレライってなんですのん?」「ちょっと待てちょっと待てお兄さん」と始まり、わかるような、わからないような話が繰り広げられる。手拍子のリズムとそれに乗る言葉のテンポが楽しい。そろいの赤いシャツと赤いパンツ、黒いサングラス黒のネクタイと、見た目のインパクトも強い。

年末年始のお笑い番組に出演するとお笑い好きの間で話題になり、ユーチューブでの再生回数はすでに2000万回を超えている。その様子をまねる人たちが現れ、撮影した動画を次々とネットにアップしている。ほかの芸能人もテレビ番組でマネしたり一緒に演じたりして、さらに話題を呼んでいる。デビューから1年に満たない3月18日には、吉本史上最速でDVD『ラッスンゴレライ』を発売した。

【2】 「ダンソン、フィーザキー」 by バンビーノ

続いてリズムネタで話題になっているのがバンビーノ。同じく吉本興業所属で愛媛県出身の石山大輔(30)と大阪府出身の藤田裕樹(29)のコンビだ。

バンビーノ、初のDVD『バンビーノ#ダンソン(バンビーノ ハッシュタグ ダンソン)』が3月31日に発売される

ダンシングフィッソン族という架空の部族が動物を狩りするコント。足を大きく踏みならしながら、「ダンソン、フィーザキー、ドゥーザディーサーザコンサ」と呪文のような言葉を叫びながら獲物の動物を呼び寄せる。

テレビ番組「キングオブコント」に出演すると、若い人、特に高校生の間で人気となり、学校で一緒に踊るという光景が見られるようになった。今では中学校から小学校へと広がっている。最近では、8.6秒バズーカーとのコラボバージョンも行われるようになり、リズム芸人として集客力を伸ばしている。バンビーノも初のDVD「バンビーノ#ダンソン(バンビーノ ハッシュタグ ダンソン)」を3月31日に発売する。

【3】 「あったかいんだから~♪」 by クマムシ

一方、音楽のネタで大人気になっているのが、ワタナベエンターテイメント所属のクマムシ。富山県出身の佐藤大樹(26)と埼玉県出身の長谷川俊輔(29)がコンビを組む。

クマムシのシングルCDは、オリコン週間ランキングの10位に入った

元々、アイドルソングをテーマにした漫才を得意としていたが、坊主でひげ面の長谷川がほほに手を当てながら可愛く歌う「あったかいんだからぁ~♪」が音楽番組で紹介されると、ももいろクローバーZや乃木坂46のメンバーがこのポーズをマネしながら歌って話題になった。ほかにも、SEKAI NO OWARIが歌うのをきゃりーぱみゅぱみゅがネットで公開したりして、一気に広がった。

この人気に、2月4日にはユニバーサルミュージックからシングルCDが発売になり、初週で1.2万枚を売り上げ、オリコン週間ランキングの10位に入った。その後、CMにも使われるようになり、お笑いの枠を超えて多くの人の耳に届き始めている。

【4】 「もしかしてだけど~♪」 by どぶろっく

こちらは2014年の流行語大賞候補になるのではないかと噂された「もしかしてだけど~♪」。歌うのはともに佐賀県出身の森慎太郎(36)と江口直人(36)のコンビ、どぶろっく。浅井企画に所属する。

ギターを抱えて「もしかしてだけどぉ、もしかしてだけどぉ、それって俺を誘ってるんじゃないの~♪」と、素直になれない女性たちに捧げるという名目で、男性の妄想を歌にしている。共演者をネタにすることも多く、芸能界にファンが多い。

彼らは昔から存在した音楽を使った漫才ともいえるが、このところのリズムネタ、音楽ネタ人気で注目されている。

お笑い界では、リズムや音楽を使ったネタは覚えやすく一気に広がることが多いが、飽きられるのも早いと言われる。また、内容のユニークさや斬新さが乏しいということで、評価は必ずしも高くない。

だが、若い人たちの人気ぶりを見ると、お笑いに求めているものが変化していることを感じる。かつては、予想もつかなかった発想を見せられて笑うのが漫才やコントだったが、最近では、自分たちも歌い、踊り、映像に収められること、自分たちが主役になれることが重要な要素になっている。だから、覚えたくなるフレーズやマネしやすい見た目が大切になる。音楽がCDを聞くことからカラオケで歌うことが重要になったように、お笑いも楽しむことから演じることへ重心が移りつつあるようだ。

この背景には芸能事務所の事情も絡んでいる。

(1)まず、お笑いの学校を作ったことで定期的に大量の新人がデビューするようになった。(2)その結果、競争が激化し少しでも目立ってテレビに出られるようにと、一発芸が増えている。(3)それをマネしてネットにアップする人たちが増え、芸歴が浅くても人気になるタレントが増える。(4)同時に、事務所もCD、DVD、着ボイス、配信、キャラクターグッズなど、すぐにおカネにするノウハウを充実させる。

受け手、送り手、両方のニーズがリズムネタ、音楽ネタを増やしている。この勢いはしばらく収まることはないだろう。

品田英雄(しなだ・ひでお)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。