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主婦が40歳で正社員に、後押しした「学び」

2015/4/30

日経DUAL

 新しいことに挑戦するためには、時として、自分に無いスキルを身につける勉強が必要になります。新たな世界にチャレンジした人達は、どんな勉強をしていったのでしょうか。改めて勉強し直し、新たなキャリアへとつなげた女性を紹介します。大学卒業後、すぐに結婚し40歳まで働いたことがなかったという女性は、どうやって「40歳の新人正社員」になれたのでしょうか。

■子育てがひと段落。たっぷりある時間で「社会に役立つことをしたい」

――正社員の経験が無かったんですね。

 ええ。地方の国立大学を出て、すぐに結婚したものですから。教育学部だったので、周りにも一般企業への就職活動をする人があんまりいなかったんです。私はもう結婚も決まっているし、就職活動はしなくてもいいかな、と。学生時代にアルバイトくらいはしたことありますけどね。

伊藤友子さん(仮名)
 神奈川県在住。大学卒業後、就職せずに結婚。以来、18年間を専業主婦として過ごす。娘の中学入学を機に何か社会で役立つことをしたいと考え始める。日本女子大学リカレント教育課程で学び、法律事務所の事務職として就職。夫、大学生の息子と高校生の娘の4人家族。
伊藤さんの歩み
●大学卒業後、結婚。
●40歳、日本女子大学リカレント教育課程を受講
●41歳、法律事務所に就職。事務スタッフとして勤務

――ずっと専業主婦をされてきたのですか。

 夫は会社員ですが、とにかく出張の多い仕事でして、長期間、家を空けることもしょっちゅうなんです。夫も私も実家が遠方なので、親を当てにできない。どうしても子育ては私が中心にやらなければなりませんから、自分が働くことは考えたこともありません。子どもは大学生の息子と高校生の娘です。

 娘が中学に入って部活を始めると、朝、家を出たら19時くらいまで誰も帰ってこないという状況になりました。それで「私、すごく時間があるなぁ」と気づいたんです。習い事も色々しましたけど、限界がありますよねぇ。

 暇だからアルバイトくらいしようかと思ったんですけど、いかんせん仕事の経験が無い。学生時代にしたことのある接客ならできるかな、と考えたんですが土日に働くとなると、家庭に支障が出るかもしれないでしょう。それで悩んでいたときに、日本女子大学リカレント教育課程(以下、リカレント)をテレビで知ったんです。

日本女子大学リカレント教育課程
 育児や夫の転勤などで離職した女性に1年間(入学は4月と9月)のリカレンント(再教育)を提供する、2007年からスタートした実践講座。企業会計や簿記、貿易実務、ビジネス英会話など大学院レベルのビジネスに特化した専門教育を施し、企業で再び働ける人材に育て、再就職先のあっせんも行う。受講資格は大卒以上の女性。20~50代の女性が学ぶ。http://www5.jwu.ac.jp/gp/recurrent/index.html

――リカレントのどういうところに興味を持ったのですか。

 普通の習い事じゃなくて、何か社会に役立つことを習いたかった。リカレントはパソコンや英語、ビジネススキルを学んで社会に出る訓練をします、ということだったので、あ、私にぴったりかもって。

 それまで6000~7000円の月謝で英会話を習っていましたから、パソコンと英会話、他にも色々習えるなら、年間24万円という学費は案外お得かもと思いまして。今考えると、何か新しい世界に行ける、どこか遊びに行くような感覚だったかもしれませんね。絶対に就職したいとまでは思っていませんでしたから、視野を広げる中で、一つの選択肢として働くというのもあるかな、というくらいの意識でした。

――ご主人はリカレントに行くと言ったとき、どういう反応でしたか。

 基本的に私がやりたいことは自由にやらせてくれるので。子どもが小さいうちは家にいてくれないと、という雰囲気でしたけど、下の子が中学生にもなれば、そんなに親が必要ではなくなってくるし、まぁいいんじゃない?って感じでしたよ。

 実際にリカレントに通うようになると、帰宅が遅くなる日もあって、子どもには「今日は遅くなるから、お米をといでおいて」なんてお願いすることもありました。親離れ子離れのいい期間だったかもしれませんね。

■2度めの大学生活スタート。同級生に触発されて資格も取得

――久しぶりの大学生活はどうでしたか。

 すごく楽しかったですね。目的を持って何かを頑張ろうという人達が集まっていて、世代も違うし、住んでいる地域も様々で。とても刺激をもらいました。

 お友達になった方がとても真剣で、「せっかく入ったんだから何か資格を取らない? これ楽しそうよ」と言われたのがきっかけで、消費生活アドバイザーの資格に挑戦しました。最初は資格を取るなんて考えていなかったんですよ。頑張る人が隣にいるのは、モチベーションを保てるし、新しいこともできてすごくよかったです。

――同級生はどんな方達だったんですか。

 20代後半から50代までの方達がいました。結婚されている方、お子さんが小さい方、独身の方と、環境、経歴とも色々でしたね。パソコンでポスターを作るグループ作業があったんですが、私はパソコンが全然分からない。そんなときは若い方達が教えてくれて、逆にこっちが知ってることは教えてあげたりして、今でも彼女達とは一緒に旅行に行くくらい仲良くしています。

――講義の中で苦労したものはありますか。

 パソコンですね。最初は先生の言っている言葉が日本語に聞こえませんでした。「USBを用意してください」って言われたときも、何のことだろう?と思ったくらいで。

 タイピングを練習して、エクセルやワードも課題をこなすことで覚えました。どうしてもわからないときは、若い方からメーリングリストを通じて教えてもらって。

 先生から言われてMOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)を取りましたので、それなりにはできるようになりました。このスキルを生かして、子どもの学校の広報紙をパワーポイントで作ったりもしてみました。

 英語は苦ではなかったんですが、他の皆さんも英語は得意な方が多くて、TOEIC900点以上の方もいらっしゃいました。私、リカレントに通って初めてTOEICを受けてみたんですが、700点は何とか越えられました。

 大人になって時間とお金をかける以上は、やっぱりある程度結果を残したいというか、しっかり学びたかったので、本当に一生懸命勉強しました。

――社会人経験のある方とご自身とで違いを感じましたか。

 それが正直言って、違いを感じることはなかったんですよね。専業主婦のお母さん達の世界も、社会といえば社会。常識のある人もいれば非常識な人もいるし、注文が厳しい人もいれば穏やかな人もいる。いろんな人がいる中で子どもの学校の役員をしたり、地域活動したりしてますから、外で働くこととそんなに変わりがないんじゃないかと思いましたね。

■通勤、コピー取り、書類作り……初めての経験に毎日ワクワク

――就職はどんなふうに決まったんですか。

 リカレントの先生に「就職はどういうところがいいですか」って聞かれたんです。そのとき漠然とですけど、大学とか法律事務所がいいと答えました。自分のデスクで何時間も座ったまま仕事をするのは嫌だったんです。法律事務所はお使いが多いと聞いていたので。書類を裁判所に持っていくとか、普段行けない所に行けそうだな、と思って。リカレントで法律を勉強して楽しかったというのも、法律事務所に興味を持ったきっかけですね。しばらくして、ある法律事務所の面接の話をいただきました。ちょうど、10月の消費生活アドバイザー試験に向けて勉強しているころだったので、面接の練習にもなるかなと気軽な気持ちで受けました。

――就職の面接が、資格の面接の練習になると?

 そのときは資格試験で頭がいっぱいで。そもそもリカレントに来る求人はキャリアがあることが前提だと思っていたので、私は就職は難しいだろうと思っていたんですよ。でも、せっかくいただいた話だから面接を受けましょうか、というような気持ちで。

――面接はどうでしたか。

 家族構成とか、通勤できるかとか、簡単な質問だけでしたね。あと、「うちの事務所は企業法務が中心だから、サスペンスドラマみたいに女性が泣きながら来ることはありません」とか。私は法律事務所ってそんな感じのところだとイメージしていましたから、あ、そういうのは無いんだ、と思いました。

――それで、正社員として採用されたんですね

 はい。客観的に見たら、私という人間よりは、社会的に安定した職に就いている夫がいて悪いことはできないだろうという、自分の持っている条件にかなり助けられたという部分が大きいような気がしますね。

――仕事のほうはどんな感じですか

 勤務は9時半から18時まで。事務所の先生達は、やるべきことをしっかりやってさえいれば、細かいことは言わないですね。法務局や銀行へのお使いとかもありますし、思っていたのとだいたい同じです。

 顧問先の社名を覚えるのがちょっと苦手でしたけど、表を作って間違えないようにしました。最初のころは「株式会社」が社名の上でも下でも、どっちでも一緒じゃない?って思ってたんですよ。一緒じゃないんですね。

 エクセルで書類作りを任されることもあるので、リカレントで学んだことも役に立っています。

――お給料やボーナスも初めて手にしたわけですね。

 独り立ちしてやっていけるほどの収入かどうかは分からないんですけど。やはり家庭をベースに考えると、残業が無いことやお休みがきちんと取れることは大切です。その点、今の職場はありがたいと思っています。私の中ではお給料とかそういうことより、実際に働くことが大事なので満足しています。とはいえ、やっぱり同じお金でも、自分だけの収入って夫の給料とは何だか違った感覚がしますね。

――仕事を始めてからのご家族の反応はどうですか。

 夫には「楽しそう。仕事に行っているようには見えないね」って言われますが、家にいるときは家事は何でもやってくれます。会話の内容も以前とは変わってきたのが楽しいですね。息子は「最近、出来合いのお総菜が増えた」って私の母に告げ口していたようですけど、特に問題はありません。

――ずっと仕事をしていなくて、働くことを諦めている人に先輩として言いたいことはありますか。

 私の場合はリカレントが無ければ絶対に就職できなかったと思います。キャリアが無いから大きい会社はまず無理だと分かっていたし、派遣社員になったとしても売り込む材料がない。それでも働きたいのであれば、リカレントのようなところでリハビリというか、社会に出る準備をすることは必要だと思いますね。会社は何もない人を受け入れることはしないと思うので。私は超レアなケースですけど、こういう人もいるんだから、働きたい気持ちが少しでもあるのであれば、あきらめないで新しい世界へと一歩踏み出して欲しいです。そんなに難しい事ではない気がします。

(ライター 田北みずほ)

[日経DUAL2015年1月16日付の掲載記事を基に再構成]

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