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「諸説オッケー」で楽しもう 「インドの仏」展 みうらじゅんさん&いとうせいこうさんと巡る

2015/3/20

 東京・上野の東京国立博物館で開催中の「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」展(日本経済新聞社ほか主催)は、古代インドの貴重な仏教美術を見られる特別展だ。「インド仏像大使」として展覧会のPRを担当しているのが、イラストレーターのみうらじゅんさんと作家・クリエーターのいとうせいこうさん。大の仏像マニアとして知られる2人に会場を案内してもらった。
会場を歩くみうらじゅんさん(右)といとうせいこうさん。ともにイチオシの「シースルー」こと「仏立像」に興奮。(16日、東京・上野の東京国立博物館)

 「いいわー、ほんといい顔してる」。展示室の入り口に立つ砂岩の仏像を見て、みうらさんが歓声を上げた。展覧会のポスターにも使われている「仏立像」だ。5世紀にインドの仏像制作の中心地サールナートでつくられたこの仏像、みうらさんといとうさんは「シースルー」と呼んでいる。シースルーって?

 「着てるものがさ、ぴったぴたに張り付いて、体が透けてるでしょ。シースルーですよ。見てよ、この膝。特に右の膝ね。シースルーごしに(膝が)出るか出ないかのこの表現はすごい」と興奮を抑えられない様子のいとうさん。薄衣が肌に密着して、ほとんど体と一体化しているのがサールナートの仏像の大きな特徴だ。

 「でもさ」。「シースルー」をしげしげと観察していたみうらさんが首をかしげる。「やっぱりわかんないよね、このシースルーがどういう服なのか。裾のところがなんだかバスタブに漬かってる足みたいに見えるんだけど。これどういう構造の服なの?」。一方、いとうさんが着目したのは仏像のへその下に引かれた1本の線。「これはさ、下にパンツを履いてるってことじゃないの? で、その上にシースルー」。「パンツ・アンド・シースルーね。なるほど」(みうらさん)

 仏像を見ていきなり下着をチェックするというマニアックさは、さすがインド仏像大使。でも、仏像の見方は自由だ。どこに注目しても、変なところをじろじろ見ても、インドの仏たちは深いみ心で許してくれるだろう。

 この展覧会では仏像だけでなく、浮彫(うきぼり)作品が大きな見どころになっている。その一例が「法輪の礼拝」。みうらさんが「フォーリン(法輪)ラブ」と呼ぶ紀元前2世紀の浮彫だ。「ひざまずいている人の足元に落雁(らくがん)がある!」とここでもみうらさんの意表を突いたチェックが。「この浮彫の形のまんじゅうとか作ってミュージアムショップに置いたらよく売れそうじゃない。体に法輪を入れる、って御利益ありそう」(みうらさん)。実は古代仏教では長い間、仏像は作られなかった。その代わりに、ブッダの姿を法輪などで象徴的に表したといわれる。「昔のインドの人はストゥーパ(仏塔)に祈ったので、仏像は必要なかったんだね。でもブッダから(時代や距離が)離れるにつれて、その姿を表したものが欲しくなっていったということなんでしょう」といとうさんに教えられた。

 浮彫「四相図」の前で足を止めた2人。この作品は4コマに分かれていて、下から順に誕生、悪魔を退散させたときの様子、初説法、涅槃(ねはん)と、ブッダの生涯を表現している。「『2階、悟りの部屋でございまーす』って感じだね」(みうらさん)。「デパートのエレベーターじゃないから」(いとうさん)。ブッダは80歳まで生きたが、その長い生涯が一つの作品の中で表現されている。いとうさんは「これ見ると、人生あっという間という感じがするね。むなしいなあ」としみじみ。展示室で突然「諸行無常」を感じてしまったようだ。

 仏像の大きな魅力はやはりその顔だ。「インドの仏」展でもイケメンや“変顔”(変な表情)の仏像が多数出品されている。彫りの深いガンダーラの仏座像を前にしたいとうさんは「これはもうハリウッドスターだよ。ギリシャ文化とのミクスチャーがいいよね」とすっかり気に入った様子。一方、インド北部のマトゥラーでつくられた仏座像のほんわかした笑顔を見たみうらさんは「この人、俺好きだわ」とつぶやいた。だが2人が最も興奮したのは、2世紀にガンダーラ地方でつくられた「弥勒菩薩(みろくぼさつ)坐像」。たっぷりとしたひげをたくわえたこの仏像を、2人はあの映画俳優、チャールズ・ブロンソンになぞらえて「ブロンソン」と呼ぶ。「顔、角度によって全く違って見えるね」(みうらさん)。「ブロンソン、何人(なにじん)なの? 全然インド人っぽくないんだけど」(いとうさん)

「仏と同じ空気の中にいられるのがすごい」と言うみうらじゅんさん

 仏像の姿かたちに次々に細かいツッコミを入れる2人だが、世界各地の仏像を見てきただけに鋭い指摘も。2世紀につくられた「仏三尊像」を見たいとうさんいわく、「この仏の頭上に垂れ下がったブドウ、インドの仏像にはあるけど、中国や日本の仏像ではなくなるんだよね」。これをみうらさんは「ひょっとしたらキリスト教の『パンとブドウ』のモチーフが入っているのかもしれない。でも、仏教が東に広がっていくうちに、ブドウは要らないってことになったんじゃないかな」と読み解いた。「うんうん、有力説だね。真偽はわからなくても、仏像を見るときは『諸説オッケー』でいいんだよ」と応じるいとうさん。古代インドには歴史文献がほとんどないため、仏教美術についてもわからないことだらけだ。ならば勝手に、仏像に込められた意味を想像してみるのも楽しい。

「仏像を見るときは『諸説オッケー』でいい」と語るいとうせいこうさん

 展覧会では個性的な密教の彫刻も数多く見られる。いとうさんがしびれたのが「摩利支天立像」。4つの顔と8本の手を持つ女尊だが、その見事なプロポーションに目を奪われる。「みうらさん、こんなグラビアアイドルいるんじゃない?」「いるいる。こんなコいるよー」。実は東京国立博物館からほど近い上野広小路にある徳大寺は摩利支天を祭っているお寺だ。「つまり江戸の摩利支天とインドの摩利支天が今すごく近くにいるんだよね。そのことに僕は不思議な因縁を感じる。徳大寺の摩利支天は秘仏なので見られないんだけど、展覧会を見たらあわせてお参りするといいよね。日仏……じゃなかった、日印の仏教文化の距離と歴史を考えるきっかけになると思うな」といとうさん。

鋭いツッコミを入れながら展示物を見るみうらじゅんさん(右)といとうせいこうさん(16日、東京・上野の東京国立博物館)

 最後に、展覧会の楽しみ方を2人に尋ねてみた。

 「ケースに入れずに展示してある作品が多くて、仏と同じ空気の中にいられるというのがすごい。これはエンタメ入ってる展覧会。友達なんかと一緒に見に来て、気になったところをいろいろ話しながら見て回ると楽しいと思う」(みうらさん)

 「作品の背面も見られるように展示されているので、普通は見られない仏像の裏側とかもじっくり見てほしい。インドの仏をよく見ることで日本の仏像のこともよくわかるようになるはず」(いとうさん)

 展覧会は5月17日まで。

(文化部 干場達矢)

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