室内楽レア物目白押しの「東京・春・音楽祭」古典派マラソンと武満徹に注目

東京・上野公園一帯では桜の開花に先立ち、11年目に入った「東京・春・音楽祭」が開かれている。発足当時の名称が「東京のオペラの森」で目下、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」4部作の連続上演に挑んでいることから、オペラ中心の催しと思われがちだ。実際には音楽ホールだけでなく博物館、美術館などの公共施設でテーマごとに様々な時代や国の室内楽を奏でる音楽祭としても、かなりの充実度に達している。

リヒテル生誕100年を特集

今年はロシアのというか、旧ソ連時代を代表するピアニストで知日家だったスビャトスラフ・リヒテル(1915~97年)の生誕100年に当たる。「東京・春」でもピアノのエリーザベト・レオンスカヤやアレクサンドル・メルニコフ、結成70年のボロディン弦楽四重奏団らロシア系の演奏家がこぞって室内楽を奏でるほか、記念写真展を東京文化会館小ホールへ向かうスロープで開催する。

ロシア勢大量進出の傍らで目立ちにくいが、日本の演奏家の室内楽にも「レア物」の大胆な演目が目白押しだ。

「東京春祭マラソン・コンサートvol.5」に出演するフルートの有田正広

中でも壮観なのは「古典派~楽都ウィーンの音楽家たち~音楽興行師ザロモン(没後200年)と作曲家」と題した連続演奏会。「東京春祭マラソン・コンサート」のvol.5として開かれる。ウィーンに詳しいヨーロッパ文化史研究者、小宮正安横浜国立大学准教授が企画構成と解説を受け持って4月5日まる1日を5部に分け、東京文化会館小ホールで繰り広げる。ヨハン・ペーター・ザロモン(1745~1815年)はドイツ人の作曲家でバイオリン奏者、指揮者だが後世に残るのは興行師、今風に言えばプロデューサーとしての業績だ。ハイドンに交響曲を発注して演奏権を握り、家庭でも楽しめる室内楽編成の楽譜を出版したり、モーツァルトの交響曲にニックネームをつけて売り出したりと、今日からみた古典派音楽の普及に大きな力を発揮した。

ウィーン古典派の仕掛け人、ザロモン

午前11時開演の第1部は「ベルリンvs.ウィーン~2つのライバル都市の物語」でベルリンのカール・フィリップ・エマヌエル・バッハとフリードリヒ大王、ウィーンのグルックとザロモンの作品を対比させる。フルートの有田正広ら古楽の名手が奏でる。午後1時開演の第2部は「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」。松山冴花(バイオリン)、津田裕也(ピアノ)らによる室内楽だが、ソプラノの佐竹由美による声楽曲や交響曲第96番「奇跡」第2楽章のザロモン編曲など珍しい編成の版を交えている。午後3時開演の第3部は「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト」。やはり室内楽編成で歌劇「魔笛」や交響曲第40番(フンメル編)が聴ける。テノールは鈴木准。午後5時開演の第4部は「ルートビヒ・ファン・ベートーベン」。再び松山、津田らが出演し、「戦争交響曲『ウェリントンの勝利』」のピアノ三重奏版はじめ、マニアックな選曲。午後7時開演の第5部は「ウィーン&ロンドン~音楽マネジメントの残したもの~」。第2部以降の出演者が集まり、ハイドンとモーツァルトそれぞれ最後の交響曲の室内楽版のほか、音楽学者として有名だったチャールズ・バーニーが作曲した「4手のためのピアノ・ソナタ第3番」もある。

めったに聴けない武満徹の室内楽特集

もう1つの大胆な室内楽イベントはニューヨーク在住のバイオリニスト、川崎洋介が企画して4月10、11日の2日間、国立科学博物館の日本館講堂で行う「武満徹の世界~川崎洋介と仲間たち」だろう。来年で没後20年となる武満(1930~96年)の作風、音の感覚は生前から「ドビュッシーに相通ずるものがある」と、しばしば指摘されてきた。

来年で没後20年となる作曲家、武満徹(写真提供=kajimoto)

川崎は「天と地」というテーマに沿って、ドビュッシーを意図的に遠ざけた。同じフランス近代でも「バルトークと同じく民族性やジャズの要素といった現世的なもの=地」を感じさせるラベル、敬虔(けいけん)なカトリック信者で宇宙や自然界にも目を向け、「天を体現している」のが明らかなメシアンを組み合わせた。

川崎とウォルフラム・ケッセル(チェロ)、バディム・セレブリャーニ(ピアノ)の三重奏にクラリネットのショーン・ライスを加えた「トリオ・プラス」が両日とも出演。この編成はメシアンが第2次世界大戦中に収監されたドイツ軍の捕虜収容所で世界初演した「時の終わりへの四重奏曲」のためのものだが、武満にも同じ編成の名作で「カトレーン2」がある。

「武満徹の世界」の核を担うバイオリンの川崎洋介(写真中央)とピアノのバディム・セレブリャーニ(左)、チェロのウォルフラム・ケッセル(右)

10日は「カトレーン2」とラベルの室内楽。11日はメシアンの四重奏曲に武満のピアノ曲「雨の樹素描2~オリビエ・メシアンの追憶に~」、バルトークの「コントラスツ」などを組み合わせる。「世界で知名度の高い武満だが、室内楽がまとめて紹介される機会はとても少ない。今回、自分のトリオのメンバーを海外から呼び、珍しい演奏会をできるのは大変に光栄なこと」と、川崎は意気込みを語っている。

(電子報道部)