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足湯機で足を温める田沢タミ子さん(写真左)と、介助するふれあい家族代表の中田覚史さん(1日夜、川崎市)

足湯機で足を温める田沢タミ子さん(写真左)と、介助するふれあい家族代表の中田覚史さん(1日夜、川崎市)

デイサービスと呼ばれる介護施設で日中に入浴や食事の介助を受ける高齢者が、夜もそのまま泊まる「お泊まりデイ」が大都市を中心に広がっている。宿泊は介護保険制度外のサービスなので、実態がわかりにくく、事業者によるサービスの質の格差も指摘されている。

1日午後8時すぎ、川崎市にある民間デイサービス事業所の「ふれあい家族」。田沢タミ子さん(82)は、足湯器で足を温めていた。3年前に脳梗塞を患い車いすの日々。事業所代表の中田覚史さん(42)にタオルで足を拭いてもらいながら、「日中、慣れ親しんだ場所で夜も過ごせる。娘にも迷惑をかけられない」と話す。同9時、中田さんの介助でベッドに入った。

田沢さんは要介護度5。2012年9月から、ふれあい家族のデイサービスを利用し始め、まもなく宿泊するようになった。今は月1日帰宅するだけ。近くに住む養女のみすずさん(67)が2日に1回、着替えを持って訪れる。

「母は脳梗塞のリハビリで(介護施設の一つである)介護老人保健施設に3カ月入所した。その後、特別養護老人ホーム(特養)と、1回につき連続で30日間まで泊まれるショートステイという施設を探したが、いずれも満杯だった。それでデイサービスを使いながら空きを待つことにした」とみすずさん。だが自身の視力が低下し、自宅でデイから帰宅後の母を介護するのは難しくなった。

介護計画を作るケアマネジャーに相談したところ、ふれあい家族の宿泊サービスをケアプランに組み込んでくれた。「助かった」。みすずさんの実感だ。

この日は田沢さんのほか、認知症の女性2人が宿泊。1人は週1回、もう1人は独居で月1日、帰宅するだけだが、成年後見人が定期的に訪れる。お泊まりデイが介護保険ではなく、事業者側の自主サービスであることを家族などは承知している。

中田さんは「デイサービスに親を預ける男性から、残業で帰宅が遅くなる。夜も預かってほしいといった急な相談もある。断りにくい」と話す。もともとデイサービスの開業要件として静養室が義務付けられ、休養するための場所と寝具はある。先行事例はある。宿泊業に関する法令も調べ、12年2月のデイ開業と同時にお泊まりを始めた。

ふれあい家族のデイサービスは、午前9時30分から午後6時40分まで。ここまでが介護保険を適用され、利用者は1割を負担する。その後、翌朝の午前9時30分までがお泊まりだ。料金は1泊朝食込みで1350円。田沢さんは毎月約30日のデイサービスとお泊まり合計で15万~16万円を払う。特養の料金体系に近いものだという。

中田さんは「お泊まりデイを全国展開する事業会社の料金を参考にした」と話すが、利用者の経済的負担を考えると、高くできないのが実情だ。もっとも宿泊サービスにより、デイサービスの利用者を囲い込み、事業所の採算は何とか確保できている。

お泊まりデイを担当する夜番は1人だ。午後5時から翌朝10時まで一睡もしない。これをスタッフ10人のうち、中田さんを含む5人のローテーションでこなす。トイレの介助とオムツ替えは頻繁だ。夜番1人で世話できるのは2~3人。それを超えると、サービスの質が落ちるし、不測の事態を招く可能性があるという。

川崎でお泊まりデイを手がける事業所は増えて50カ所ほどある。行政の目が届きにくく、中には食事の内容がひどかったり、10人以上を大部屋に雑魚寝させたりする事業者もあったりしたという。

お泊まりデイは介護保険制度外のいわばすき間産業。国は日中のケアの延長という考え方で黙認してきたが、サービスの内容や施設に関してガイドラインを設けようとしている。神奈川県と川崎市も実態の把握に動く。あるケアマネは「市担当者はお泊まりデイ抜きに地域の介護は成り立たないと認識しているはず」と話す。

ただ、モラルの低い事業者が存在するのは事実だ。中田さんはだからこそ、「家族やケアマネ、市の介護担当者に施設を見に来てほしい」と訴える。消火設備、非常口、間仕切りがあるベッドだけではない。スタッフが高齢者とどう接しているかまで、情報発信する考えだ。

<業界団体は自主基準>

介護保険の制度外サービスである「お泊まりデイ」を展開するデイサービス事業者は、サービスの質の向上を目指し2013年7月、業界団体「お泊りデイサービス協会」(東京・文京)を設立した。現在、1014事業所が加盟。14年6月には連泊日数の上限や自治体への事故報告などを定めた自主基準を設け、認知度アップに懸命だ。

自主基準は、(1)利用者に連続して宿泊サービスを提供する日数の上限は原則30日(2)東京都など国に先駆けてガイドラインを定める自治体でサービスを行う事業者は、自治体の基準を守る(3)事故が発生した際は、市区町村に連絡する――などを盛る。

協会調べでは全国で3万5000強のデイサービス事業者のうち、1割が宿泊を手がける。特養の入所待ちが全国で52万人を超える中、需要は高まるとみる。協会事務局は、「家族は施設を見学して清潔かどうか、スタッフが利用者の目線に立っているかなどを確認してほしい。地域の口コミも参考になる」と話している。

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