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 職場は仲良しグループではないものの、円滑な意思疎通には互いをよく知ることが重要だ。昨今は飲み会や昼食をともにする機会が減り、隣に座る同僚の人となりさえ知らないことが珍しくないらしい。コミュニケーションのために特別な仕掛けを施す企業が現れている。
毎週火曜午後3時におやつタイムを設定。仕事の忘れてプライベートを語り合う(東京都台東区、ウィルド本社で)

毎週火曜午後3時におやつタイムを設定。仕事の忘れてプライベートを語り合う(東京都台東区、ウィルド本社で)

「今日は桜餅ですよ。はーい集まって」。ITコンサルティング会社ウィルド(東京・台東)のオフィスに、おやつを告げる声が響く。毎週火曜午後3時から30分間、職場の全員が喫茶スペースに集まる。その間、仕事の話は禁止。「先週末スノボに行ってね」「お子さん、いくつになった?」などと趣味や家族の話題で盛り上がる。

おやつタイムは2012年に社長の大越賢治さん(39)の発案で始まった。おやつ代も会社持ちだ。「仕事柄、机を並べていてもパソコンに向かい、周囲と話をしなくても済む。社員十数人なのに互いを意外と知らなかった」。関係の薄さから、仕事のスキルやノウハウも個人にとどまりがち。おやつタイムを始めた結果、相互の親近感が高まり、コミュニケーションが取りやすくなったという。

互いを思いやる風土も根付き始めた。横尾恵さん(29)は3児の母。子どもの急病で早退する際、以前は帰りにくい雰囲気があったが、今はないという。「子どもの話をおやつ時間によくするので同僚も気遣ってくれる」

第一生命経済研究所(東京・千代田)が14年に実施した「職場のコミュニケーションに関する調査」によると、「職場で相互理解が図れている」とする回答は前回調査(10年)と比べて減った。背景にあるのはランチや就業後の飲み会などコミュニケーション機会の減少だ。

仕事の場に個人間の濃密なコミュニケーションは不要とする意見もあるが、希薄になりすぎると弊害も生まれる。企業も対策に知恵を絞る。

万協製薬(三重県多気町)は毎年全社員(約100人)を4~5人ずつグループ分けし、疑似家族をつくる。部署や年齢ができるだけ異なるように組み合わせ、上司・同僚とは違うナナメの関係を築かせる。費用を補助して定期的に食事会を開き、最後は旅行に出掛ける。有給休暇取得も促し、米国やベトナム、スペインなど海外に出向く。

きっかけは07年に離職率が20%近くになったこと。「当初は『去る者は追わず』の心境だったが、年々高まり放っておけなくなった」と社長の松浦信男さん(53)。退職者に理由を尋ねたら、職場に相談相手がいないことが原因の一つと分かった。「仕事の悩みは直属の上司・同僚に話しづらい。家族のように気楽に話せる関係をつくろうと考えた」。効果はてきめん。離職率は5%弱に下がった。

日ごろ接点がなかなか持てない人との人脈が仕事に役立つことも。開発課の服部美穂さん(38)は「サンプル品を試してもらったことをきっかけに新商品企画が立ち上がったこともある」と話す。

職場の人間関係の希薄化は長らく指摘されている。第一生命経済研究所の上席主任研究員の宮木由貴子さんは、その流れは加速しているとみる。社員の多様化が進んでいるからだ。「昔の職場は右も左も男性正社員。均一的で意思疎通もしやすかった。でも今は女性の社員、派遣やパートといった非正規社員など属性もバックボーンも様々で相互理解が図りにくい」

もちろん昼休みや終業後はプライベートな時間。職場の人間関係を無理に持ち込むことはできない。そうした付き合いを嫌う人もいる。「ただ、職場の円滑な人間関係は生産性を上げるために大切。個人の事情に配慮しつつ、職場それぞれの工夫が必要になる」と宮木さんは指摘する。

カタログ通販のフェリシモは趣味などの部活動を公認。毎週水曜の午前中を活動時間に当てている。コミュニケーションの活性化が狙いだが、会社への貢献も意識させる。例えば猫好きが集う猫部は愛猫家向けの商品約100アイテムを企画。マシュマロを猫の顔に模して焼いた「ニャシュマロ」は製造が間に合わなくなるなど、企画商品で年間1億~2億円を稼ぎ出す。

部活制度の正式名称は、しあわせ文化創造委員会。2010年秋に始まった。06年に東証上場を果たすなど組織が大きくなるにつれ、社内の和気あいあいとした雰囲気は薄れた。「社員が部署を越えて『あーでもない、こうでもない』と議論した創業当時を再現したい」。そんな矢崎和彦社長(59)の思いを形にした。

猫部はネット関連部門で働く松本竜平さん(32)が呼びかけて10年に設立。部員は現在13人。捨て猫の里親探しなどボランティア活動にも取り組む。松本さんは「部署も年齢も性別も様々。本業じゃないからこそ楽しみながら会社に貢献もできる」と話している。

(編集委員 石塚由紀夫)

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