日付まではっきり覚えています。2007年の8月8、9、10日の3日間です。リーマン・ショックは「100年に一度の危機」だといわれますが、このときに起きたのはそのさらに上、確率的には数千年に一度という異常現象でした。
この「事件」は、世間ではあまり知られていません。日経平均株価も最後の日こそ400円超下げましたが、その前の2日間は100円以上上げていましたから。それでも、これがサブプライム・ショック、そしてリーマン・ショックの予兆だったのは間違いありません。
一体何があったのか。一言でいうと、株価の割高・割安を示す指標が突然機能しなくなって、相場がまったく逆方向に動いたんです。つまり、割高なはずの株ほど急騰して、割安なはずの株ほど急落しました。初めは何が起きているのかまったく分かりませんでした。僕は当時、自分でヘッジファンドを立ち上げて運用していましたが、このときほど背筋が凍る思いをしたことはありません。本当にこたえました。やられ方が1桁違いましたから。
メカニズムはこうです。株の売買で利益を出すには、割安な株を買って値上がりしたら売り、割高な株を空売りして値下がりしたら買い戻します。つまり、最後に反対売買をして、自分が持っているポジションを手じまいしないといけません。そのために、ヘッジファンドなどは一定の利益や損失が出たら自動で反対売買をするよう取引プログラムを組んでいます。
このときが特別だったのは、市場の見方が完璧に一つの方向に偏っていたことです。みんなが同じ株を買い集め、同じ株を空売りしていました。そうするとだんだん割安株が値上がりして、割高株は値下がりしていきますよね。そんな状況で、ある巨大なヘッジファンドがポジションを巻き戻したので、相場のバランスが崩れて一斉に反対売買が起こってしまったんです。その結果、割高株が猛烈な勢いで買われ、逆に割安な銘柄がたたき売られる異常な相場が現れたというわけです。