「コピペ」建築で増殖する屋根 吉備津神社~『日本遺産巡礼』

日経アーキテクチュア

世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人として少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある。そんな「日本遺産」の中からいくつかピックアップし、現地取材に基づく「旅立ちたくなる」ようなリポートを、ほのぼのとしたイラストとともにお届けする。今回は岡山市にある吉備津神社。

岡山駅からJR吉備線に乗って20分弱。吉備津駅に着くと、そこは山間の小さな町だった。駅から少し離れた所から、水田の中に向かって参道が延びている。

松並木の間を歩いていくと、正面の山の中腹に、千木(ちぎ)を掲げた屋根が見えてくる。そこが今回の目的地、吉備津神社だ。

吉備津神社を東側から見る。右手前が拝殿、左が本殿。現在の本殿・拝殿は室町3 代将軍、足利義満の時代に約25 年の歳月をかけて建設された。本殿は入母屋の千鳥破風を前後に2つ並べて、同じ高さの棟で結んだ「比翼入母屋造」。拝殿は本殿北側に突き出す形で連続し、当初から本殿と一体で建設されたと考えられている。吉備津神社は、釜の鳴る音で吉凶を占う「鳴なるかま釜」の神事でも有名(写真:吉備津神社)

参道は急勾配の石段へと変わり、途中にある北随神門を抜けると、間もなく拝殿の前にたどり着く。そこはとても狭くて、アーケード空間のように半屋内化されている。左に回りこむと、庭が開けていて、ようやく本殿の全景が現れる。

独特の屋根形式は比翼入母屋造(ひよくいりもやづくり)と呼ばれている。入母屋の屋根が2つ並び、間に棟を挟んで融合したような格好だ。拝殿の屋根ともつながって見える屋根は、重すぎず軽すぎず、絶妙なバランスで載っている。破風が隣り合う様子は、「番(つがい)の鳳(おおとり)が翼を広げた姿」とも称される。

この屋根形式は吉備津造(づくり)ともいわれる。日本で唯一のものとされてきたが、千葉県市川市の法華経寺祖師堂の本殿に、かつては同様の屋根が架かっていたことが判明。2007年に比翼入母屋造で再建された。そのため現在は、日本に2つということになっている。

それにしても珍しい屋根形式であることに変わりはない。なぜ、こんな設計をしたのだろう。これを考えるには神社建築の発展史を振り返る必要がある。

神社建築の大型化と複数化

神社建築も始まりは形がシンプルだ。伊勢神宮と出雲大社の本殿は、平入りと妻入りの違いはあるが、どちらも単純な切妻屋根が架かっている。

これが年代が下るにつれて、次第に様々なバリエーションが生まれてくる。奈良の春日大社では、妻入りの社殿を4つ並列に配置している。また、下関の住吉神社では、同様に妻入りの社殿を5つ並べている。本殿を複数化して密に並べるという形式が広まるのである。

一方で床面積の拡大という傾向も見られる。それに応じて屋根も大型化し、切妻から入母屋へと変わっていく。10世紀に現在の形となったとされる京都の八坂神社は、七間×五間の広さを擁し、巨大な入母屋の屋根を載せている。

複数化と大型化の両方が見られるのが宇佐神宮(9世紀)で、3つ並んでいる本殿は、それぞれが平入り切妻屋根の社殿を前後に並べた格好になっている。そしてこの形式のさらなる進化が、吉備津神社と考えられる。

雨仕舞いの難しさ

吉備津神社の本殿は七間×八間で、内部は三重の構成。外陣、中陣、内陣と内側に行くほど床が高くなる。これは礼拝儀式と関連したものと考えられている。機能的にこれだけの広さを必要としていたというわけだ。

この建物にひとつの巨大な屋根を架けると、自重が大きくなって構造的に不利になる。また立面のほとんどを屋根が占めてしまい、外観が単調になるというデメリットもある。

これを避けるために、吉備津神社では屋根を分けたが、二つの屋根に挟まれた谷の部分は、雨仕舞いが難しい。それでその間を棟で結んだのである。

これにより、合理的で美しい建築が生み出された。しかし、その後の日本建築にこれは広まらない。理由はやはり雨仕舞いの問題だろうか。小さくなったとはいえ、屋根には谷の部分が残っており、そこで雨漏りが起こりやすいのだ。

実際、前述の法華経寺祖師堂(2007年に再建)では、谷の部分に金属板の雨樋を設けている。

同じ形を繰り返す、建築におけるコピペ

吉備津神社では建築の大型化に対する工夫として屋根の複数化というアイデアが採られた。これを現代に応用したのが、例えば村野藤吾の設計による大阪新歌舞伎座(1958年)だろう。この建物で村野は、ファサードを連続する無数の唐破風で覆ってしまった。

こうした外観デザインの工夫に限らず、同じものを複数並べるという手法は、建築ではいろいろなところで使われている。柱や窓などの部材は同じ形のものが並べられるし、装飾にもしばしば繰り返しのパターンが使われている。

病院には同じ病室が並んでいるし、学校には同じ教室が並んでいる。住戸を並べれば集合住宅になり、その集合住宅を並べていけば住宅団地になる。

オフィスビルもそうだ。同じフロアを積み重ねることで超高層ビルになる。超高層ビル自体を増やしてしまえば、ワールドトレードセンター(1973年)のようなツインタワーになる。

同じ形を繰り返すこと。これを今、使われている日常用語に置き換えるなら、コピー・アンド・ペースト、いわゆる「コピペ」ということになるだろう。

コンピューターの発達で簡単にできるようになった技術だが、建築設計の分野では、歴史的にこれがずっと行われてきた。建築の発展はコピペとともにあった、ともいえる。

吉備津神社の屋根を眺めながら、そんなことをふと考えた。

(ライター 磯達雄、イラスト 日経アーキテクチュア 宮沢洋)

[日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』を基に再構成]

(参考)日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』では、古都の名所「桂離宮」「龍安寺石庭」から必見の秘境「三仏寺投入堂」「今帰仁城」まで、西日本の珠玉の名所の30選をイラスト入りでリポート。これまでの旅行本とは一線を画すダイナミックな写真も見物。旅のお供にお薦めの一冊です。『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』、および両書の電子書籍も同時発売。

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