「もん」「どん」…人気ゆるキャラ、なごむ名前の法則

地域おこしや特産品PRで活躍するご当地マスコット「ゆるキャラ」。その数は今や2000を超えるとされるが、ネーミングに注目すると語尾に「~もん」「~どん」「~にゃん」がつくものが目立つ。「~くん」「~ちゃん」などの呼称に相当するものだが、こう言い換えることによって、とたんに和んだ感じがする。なにか法則性があるのだろうか。

各地のゆるキャラが集って人気度を競う「ゆるキャラグランプリ」。2010年から始まり昨年で5回を数える。グランプリからは、熊本県をPRする「くまモン」や滋賀県の彦根城のマスコット「ひこにゃん」などが全国区の知名度を誇るようになった。

北海道礼文島のあつもん=礼文町提供
能登ふるさと博のキャラクター「のとドン」=石川県観光連盟提供

その他のグランプリ参加キャラでは、白身の高級魚クエをテーマにした和歌山・白浜の「くえどん」、石川県の能登半島を売り込む「のとドン」、北海道・礼文島のラン科の天然記念物アツモリソウが由来の「あつもん」、東京・巣鴨地蔵通り商店街公式キャラクター「すがもん」なども人気で、やはり「~どん」や「~もん」を語尾に持つキャラが目に付く。

ルーツは九州方言?

もともと「どん」「もん」は、九州が由来の言葉だ。「どん」は鹿児島弁で「~さん」「~殿」を意味する呼称。「もん」は熊本弁で「者」を指し、ゆるキャラの「くまモン」は「熊本者」を意味している。どうやら、和むゆるキャラのネーミングの共通要因の一つとして、九州方言が深く関係しているようだ。

「どん」という鹿児島弁は薩摩藩時代から使われている。鹿児島方言研究会の種子田幸広氏によると、「薩摩藩では、下級武士も藩政をつかさどる上級武士も、仲間を呼ぶ時の呼称として同じように『どん』を使っていた」。上級武士は同じ階級同士で「どん」と呼び合い、下級武士も同輩に「どん」を使っていた。

名前に「どん」「もん」「にゃん」
などがつくゆるキャラ
名称所属自治体
どん系のとドン石川県
ひこどん滋賀県彦根市
くえどん和歌山県白浜町
もん系あつもん北海道礼文町
オカザえもん愛知県岡崎市
くまモン熊本県
にゃん・
ぴょん系
きみぴょん千葉県君津市
ひこにゃん滋賀県彦根市
萩にゃん山口県萩市

仲間を呼ぶ際の共通の呼称があったことで、幕末に下級武士と上士が手を結んで藩としてまとまることができ、江戸から明治にかけ有力藩として活躍できたというわけだ。西郷隆盛を「西郷どん」と呼んで多くの人が親しんだのはその代表例。「『どん』呼称には、対人関係の壁を無くす万能性がある」(種子田氏)という。

九州の武士階級が普段呼び合っていた「どん」「もん」は、庶民の間でも使われていたようだ。昔話や伝承に詳しい小澤俊夫・筑波大学名誉教授は、「格式張らない対人関係を示すのに、庄屋や名主など村の長に対して『どん』呼称が広く使われた」と指摘する。

時は進んで明治以降。陸軍・海軍では薩摩藩出身者が多くを占めた。後に世に出まわった日露戦争の講釈本などでは、海軍大将の東郷平八郎や陸軍大将の大山巌が薩摩出身者に戦争遂行の苦悩などを吐露する場面などで「どん」と呼び合う場面などが紹介されている。

「九州弁は、全国の方言の中で最も人気の高いものの一つ」と指摘するのは「『方言コスプレ』の時代」の著書がある日本大学教授の田中ゆかり氏だ。関西人でもないのに関西弁を使って笑いを誘う軽やかな場面づくりに生かしたり、東北弁を使って素朴・一徹な印象を醸しだしたりすることは現代人にはよくあることだ。ある地域の方言を使って「仮装(コスプレ)」することで、その土地の風土が持つイメージに浸るという構図だ。

親しみ生み出す「舌を弾ませる発音」

「どん」呼称は「いわゆる九州男児に代表される、頼りがいもあるけど、どこかほわっともしていて、親しめる印象が出るので、ゆるキャラのネーミングにはうってつけ」(田中氏)という。

花園大学の橋本行洋教授によると「どん」呼称は、普段、自分では使わないが、その意味するところは十分認識している「理解語」の一種。特別感がありながらすぐにイメージできる名前が、戦略的にゆるキャラの名前に使われているという。

歴史的背景だけではない。音声学的にも「もん」「どん」「にゃん」などは、親しみを生み出す要素がある。売れ筋商品とそのネーミングの関係を分析する商業コンサルタント、黒川伊保子さんによると、「ん」は舌を弾ませる様に発音するので「弾むようなうれしいような感じが伝わる」という。また発音時に甘えたような鼻濁音を伴うので「かわいらしさなども演出して、なごみの効果を生む」(黒川さん)。これに濁音や「にゃ」などの拗音が付くことで効果が増幅されるようだ。

「ゆるキャラ」という名前そのものは、漫画家・エッセイストのみうらじゅん氏が名付け親だ。2000超のキャラクターが生み出される昨今のゆるキャラブームは冒頭に挙げたひこにゃんが登場した2007年あたりからの現象だが、実は、「もん」「ごん」のネーミングを付けてなごみ系のキャラクターを生み出す動きは1960~70年代にもあった。

不安な時代だからこそ

ゆるキャラグランプリで優勝した、群馬県の「ぐんまちゃん」(左から4体目)や各地のゆるキャラたち(愛知県常滑市)=共同

60年代半ばからテレビ放映されたウルトラマンシリーズでは、いかつい悪玉の怪獣にまざり、「カネゴン」「ピグモン」といったどこか憎めない善玉系の怪獣もいた。70年代前半にはアニメ「ドラえもん」が登場し、子ども達の間で絶大な人気を集めることになる。

このゆるキャラ第1次ブームと言える60~70年代前半は、ちょうど高度経済成長期と重なり、社会全体にバイタリティーが満ちあふれた時代だった。大人も子どもも何かとトップスピードで走ることが求められるなかでは、「カネゴン」「ピグモン」といったなごみ系のキャラクターは、明日また張り切って頑張るためにちょっと立ち止まって一息をつくために欠かせない存在だったと言える。

一方、2000年代からのゆるキャラブームは60~70年代前半とは全く逆の環境で生まれたという理論を展開するのは、一橋大学の松井剛教授だ。バブル崩壊後の長引く景気低迷で漠然とした不安感に覆われた時代。疲れ切った自分を何とか立ち直らせるために「癒やしを求める形で、攻撃性のないゆるいキャラクターが求められるようになった」という。

デフレ脱却や一定の経済成長の達成など、日本経済の再生を目指して安倍政権が打ち出した経済政策「アベノミクス」が現在、注目を集めている。その柱の一つに地方創生も掲げられている。経済回復を実感あるものにするにも地方が元気になる必要がある。ご当地PRを担うゆるキャラは、単なる癒やし系の存在にとどまらず、地域活性化の切り札としての活躍も求められているのだ。(平光三郎)