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認知症の人と家族、専門家、地域住民が集い、お茶を飲みながらくつろぐ。そんな「認知症カフェ」という活動が徐々に広がってきた。専門家から助言を受けたり、地域で交流を深めたりする場になっている。認知症は誰にとっても無縁ではない。正しい理解を広める役割も担っている。

よく晴れた3月上旬の午後。川崎市宮前区にある町内会館の土橋会館を地域住民が次々と訪れた。

川越市の「オレンジカフェ」では多くの地域住民も参加し会話を楽しむ

川越市の「オレンジカフェ」では多くの地域住民も参加し会話を楽しむ

飲み物代の100円を払い、コーヒーや抹茶などを味わいながら、おしゃべりを楽しむ。高齢期の食生活について栄養士の話を聞いたり、簡単なゲームで体を動かしたりする時間もあった。月1回、町内会などの主催で開かれている「土橋カフェ」だ。

一見、普通の交流の場のようだが、実はもう一つの顔がある。認知症の人と家族を地域で支えるための「認知症カフェ」としての役割だ。

カフェのスタッフには、福祉の窓口である地域包括支援センターなどの専門家が加わっている。必要に応じて相談に乗り、医療・介護への橋渡しをする。

認知症の夫と参加した70代の女性は「夫はデイサービスには行きたがらないが、カフェは楽しみにしている」と話す。飲み物の配膳を手伝う70代の女性も認知症だ。「飲み物を運んで、喜んでもらうのはうれしい。カフェは楽しくほっとできる場」と笑う。

土橋カフェは2013年9月に始まった。「ここを中心に、地域で認知症への理解が広がっていけば」と、町内会副会長の老門泰三さん(75)。

立ち上げに関わってきたかわさき記念病院診療部長の高橋正彦さんは「誰もが気軽に参加できる、楽しいカフェ。しかし裏には専門家がおり、安心感がある」と話す。

国は認知症カフェを「認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う場」と定義する。厚生労働省が13年度から始めた認知症対策「オレンジプラン」のなかで普及がうたわれた。15年1月に新たに国家戦略として定めた「新オレンジプラン」のなかでも柱の一つに位置づけられた。

本人や家族の憩いの場、まだ医療機関にかかっていない人の早期受診・診断につなげる場、地域住民への啓発の場――。様々な役割が期待されている。

先駆的に自治体が取り組む例もある。埼玉県川越市内には、現在19カ所に「オレンジカフェ」がある。うち17カ所は市の委託事業だ。14年度は4月から10月までに計87回開催し、延べ約1600人が参加した。

13年1月に、霞ケ関地区の地域包括支援センターがカフェを始めたのが広がるきっかけとなった。2月下旬のカフェには約40人が参加。ひな人形を前に、ひし餅の色をしたケーキを食べたり、歌ったり、楽しい時間を過ごした。

カフェに参加した72歳の男性は、認知症の妻を介護して10年になる。「妻と一緒に出かけられる場所は少ないので、カフェは大切な場所。認知症について理解してもらえる場所でもある」と話す。今では、介護者同士の家族会も組織し、様々な形でつながりが深まるようになっている。

東京都港区も14年5月から、「みんなとオレンジカフェ」の設置を始め、今年2月には区内5カ所の体制が整った。認知症の早期発見・対応と予防に重点を置いており、医師会などと連携して医師が参加するようにしているのが特徴だ。2月下旬のカフェでもさまざまな質問が寄せられた。

「医者にかかるほどではないが相談したい、認知症予防に取り組みたい、という人にも気軽に参加してほしい」と担当者は話す。

カフェはまだ歴史が浅く、運営主体も内容もカフェにより千差万別だ。開催する日数も少ない。だがいずれも、認知症の人や家族を孤立させず、地域で支えることを目指している。まだ実施していない地域でも、真剣に考える時期が来ているだろう。(編集委員 辻本浩子)

認知症は決して人ごとではない。厚生労働省研究班の推計では、認知症高齢者の数は2012年時点では約460万人だった。正常と認知症の中間の状態である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いるとされる。

認知症の高齢者の数はさらに増加が見込まれる。研究班は認知症に影響する糖尿病が増加して有病率が上がる場合と有病率が一定の場合の2つの推計を出していて、25年には700万人前後になると見込む。高齢者の5人に1人にあたる数だ。

これらの人を支えるための計画が、15年1月に定められた新オレンジプラン。柱となるのは、住み慣れた地域で暮らし続けられる仕組みづくりだ。

カギを握るのは、早期診断・早期対応だ。従来は症状が悪化して初めて診察を受け、長期入院や施設への入所に至るケースが少なくなかった。早くから適切な医療と介護を受ければ、在宅期間をもっと長くできた可能性もある。

そのためには、認知症に詳しい医師や看護師、介護職らの養成が欠かせない。さらに、誰もが認知症を身近にとらえ、気になったら隠したり迷ったりせずに相談できる社会に変えていくことが大切だ。

国は認知症について学んだ「認知症サポーター」を17年度末に800万人に増やす目標も掲げている。

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