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ライフコラム
ヒット総研の視点

「働き直し」を望む主婦、組織の常識に縛られたくない日経BPヒット総研 佐藤珠希

2015/3/12

ヒット総研の視点

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今を象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のキーワードは「主婦の働き直し」。厚生労働省が「仕事と育児カムバック支援サイト」をオープンするなど、結婚や子育てを機に一度キャリアトラックから降りた女性たちの再就職をサポートする動きが活性化しています。

“女性の活躍推進”が様々な分野でうたわれるようになった今でも、日本では第一子出産を機に6割以上の女性が仕事を辞めている。女性の就業率は国際的にみても低く、経済協力開発機構(OECD)の雇用アウトルック2014によるとOECD加盟34カ国中23位。中長期的な労働力不足が懸念される中、女性の就業拡大は待ったなしの課題だ。

内閣府の平成25年版男女共同参画白書によると、女性の潜在労働力(非労働力人口のうちの就労希望者)は303万人。この層が就労すれば、雇用者報酬総額が7兆円程度増加するという試算もある[注]。女性活躍推進というと女性の雇用継続や登用促進に注目が集まりがちだが、結婚や子育てを機に一度キャリアトラックから降りた女性たちの再就職をサポートする取り組みもまた、様々なフィールドで動き始めている。

再就職に向け女性たちの背中を押す

厚生労働省が立ち上げた「仕事と育児カムバック支援サイト」。両立支援制度の紹介から先輩ママの声まで、女性の再就職に関する情報を広く発信している http://www.comeback-shien.jp/

厚生労働省は2014年12月に、「仕事と育児カムバック支援サイト」をオープンした。育児などのためにいったん仕事を辞めた女性や、育児休業からの円滑な職場復帰を目指す女性に向けてワンストップで情報を提供するのが狙い。再就職のためのセミナー開催や保育所の情報などを掲載しているほか、悩みや疑問のメール相談、再就職を希望する女性同士が交流できる掲示板といった機能もある。「働きたいと思っていても、子育てで忙しく、マザーズハローワークに足を運べない女性も少なくない。そうした女性たちにサイトで情報提供をすることで、再就職への一歩を踏み出す背中を押したい」と同省育児・介護休業推進室。女性向けの再就職支援セミナーも6都市で実施。仕事復帰に向け、女性たちの心の中のハードルを下げる施策を展開する。

東京都産業労働局は2014年度に初めて、女性に特化した起業支援セミナーや交流会を5回にわたり開催。延べ120人の女性が参加した。「通常のセミナーでは受講者は男性ばかりになってしまうため、今年度はあえて女性限定のセミナーを開催した。主婦の方たちが、働き始めるきっかけづくりにつながれば」と都創業支援課の担当者。2015年2月に開催された女性起業支援セミナーには約30人の女性が参加。自己紹介タイムでは、「幼児教育で起業したい」「地元の食品を使った保存食を製造販売したい」「片づけを仕事にしたい」といった“主婦目線”を生かしたジャンルでの起業を希望する声が相次いだ。

2015年2月27日に開催された東京都産業労働局の女性起業支援セミナー。幅広い年代の女性たちが講師の話に真剣に耳を傾けた(東京都千代田区)

主婦が「働き直し」を考える2つのきっかけ

国や自治体が展開する様々な再就職支援の取り組み。その受け手である主婦たちの再就職への意欲に変化はあるのだろうか。

10万人の主婦会員の再就職や在宅ワークを支援する「キャリア・マム」(東京都多摩市)の堤香苗社長によると、「今も昔も主婦が再就職を考えるきっかけは変わっていない」。一つは家計の補助。もう一つは子どもの手が離れてきたので、社会とのかかわりを再度持ちたいというもの。「雇う側の人手不足感もあって、本気で働こうと思えば、今はそれほどスキルや経験がなくても働く場所はあふれている。それなのになかなか働き始められない人が多いのは、自分のやりたいと思える仕事、描いているイメージと合った仕事がしたいというこだわりが強いから」と堤氏は指摘する。

実際、再就職を考えている主婦たちに話を聞くと、多く聞こえてくるのが「出産前の仕事で身に付けたスキルを生かして、自分のペースで働きたい」という声だ。6年前の出産を機に勤務先の印刷会社を辞め専業主婦になった女性(39)は、「子どもが小学校に上がることをきっかけに仕事を再開しようとリサーチを始めたが、正社員での再就職は全く考えていない」と話す。主婦ネットワークや会社員時代に培ったスキルを生かし、イベント系の起業も視野に情報収集中だ。一方、派遣会社に登録し事務の仕事を探している専業主婦(34)も、「会社員時代のように残業に追われるような働き方はしたくない。働く時間や職種を自分で選べる働き方が今の理想」という。

もう一度働くなら、会社員時代のように時間や規則に縛られることなく、自分がやりたいこと、やりがいを感じられる仕事を探したい――。そう考える彼女たちが目指すのは、“再就職”ではなく、自らの仕事観を問い直し、かつての自分とは違った働き方を実現しようとする、いわば“働き直し”だ。

「ハイスキルマザー」も新しい働き方を模索

確たるスキルや実務経験を持っているものの、出産を機に様々な理由で職場を離れた女性たちの“働き直し”を支援するサービスも誕生している。

人材会社Waris(東京都千代田区)は、企業で豊富な経験や専門性を身に付けてきたものの、出産を機に働き方を変えたいと考える「ハイスキルマザー」と、ベンチャーを中心とした機動的な人材を欲する企業とのマッチングを手掛ける。「経験やスキルは十分あるけれど、長時間労働が当たり前の組織の中では働き続けられない、出産を機に担当する仕事を変えられモチベーションが維持できなくなった、といった理由で登録する女性が多い」(共同代表の田中美和氏)。サービススタートから約1年半で登録者は1000人を超えた。登録者の平均年齢は38歳。大企業の総合職やコンサルティング会社などで10年以上のキャリアを積んだ女性たちが中心だ。「いくら高いスキルや経験をもってしても、従来型の日本企業でワーキングマザーが柔軟な働き方を実現するのはまだまだ難しい。新しいスタイルで、専門性を生かして自分のペースで働きたいという女性は今後ますます増えるはず」(田中氏)

「2020年までに指導的地位にある女性の割合を30%に」「上場企業にひとりは女性役員を」。大企業を中心に日本の企業社会では、女性リーダーの育成や女性活躍推進への追い風が続く。その一方で、“働き直し”を模索する女性たちの多くは、組織の常識や就業規則で定められた働き方に縛られず、ワークとライフをコントロールしながらマイペースで仕事をしたいと願う。両者には今、まったく違う風が吹いている。

[注]男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会報告書より。女性の潜在労働力が342万人だった2010年のデータで試算。
佐藤珠希(さとう・たまき)
 日経BPヒット総合研究所上席研究員、日経BP社ビズライフ局長補佐。毎日新聞社、ベネッセコーポレーションを経て、2004年日経BP社入社。『日経WOMAN』『日経マネー』などの編集部を経て、2009年『日経WOMAN』副編集長、2012年『日経WOMAN』編集長。2015年1月から現職。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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