北陸新幹線で故郷が変わる 3県出身経営者が期待

東京―金沢間を最速2時間28分で結ぶ北陸新幹線には、首都圏などに在住する北陸3県ゆかりの人たちも期待を寄せる。同時に外から見ることで、北陸が飛躍するための課題も見えてくる。幼少期や学生時代を3県で過ごした企業経営者に、新幹線を生かした地域づくりなど「故郷」への提言を聞いた。

地理的特性生かし、海外企業と交流活発に--浅野敏雄旭化成社長

――悲願とされてきた北陸新幹線がいよいよ開業します。

浅野敏雄旭化成社長  富山県立高岡高卒業。1975年東大薬卒、旭化成工業(現旭化成)へ。2014年社長。高岡市出身、62歳

「学生の頃は富山に新幹線が通るなんて夢物語だった。大学受験で初めて東京に来たが、列車で6時間程度かかった記憶があり、遠い場所という印象だった。新幹線開業で時間だけでなく精神的にも東京と近くなる。北陸の生活・経済にとって非常に大きなインパクトがあるだろう」

「国内外からの観光客も増える。富山は自然も歴史もあって魅力的な県だ。海越しに立山連峰が見えるスポットもある。高校生の時は生物クラブに所属し、富山湾で泳いで軟体動物を採集した」

――観光以外での北陸の魅力は。

「企業人として改めて見ると、東京と大阪の中間点にあるという地理的メリットは大きい。アルミや繊維、化学、IT、医薬などの集積地であり、産業面での発展の余地は大いにある」

――開業効果の持続には何をすべきですか。

「観光だけに頼っていては地域の発展は持続しない。基盤となる産業を強くすることが必要だ。北陸人には企業マインドが根付いている。東京、名古屋、大阪にアクセスしやすく、かつ日本海に面している地理的メリットを最大限生かせるよう、交通・物流網を強化すべきだ」

「特に新幹線開業で利用客減少が懸念される富山空港をどれだけ活用できるかが重要だ。関西国際空港は格安航空会社(LCC)を取り込んで成功している。富山もLCCを活用してアジアとつながれるかが勝負の分かれ目だ。ロシア極東やアジアとの物流窓口として伏木港や富山新港などの港湾整備も大事。新幹線と合わせ、空と海の交通網充実が不可欠だ」

――旭化成は繊維事業などで北陸と深い関係があります。

「我々の糸を加工する機屋の大半が北陸にある。吸湿性に優れた化学繊維『ベンベルグ』の糸の加工で北陸企業は重要な役割を担っている。東京からの日帰りが容易になり、海外の繊維関係者を連れてきやすくなる。取引がある海外企業と北陸企業との交流を増やしたい」

「生地は今後、機能性だけでなく、ファッション性やデザイン性が求められるようになる。世界で注目されている有名デザイナーの服に北陸の繊維が使われていることも多い。欧米でのコレクションに出品できるよう支援したい。世界に発信できる生地の見本市を北陸でできればいい」

――新幹線を生かしつつ、地域活性化にどう取り組むべきですか。

「新幹線が通ったというだけで満足してはいけない。空港や港湾整備のほかに、子育て支援策など人口を増やす政策をもっとやってほしい。新幹線開業を機に、移住や半定住を考えている友人もいる。富山県は住みたいと思える事業をしてほしい。長期的に見れば企業誘致も重要だ」

体験施設、投資で集客を--山内雅喜ヤマト運輸社長

――北陸新幹線が長野から金沢まで延伸します。両地と縁が深い立場でどう受け止めますか。

山内雅喜ヤマト運輸社長 長野県長野高校卒。1984年金沢大文卒、ヤマト運輸へ。2011年社長。長野県出身。54歳

「東京と金沢が2時間半で結ばれることに驚いている。長野―金沢間は1時間強と聞いても、まだ感覚的にピンとこない。金沢大学の学生だったころ、実家がある長野から直通の特急『白山』に乗っていたが、4時間近くかかっていた」

「金沢大は金沢城内にあったキャンパスに憧れて入学した。高校の先輩も多く、精神的には近い土地だった。地理的には遠かったが、母から『翌日に届く』と言われて半信半疑で待った手荷物が草創期の宅急便だった。ヤマト運輸への入社を考える契機になった」

――現在の金沢の街の印象はいかがですか。

「2年に1回程度訪ねるが、古さを残しながら進化している点に引かれる。兼六園やひがし茶屋街といった昔ながらの情緒がある場所と、金沢21世紀美術館のような新しい施設がバランスよく同居している」

――北陸新幹線の開業はヤマト運輸にも商機になりますか。

「観光客の手荷物に関わるサービスが増えるだろう。周遊旅行の場合、手ぶらで街を散策し、荷物は宅急便で次のホテルに送るといった利用者が多い。特に外国人は持ちきれないほどの荷物やお土産を抱えている。新幹線が開業すれば北陸にも外国人客が増える。その分サービスの機会も広がる」

「土産物店の倉庫代わりの機能も果たせる。特に金沢の市街地は老舗の食品店や工芸品店が狭い場所に集まって立地している。売れ行きが伸びても、在庫の置き場を拡張するのは難しい。ヤマトがタイムリーに商品を運び込む仕組みをつくれば、店も販売機会の損失を防げる。東京都心部にある商業施設でも同様の取り組みをしており、地方のモデルを金沢でつくりたい」

――九州など新幹線が開業した地域では、経済が活性化していますか。

「物流面で見るとそうだといっていい。首都圏など大都市からの日帰り圏内になれば、宿泊関連の荷物は減少する。一方で、土産物の取り扱いが増えるほか、一度訪れた土地の商品をインターネットを経由して買う『お取り寄せ』の需要が生まれる。いい商品だと気に入れば、何度も購入してくれる。全体として、新幹線はマイナスよりプラスの方が大きいと感じている」

――北陸3県が新幹線の開業効果をより高めるには何が重要ですか。

「先行投資だ。旅行者が食や伝統工芸を体験できる施設を増やし、たくさんの人に味や品質を体感してもらう。すぐに利益が出なくても、口コミで伝われば旅行者が増えていく。旅行には行けなくても、商品だけは買ってみようという人も出てくる」

「ヤマトの考え方に『サービスが先、利益は後』というのがある。お客に喜んでもらえれば荷物の数が増え、効率が上がって自然と利益が出るようになる。その利益を使って、また新しいサービスを創り出す。北陸は新幹線の開業をこうした好循環をつくるスタートにしてほしい」

広域観光に挑め、行政と企業が連携を--小林栄三伊藤忠商事会長

――北陸新幹線が14日に金沢まで開業し、敦賀延伸も3年前倒して2022年度に決まりました。

小林栄三伊藤忠商事会長 福井県立若狭高卒。1972年大阪大基礎工卒、伊藤忠商事へ。2004年社長、10年会長。若狭町出身、66歳

「金沢駅周辺のビルラッシュの話を聞くにつけ、終着駅効果はものすごくインパクトがあると感じている。一方、福井は金沢から離れているので、人を呼ぶには知恵がいる気がする。敦賀まで早く来てほしいし、福井駅まで敦賀開業より2年早い20年度に先行開業するのもいいと思う」

「敦賀の西の若狭町で生まれ、豊かな自然の中で高校まで過ごした。冬の2カ月は厳しい天気で、人間が辛抱強くなる。山をひとつ越えるとすぐ滋賀県。通称『鯖(さば)街道』で京都へ出かける機会は多かったが、福井市は遠くてほとんど行かなかった」

――新幹線は地域の距離感を縮めます。特に効果を期待することは。

「広域観光だ。2月に初会合を開いた観光庁の広域観光周遊ルートを検討する委員会の座長をしている。北陸では金沢、加賀温泉、東尋坊、永平寺と個々の観光地を並べてもダメで、ストーリーづくりを含めて面で展開する必要がある。そうでないと集客力は高まらない」

「企業活動でも社員の行き来は確実に増える。YKKのように本社機能の一部を移転することで、人の流れが変わるきっかけになるのは間違いない。ロシアなどとの交流が増え、21世紀は日本海の時代になる。支店がなくなるのではないかという懸念もあるだろうが、地方からの提案や情報発信が重要だ」

――観光振興にどう取り組むべきですか。

「安倍政権が進める地方創生の一環で、各自治体が来年3月までに総合戦略を策定することになっている。その中に観光振興も盛り込む。策定に当たっては自治体だけでなく企業も協力してアイデアを提案し、実現性が高いものにすることが望ましい」

「私が会長を務める日本貿易会には国際社会貢献センターというNPO法人があり、国内外で実務経験が豊富な商社やメーカーなどのOB約2500人が登録している。年間延べ700人が地方に派遣され、広域での発想を通じてまちづくりの手伝いをしていることも役立つのではないか」

――新幹線がまだ来ない福井を活性化するにはどうすべきですか。

「例えば鯖街道。京都は観光客であふれ返っているが、若狭はガラガラだ。街道全体で何かできないかを考えてみる。福井県の北部と南部は舞鶴若狭自動車道の全線開通で近くなったのだから、県北の恐竜博物館と県南の観光資源とを組み合わせるなど、オプションをいくつも編み出してはどうか」

――今年度から県の政策アドバイザーになりました。

「東京では福井の位置すら不案内な人がたくさんいる。経済界などで福井にゆかりがある人と知名度をアップするための応援団をつくった。一方、関西では福井を知らない人はいない。新幹線ができることで関西(との距離感)が遠くなるようではいけない」

――敦賀以西のルートはどう考えますか。

「立場上言いづらいが、若狭、湖西、米原という3ルートが議論されていると理解している。地方の衰退が危惧される状況で難易度は極めて高いが、早期に決着することが望ましい」

(聞き手は富山支局 長谷川雄大、金沢支局 国司田拓児、福井支局長 池辺豊)