人口の高齢化に伴って、心臓の弁の障害で弁が狭くなったり血液が逆流したりする心臓弁膜症の患者が増えている。近年は、僧帽弁閉鎖不全症での弁形成術や大動脈弁狭窄(きょうさく)症でカテーテル治療など、患者の体への負担が小さい治療もさかんに行われている。
今回の調査で手術が451件と最多だった榊原記念病院(東京都府中市)は、1990年代は100件前後で推移していたが、2003年に新病院に移転して手術機能を高めてから年々増加し、11年には300件を超えた。
同病院の心臓血管外科は、8人の心臓外科医と14人のレジデントの計22人のスタッフを擁している。高梨秀一郎部長は「質の高い手術の追求と、どんな状況でも緊急患者を受け入れることをモットーに治療に当たっている」と話す。心臓弁膜症の手術は、複数の弁を対象にしたり、冠動脈の狭窄や不整脈も併せて治療したりする複合手術が増えているため、「スタッフは疾患別の専門家ではなく、様々な技術を併せ持つオールラウンダーとして育てている」という。
院内外の様々な診療科や医師との連携も同病院の強みの一つだ。循環器の内科、外科が患者の症状や合併症の有無、社会的立場まで考慮して治療の時期や方法を議論。月に1回、「病診連携カンファレンス」を開いて、患者のかかりつけ医や合併症を治療している専門医を交えて話し合う。「画像診断技術の進歩で、近年は無症状段階での早期手術が増えている。こうした患者には、ていねいな手術で健常な人と変わらない運動機能を回復してもらうことをめざしている」(高梨部長)
循環器病のナショナルセンターである国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)は「どこの病院にも負けない治療成績を出し続けるのが使命」(藤田知之・心臓外科部長)との自負の下、働き盛りの50~60歳代の男性に多い僧帽弁閉鎖不全症で、自己弁温存術式(形成術)の技術を磨く。
治療成績の指標の一つである術後10年間の再手術回避率は95%以上と好成績を達成している。「術者の実力が反映する弁尖逸脱の患者も年間約90件手術し、100%成功している」と同部長。高齢患者が多い大動脈弁狭窄症では80歳代の患者も受け入れており「経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)などの低侵襲手術でQOLの高い生活に戻している」という。
TAVIは石灰化して硬くなった大動脈弁の場所に、内部に人工弁の付いたステントをカテーテルで運んで設置する手術。手術時間が2時間半程度と短く入院も短期間で済むため、体力の落ちた80歳を超えた高齢者にも対応できる。13年10月に保険適用を受けた。
済生会熊本病院(熊本市)は同年12月にTAVIを始め、これまでに50例を手掛けた。「ステントの太さや手技中の血管破裂などにどう対応するかなどについて、心臓血管外科医や麻酔科医、技師などと手術前に綿密に打ち合わせる」と循環器内科の坂本知浩副部長。「将来耐久性が高い製品が出てくれば、大動脈弁狭窄症治療の第一選択になる可能性もある」
大動脈弁狭窄症の手術に新機軸を打ち出したのが東邦大学医療センター大橋病院(東京・目黒)心臓血管外科の尾崎重之教授。07年、心臓を包む心膜を弁の形に切り取って、傷んだ弁の代わりに縫い付ける手術法を編み出した。
尾崎教授は「人工弁置換術より高度な技術が必要だが、異物ではなく自身の組織を使うため患者の体への負担は小さく、再手術の回避率が現時点で約98%と人工弁(94~95%)を上回る」と強調している。
同病院での症例数は800を超え、30を超す病院にも広がった。「昨年専用器具が正式に発売されたため、今後さらに広がる可能性が高い」と尾崎教授は話している。
心臓弁膜症治療の実力病院(51病院)
▼診療実績 厚生労働省が2014年9月に公開した13年4月~14年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入・準備中の全国1741病院を対象にした。表では「手術あり」と「手術なし」の合計の上位50病院を掲載した。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例で詳細不明。
▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼を受け、医療の質や安全管理、患者サービスなどを審査した結果を100点満点で換算した。点数の前の*は同機構の評価方法「3rdG」での結果が公表されている病院で、S=4点、A=3点、B=2点、C=1点として計算した得点を100点満点に換算した。
▼施設体制 医師や看護師など医療従事者の配置や、医療機器など、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。14年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。