意中の会社へ 氷河期入社組、「リベンジ転職」に走る
「たった2年違いなのに同じ大学の後輩が楽勝で内定をもらっているのを見て、何なんだと思った」。2月12日夜7時半すぎ。東京都内で開かれたDODA転職フェア。求人企業がずらりとブースを構えた会場にスーツ姿で現れた木崎健さん(仮名、25)の胸中は複雑だ。
転職希望の20代の来場者も目立った(東京都文京区で2月中旬開かれたDODA転職フェア)
2012年春に四年制大学を卒業して流通大手の子会社に就職したが、「休みはちゃんと取れないし、福利厚生制度は親会社ほど充実していない。もっと条件のいい会社に入り直すため、勤務先に黙って夜や休日に転職活動をしている」と打ち明ける。
3日間で延べ1万4千人超が来場したこの転職フェアでは中高年に交じって、10~13年卒の氷河期入社組の姿も目立った。4社のブースを訪れた神奈川県在住の松永杏さん(仮名、25)も12年春卒の氷河期組。不動産会社に就職したが「残業が多くて1年半で退職し、今はアルバイトしながら転職活動中。大学3年のときは50社以上にエントリーシートを送ったのにほぼ全滅。春までにリベンジ転職したい」と意気込む。
文部科学省と厚生労働省が発表した調査では、今春卒業予定の大学生の就職内定率は14年12月1日時点で前年同期比3.7ポイント増の80.3%。4年連続の増加でリーマン・ショックの影響が表れる前の08年12月(80.5%)とほぼ同じ水準まで回復したという。
企業の採用意欲は転職市場にも飛び火。転職サービスを提供するインテリジェンスでは、1月の転職求人倍率は1.18倍で求人数や転職希望者数は最多を更新。「新卒採用の競争が激化する中で、最近は転職市場でも若くて優秀な人材なら中途採用や既卒者の『第二新卒』でも積極的に採りたいという企業が増えている」と同社の木下学DODA編集長は話す。今年は求人企業からの出展要請が多く、東京や大阪、名古屋のほか、九州でも大規模な転職フェアを開く予定だ。
これまで新卒採用と30代以上の中途採用が中心だった大手でも若手の転職市場に関心を示し始めている。JTB西日本は「中途採用は30代半ばが中心だったが、旅行に興味があり、意欲のある人材なら20代も積極的に採用していきたい」(総務チームの田中基之グループリーダー)と意欲を示す。積水ハウスでも「住宅業界と無縁だった人でも、人間力を発揮し、果敢にチャレンジする人材なら中途採用したい」(人事部)という。
こうした企業の採用意欲の高まりを察知して、早くも希望の転職を果たした氷河期入社組もいる。12年春に就職したIT企業を辞めて昨夏、日本たばこ産業(JT)に再就職した安永優花さん(仮名、25)もその一人。「いずれは海外赴任したいと思って就職したのに前の会社ではグローバルな仕事をさせてもらえなかった。JTでは毎日のように海外の拠点とやりとりしながら税務の仕事をやらせてもらっている」とほほ笑む。
結婚や出産などを考え、柔軟な働き方ができる会社に転職したのは川口梨佐さん(仮名、26)。11年春に就職した金融機関を辞めて、東京海上日動火災保険の地域限定型社員としてこのほど働き始めた。「将来は結婚したいし、子どもも欲しい。でも家庭生活と両立しながら仕事も続けたい。勤務地が限定している地域限定型の社員ならずっと働き続けられそう」と話す。
地域限定型社員を含め26歳ぐらいまでの既卒者を第二新卒として採用している同社は、「社会人を経験したことで貪欲に活躍の場を広げようとしている『たくましく多彩な人材』に期待している」(人事企画部人事・採用グループの横山功介課長)とし、14年度は計21人を採用した。今後も第二新卒の採用を続けていくという。
企業の採用事情に詳しい人事コンサルタントの常見陽平氏は「就職氷河期は多くの若者が意中の会社に入れなかった。厳しい時代に就職した若者がより条件のいい大手や成長企業に移っており、結果として中堅・中小企業が草刈り場にされている」と指摘する。木下DODA編集長は「氷河期に例年以上に採用できたと安心し、若手社員の人材育成をちゃんとやらない企業は若くて優秀な人材を失いかねない」と警鐘を鳴らす。
(編集委員 阿部奈美)