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1.5次会・1.5次入試…「小数点ネーミング」なぜ浸透

2015/3/4

「1.5次会」「2.5次元ミュージカル」「1.5次入試」……。読者のみなさんはこれらのことばをご存じだろうか。数学で使われる用語かと勘違いしてしまいそうだが、実はそれぞれ、新しいスタイルの結婚式後のパーティー、演劇、高校の入学試験なのだ。こうした「小数点ネーミング」ともいうべきことばが様々な分野に浸透し始めている。社会が複雑化する現代、どうにも“割り切れない”ことが増えているとでもいうのだろうか。不思議なネーミングの普及の謎に迫ってみた。

1次会の後、でも2次会ではない

新婦がウエディングドレスを披露する披露宴の要素と、友人のバンド演奏などの2次会の要素が混在する「1.5次会」結婚式(東京・銀座のレストランバー「NB CLUB」)=同店提供

「1.5次会」というのは、披露宴(1次会)と2次会の中間にあたるものらしい。だがそもそも「披露宴の後にやるのなら実質的には2次会なのではないか」と疑問に感じてしまう。そこで、インターネットサイト「1.5次会.com」を運営するユニークス(東京・千代田)創業者の川崎尚樹社長に聞いてみた。「『1.5次会』は披露宴も兼ねるケースが多いんですよ」。川崎社長はさらりと言ってのけた。

ウエディングドレスのお披露目、ケーキカットといったいわゆる披露宴の要素は残しつつ、2次会のアットホームな雰囲気やイベント要素も入り交じる独特のパーティースタイル。「海外や地方で披露宴をした夫婦が、もう一度披露宴を兼ねた会を『1.5次会』として開くのが主流になっている」(川崎社長)という。

新郎新婦にご祝儀を渡すのではなく会費制で開催。新郎新婦の側も「ペットと一緒に」「自らバンド演奏を」と希望通りのウエディングができる。参加者の服装などは自由で、アットホームな雰囲気を強調するため、ゲストも気軽に参加できるのが特徴だという。

川崎社長の説明によると、一説には1.5次会が登場し始めたのは2004~05年ごろ。都内のレストランが、ホテルやゲストハウスとのシェア競争を勝ち抜こうと「1.5次会」という新しいウエディングスタイルを考案したのがきっかけで、その後、首都圏を中心にじわじわ増えてきたという。

川崎社長自身も元レストラン支配人で、「1.5次会」を広めるために起業。08年にサイトを立ち上げた。13年の利用組数は3200組で、スタート時の08年(128組)と比べ25倍に急増した。「三大都市圏や地方などではまだまだ利用が増える余地がある」と川崎社長は市場拡大に期待をかける。

2次元でも3次元でもない「テニプリ」

結婚式以外にも「.5」ネーミングが使われているものがある。その一つが演劇の「2.5次元ミュージカル」だ。一般社団法人「日本2.5次元ミュージカル協会」広報の遠田尚美さんによると「2.5次元ミュージカル」の定義は「2次元のアニメや漫画の作品を実写化し、3次元である人間が舞台上で可能な限り再現する」こと。

「1.5」「2.5」など小数点が付いたネーミングが様々な分野で見られるようになってきた

代表的な2.5次元ミュージカルの演目の一つ「ミュージカル『テニスの王子様』」を例に見てみよう。この演目は、1999年に週刊少年ジャンプで連載開始した漫画「テニスの王子様」(通称「テニプリ」)を舞台化したもの。主人公・越前リョーマが、中学入学と同時にテニス部に入部し、切磋琢磨(せっさたくま)しながら全国制覇を目指して試合を勝ち上がっていくというストーリー。

シーンの大半はテニスの試合だ。ラリーの激しさは音響で演出し、テニスボールの軌道はスポットライトで表現する。俳優たちはラケットを手に持って歌い踊る――。

「3次元映像の映画やドラマなどは、背景などで演出できる余地がいろいろあるが、2.5次元ミュージカルは舞台上なので、できることが限られる。2.5次元ミュージカルでは、演出しきれない部分を観客が想像力で補っている」と遠田さんは解説する。

2次元作品の舞台化は、宝塚歌劇団「ベルサイユのばら」が発祥とされるが、当時は「2.5次元ミュージカル」ということばはなかった。観客のあいだでいつの間にか広まっていった呼び方だという。

サブカルチャーや近現代文学に詳しい久米依子・目白大学教授によれば、「2.5次元」という呼び方は、2000年代の後半から徐々に使う人が増え、2010年代に入り一般化した。「2次元コンテンツを表現する中で、3次元である生身の役者の演技や歌、ライブの躍動感などの魅力も味わえる。両次元の相乗効果があることを『2.5次元ミュージカル』という名称で示している」と久米教授。「サブカル好きのオタク層だけでなく、一般的なエンターテインメント好きなどにもアピールできる産業に成長させようという気概も読み取れる」(久米教授)

関西特有のものも

さらにこんな小数点ネーミングもある。関西の私立高校の入学試験にあるのが「1.5次入試」。私立1次入試と公立一般入試の間に行われる入学試験だ。多くの場合、私立高の「2次入試」(2次募集)は公立一般入試の後に行われるため、1.5次入試という名前がつけられている。こうしたネーミングはどうも関西特有らしい。

学習塾大手の京進で経営企画部長を務める山本宗孝さんによれば、理由は受験日程にあるという。たとえば大阪府内の場合、私立1次入試が2月上中旬、公立一般入試が3月中旬にあり、2次入試は3月下旬。その頃は卒業式や春休みにあたり、受験生が気持ちの余裕を失ってしまう懸念がある。2月中旬に行われる1.5次入試なら生徒は気持ちの上で余裕を持って受験に臨める。学校側も、2次試験より早く、学力の高い生徒を確保できる。1.5次入試には、学生と学校双方にメリットがあるというわけだ。

山本さんは「初めて1.5次入試という名前を聞いたときは『うまいこというなぁ』と思いました。時間の流れ、進行をよく表している」と小数点ネーミングに感心しきり。このネーミングの起源は、20~25年前ごろではないかとされる。合格者数は各校とも1次よりは少ない若干名としながらも、2次入試よりは多い人数だ。

普及の背景に日本人気質

1.5次会は1次会と2次会の中間、2.5次元ミュージカルは2次元と3次元の中間――。「.5」を付したネーミングは、どうやら物事の「折衷・中間」や「進行」の順番を示しているといえそうだ。さらにいえば、いずれのことばも、それまでにない新しい概念を打ち出した際に使われたと考えられる。

京進の山本さんは「『1.5次入試』という言い方は、まるでコンピューターソフトウエアのバージョンアップに倣ったみたいですね」と話す。目白大の久米教授も「日本では10代の頃から、パソコンでもスマートフォンでも、最新の状態を数字で確認することに慣れている」と分析する。

久米教授は「.5」を付したネーミングについてこうも指摘する。「数字でありながら中間的で曖昧。白黒はっきりさせない表現を好む日本人の気質に合っているのかもしれない」

(木村ゆかり)

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