深酒することが多く、就寝時間は遅くなりがち。当然、朝の目覚めは悪く、食欲もないためつい朝ご飯抜きに……。
こんな生活がいかに心身本来のリズムに反しているか。
逆に「早寝早起き朝ご飯」がその日1日の調子にだけでなく、健康維持や“できる人”になるために役立つことを科学が証明しつつある。

だれでも「そりゃそうだろう」と思うかもしれない。しかし、やむを得ない仕事や勉強があるとか、酒宴や夜の盛り場の誘惑に負けてきた人たちも多いはずだ。そんな輩もそろそろ生活を考え直すべき時期が来たようだ。もちろん、冒頭に挙げた生活を送り続けて○十年の私はその対象の最たる一人である。
否が応でもこんな気持ちになる研究会を聴講した。
2015年2月14日に早稲田大学先端生命医科センターで開かれた第1回時間栄養科学研究会だ(画像1)。私たちの心身を律している体内時計研究の成果をもとに、適切な食事のタイミングやその内容を考える時間栄養学を推進しようという旗揚げのシンポジウムでもあった。
この中で、何人かの演者が、基本的な考え方としてそろえて口にしたのが「早寝早起き朝ご飯」の大切さだ。
早起きをしてしっかり朝日を浴びれば、脳の視床下部の視交叉上核にある主時計が調整され、正しいリズムが刻まれ始める。しかし、朝ご飯を食べないと、肝臓や筋肉といった体の末梢系の時計までは完全にリセットされない。同研究会では、「1回朝ご飯を抜くだけでも肝臓の時計の針が遅れ、肝機能のリズムに影響を与える可能性がある」(農研機構食品総合研究所大池秀明主任研究員)という報告もあった。
「朝ご飯抜き」で食べ過ぎや糖尿病に!?
実際に、「朝食抜き」の悪影響は多くの研究が指摘している。

健康で平均的なBMI(体格指数。身長メートル÷体重キログラム÷体重キログラムで計算)の男性で行った試験では、朝食を抜いた場合、その後の食事での血糖値上昇が高く、血糖調整ホルモン・インスリンの分泌量も多かった。インスリンの効きめを悪くする遊離脂肪酸の濃度も高くなった。また、その後の食事の満腹度が、朝食を食べた場合より低かったという[注1]。つまり、朝ご飯抜きによって肥満しやすくなったり、糖尿病発症リスクが高くなったりするかもしれないわけだ。
その糖尿病はまさに今や国民病。現在、患者数は約950万人、予備軍が1100万人とされている(2012年国民健康・栄養調査)。なかでも生活習慣が発症原因となることが多い2型糖尿病患者で、朝食抜きの影響を調べた試験がある。すると、朝ご飯を抜いた群は食べる群に比べてBMIが高く、糖尿病の指標となるHbA1cも高かった[注2]。
糖尿病予備軍や糖尿病患者が朝ご飯抜きの生活をしていたら、病気が進行するおそれもあるという解釈もできる内容だ。
たった2つの研究から極端なことは言えないが、もし、朝ご飯抜きが肥満者や糖尿病患者を増やす一因になっているとしたら大変だ。
「朝日を浴びる人はスリム」。こんなユニークな報告もある。
1日のうち早い時間にしっかり日光を浴びる人と1日の後半に光を浴びる人では、前者の方がBMIが低くなるというのだ。カロリー摂取量、活動量、睡眠習慣の影響などを除外しても、朝日をしっかり浴びることによるスリム効果が確認されたという。研究班は、午前中の日の光で体内時計がチューニングされることでエネルギー代謝のバランスが整うからではないか、としている。しかも、体内時計のリセット作用が強いブルーライトを多く含む朝の光は40~50分浴びるだけでも十分BMIの抑制に影響があるだろう、というのだ[注3]。
さあ、早起きして朝日をしっかり浴び、元気に朝ご飯を食べようではないか。
[注2]Chronobiol Int.;31(1), 64-71,2014
[注3]PLoS ONE; 9(4),e92251,2014
朝こそしっかりご飯に
では、どんな朝ご飯にするのがいいのだろう。
先に触れた第1回時間栄養科学研究会では、大豆たんぱく質、タマネギなどに含まれるポリフェノールのケルセチン、ある種のアミノ酸、小麦、糖分とたんぱく質の同時摂取など、朝とることで体内時計をリセットする可能性がある栄養素やその組み合わせとして様々なパターンが示された。
現時点では、まだ朝ご飯の健康効果を高めるためにとるべき栄養素を特定するのは難しそうだ。
「昼夜に関係なくだらだら不規則な食生活をしていると、肝臓の時計が狂い、血中のコレステロール値が上がる」という報告を行った名古屋大学大学院生命農学研究科の小田裕昭准教授が、さらに、肝臓をはじめとする代謝関連臓器の時計は、インスリンで調整されていることがわかったと付け加えた。
だからこそ、だらだら食いはやめ、特に朝ご飯をしっかり食べるべきと確信させるような研究がごく最近発表された。それは、1日の総摂取カロリー量を同じにして試験をしたところ、「朝食を高カロリーにして夕食を低カロリー」にしたほうが、2型糖尿病患者でも、その逆の食事パターンよりトータルな血糖上昇が抑えられたという内容だ。同研究班はこれに先立ち、健康な肥満者でも同様な結果が得られることを確認している。
この研究を主導したテルアビブ大のダニエル・ジャクボウィッツ教授は「体内時計の働きにより、朝はインスリンの分泌が適切で、またインスリンが誘導する筋肉への糖の取り込み量も多いからだ」とコメントしている[注4]。
健康な人たちが1日3食同じ量の食事をして比べたところ、昼、夜に比べて朝のほうがインスリンの効きがよく食後の血糖上昇が抑制されたという研究もある[注5]。
食後に高血糖状態が続くと、血管などがダメージを受け、肥満も促進される。肌の老化も進みやすくなる。だから、できるだけ血糖上昇の山を高く鋭くしないほうがいい。ということは、同じ量のご飯を食べるなら、インスリンが効きやすい朝に、しっかり食べた方がダイエットにも美容にもいいといえるだろう。体内時計も正しく動き始める。
朝食を英語でいうとbreakfast。まさに断食開けの食事だ。夕食を20時には済ませ、次の朝7時に朝食を食べたとすると、この間11時間、つまりほぼ半日何も食べない“断食”タイムになる。太陽の光とともに起き、沈んだら休むという生活を長く続けてきた人類に染みついた食事の基本リズムはこれだ。
そして本来、後は寝るだけの夜に大量の食事をとる必要はないから、日中の活動を行うために最も重要な食事は朝、ということになる。
だから、早寝早起きしてしっかり朝ご飯を食べるという生活をすれば、私たちの体は本来の機能を発揮し、朝食をなるべく効率的に利用するように機能するのだろう。
[注5]Diabetes;61,2691-2700, 2012
仕事で頭がさえる朝食
体のためには、朝自然な食欲がわいてしっかりご飯を食べるのがいいとして、さらに頭を使う必要がある学生やビジネスマンにおすすめの朝食パターンはないのだろうか?
12~14歳の子供たちが、朝食を抜いた場合、血糖値が上がりやすいコーンフレークと白いパンの食事をとった場合と、食物繊維が多い全粒穀物を合わせたミューズリーとリンゴをとった場合の3パターンで、集中力、注意力、短期記憶力を測る試験を行った研究がある。すると、3番目の血糖値が上がりにくい食事のときに、30分後に行った試験でも、2時間後に行った試験でも最も成績が良かった[注6]。

食物繊維が多い野菜や海藻類、穀物などは血糖値が急上昇しにくいことがわかっている。反対に、食物繊維を取り除いた穀物(精製した米や小麦)や砂糖は血糖値が上がりやすい。
朝はインスリンの効きがいいので、血糖を早く筋肉などにとりこむため血糖値が上がりにくいというのは先に触れた。ということは、血糖値が急激に上がる食事をとると、インスリンが素早く働いて一気に血糖値を下げてしまうおそれもあるということだ。その結果、頭がぼーっとし、すぐにお腹がすいてしまう。
朝ご飯は、がっちりで、しかも食物繊維が多い穀物などをとるのがよさそうだ。
こう考えると、オーツ麦、玄米などを使い1食50グラムあたりに4.5グラムの食物繊維を含むシリアル製品「フルグラ」(カルビー)のヒットの理由も納得できる。
同商品は1991年の発売以来20年も経って2012年に突然売り上げが急伸、2013年度は対前年比151%で95億円、2015年3月期は140億円の売上予想もあるというが、その背景に、朝活に参加するなど、朝の時間を大切にし始めた人たちが、昼までの腹持ちや心身の調子の良さを実感して、フルグラのような食物繊維の多い食事を選び始めた、といった流れがあるという仮説も立てうる。
本コーナーに、2014年5月15日に寄稿した『日本人が一度手放した穀物が蘇生、「麦ご飯」人気のワケ』をお読みになった方はいるだろうか?
穀物の中で最も食物繊維量が多く、しかも腸内細菌がエサにして発酵する水溶性の食物繊維を大量に含む大麦のヒットも、このあたりに秘密があるのかもしれない。
実際、スウェーデンで行われた試験では、朝、大麦もしくは精白した小麦製のパンを食べ、その後昼食、夕食ではまったく同じものを食べたところ、「朝大麦」にしたときの血糖値上昇は、朝はもちろん、昼だけでなく夜まで白いパンを食べたときに比べて低かった(図2)。
この研究を行ったルンド大学のインゲル・ビヨルグ博士はこう説明する。「昼食時には、朝食べた大麦が腸を刺激することで分泌した血糖コントロールを良くする腸管ホルモン(GLP-1という)が、急激な血糖上昇を抑えてくれる。朝食の10~16時間後には、大麦の食物繊維が腸内細菌の発酵を受けることで再びこのホルモンを出す。さらに、食べ過ぎを抑制する別のホルモン(ペプチドYYという)も分泌するので、大麦を食べた後の食事では過食も起こりにくくなる」
仕事のできもよくなり、1日中太りにくいとなれば、今日から食物繊維リッチな穀物をたっぷり朝食に食べない手はない。
しかし、こんな結論に達した原稿を、私はやはり深夜から朝にかけて書いている。
お酒も残っていて食欲もないので、きっと朝ご飯は抜きだろう。頭ではわかっていても、長年身についた習慣を変えるのは難しい。次は、悪習を変える科学的な方法でも探ってみようか。

日経BPヒット総合研究所 上席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。早稲田大学非常勤講師。