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立川談笑、らくご「虎の穴」

小さんvs.談志 「親子ゲンカ」に出くわした 立川談笑

2015/2/25

落語界では語り草になっている「小さんvs.談志直接対決」の模様を再現してみます。落語協会会長柳家小さん師匠(五代目)と、落語立川流家元立川談志。師弟であるこの二人が永い仲違いの末に対面をした瞬間、何があったのか。現場に居合わせた私によるルポルタージュです。

1993年11月末。その年の春に入門したばかりの私は、兄(あに)弟子のワコール(現・談慶)さんと二人で師匠談志のお供をしていました。つまりカバン持ちです。パーティーに出席するだけという気安さからか、珍しくご子息も一緒でした。

日本経済新聞社で開かれた落語会で高座に上がる立川談笑師匠

日比谷の帝国ホテルに入る時、ふと見上げると隣りの芸術座のビル壁面に下がった大きな宣伝幕に談志が気づきます。『桂南光襲名披露』。

「ああ、そうか。後でちょっと顔出してやろうか。いったい誰が出るんだ。……柳家小さん。うっへっへー。ヤメた。ヤメ、ヤメ!」

すたこらさっさと、まるで銭形警部の姿をみつけた時のルパン三世のようにおどけた風情で師匠は帝国ホテルに飛び込みました。

談志は16歳で小さん師匠に入門した弟子ですが、当時は「競演NG」の間柄でした。そんな関係に至ったいきさつには今回は触れません。この時点で談志は、東京最大の落語家団体である落語協会を脱退し立川流を創設して以来10年。家元を名乗っています。一方の小さん師匠は現役バリバリの落語協会会長。剣道は範士七段の腕前。

パーティー会場で酒が入って気が大きくなったのか、あるいはいくらかその気もあって酒で勢いをつけたのか。ホテルを出て芸術座の横を歩きながら師匠がニヤリと笑ってご子息に声をかけました。

「面白いもの、見たい?」

「見たい見たい」

楽屋口からビルに入ります。警備員さん、不問。前座の私は心で叫びました(この人、危険人物なんですけど! 出演者でもないし呼ばれてもいないんですけど!)。無言でずんずんと進みエレベーターに乗ってホール階へ。この先には披露目のお祝い感に満ち満ちた楽屋があります。和気あいあいと楽しい楽屋が。

楽屋へと続く廊下では立ち働く前座さんたちとすれ違いました。談志の顔を見るや、アッと息を飲んだまま飛び退いてペタリと壁に張り付きます。次から次に、アッ、ペタリ。アッ、ペタリ……。

そしてついに楽屋に入りました。畳敷きの広い楽屋の真ん中にテーブルが一つ。真正面に小さん師匠がどっしりと座っていました。左手に桂米朝師匠。東西の人間国宝が揃っている、まるで宝物庫です。

談志は靴を脱いで楽屋に上がるとその場に正座して高座同様の丁寧なお辞儀とともに、誰に言うともなくお祝いの挨拶を口にしました。小さん師匠は表情ひとつ変えずにじっとその姿を見つめています。

談志はそのまま小さん師匠の真向いにあぐらをかくと、左手の米朝師匠を相手に世間話を始めました。上方芸界の話などを一方的にあれこれと楽しそうに話をする談志。「そうですなあ」などと相槌はうつものの、米朝師匠は明らかに困っておられました。話の合間に小さん師匠に向かっても言葉をかけ始めます。これまでの10年に及ぶ確執など気にも留めてないような素振りです。黙ったまま談志をじっと見つめる小さん師匠。気まずいながらも話に付き合わざるをえない米朝師匠。ひとり上機嫌にしゃべりまくる談志。

気づくと小さん師匠は談志を睨みつけていました。明らかに激怒している表情です。なおも談志は小さん師匠を挑発し続けます。

「てえげえにしやがれッ!(大概にしやがれ)」

楽屋に小さん師匠の怒声が響き渡りました。さすが範士七段。壁がビリビリと震えるほどの一喝です。これを、柳に風とばかりに談志が受け流します。

「何を『てえげえ』にすりゃいいの?」

「だいたいお前はなあ、生意気なんだ!」

「生意気かどうかってのは、師匠と俺との価値基準の問題だな」

「お前は理屈っぽいんだ!」

「理屈っぽいかどうかっていうのはそれぞれの……」

「それが理屈っぽいんだ!」

挑発にのった小さん師匠が、まんまと談志の寝技に持ち込まれた格好です。あとはもう、親子漫才もいいところでした。とにかく小さん師匠は終始怒りまくっていて、談志はそれを喜々として楽しんでいる。これがはた目にはおかしいやら心温まるやら。その場に居合わせた談慶さんも私も(そう、川戸貞吉さんもいらっしゃいました)、みんな笑いをこらえるのに大変でした。今ならスマホですかさず録音をしているところでしょう。たとえばこんなやりとりです。

「ガキの頃、よく師匠に殴られましたよ」

「殴ってない」

「いや、殴りましたって」

「殴ってない」

「殴りましたよ」

「お前も(師匠である俺を)殴った」

結局、談志の乱入により憤慨した小さん師匠は打ち上げにも出ずにお帰りになりました。楽屋口で靴を履く師匠に靴ベラを差し出す談志。「いらないッ。余計なことすんな」。挙句、横から抱き付きざま、「ねえ、打ち上げに行こうよぉ」。振り払いながら「さわるんじゃない!」。

今頃お二人はあちらでどうされているんでしょう。仲良く親子喧嘩をしてるかしら。うーん、周りはずいぶん楽しそうだなあ。

(次回は3月11日に更新予定)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二つ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打ち昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会3月14日、4月21日、広瀬和生氏とのトークショーもある「この落語家を聴け!」(北沢タウンホール)は3月24日、吉笑(二つ目)、笑二(同)、笑笑(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会3月26日、4月24日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/ 

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