ライフコラム

生きものがたり

「ケレケレ」と鳴くカイツブリ 春の訪れ告げる声

2015/2/28

カイツブリ(冬羽)。頬に赤味が増して夏羽に衣替えする頃、雌雄で鳴き交わすようになり、やがて繁殖に至る=写真 石田光史

まだ雪景色の地域もあるだろうが、東京ではすでにヒキガエルが動き出し、アオキのつぼみも膨らんできた。スズメやムクドリなどの群れは分散が始まり、2羽単位で活動するものが目立ってきた。ペアができつつあるに違いない。

■小さいが「カモの子」にはあらず

来るべき春はカエルや虫、植物にとって目覚めの季節であり、冬を耐えた野鳥たちはペアとなって子育てを始める。近所の公園の池では、カイツブリが夏羽に衣替えをして、ケレケレケレと大声で鳴きだした。繁殖の前兆である。

湖沼などの淡水域に浮いている鳥の中で、最も小さいのがカイツブリだ。カモ類で最小のコガモがハトサイズはあるのと比べ、カイツブリはおよそムクドリサイズ。カラスサイズのカルガモなどが近くにいると、よく「カモの赤ちゃん」と思われている。

カモでない証拠に、とがったくちばしで小魚や水生昆虫を捕らえる(カモ類のくちばしは横に平たく、植物質を主食とするものが多い)。よく泳ぎ、よく潜るが、みずかきはなく、足指が平たくてスクリューのようになっている。尾羽は退化してほとんど見えず、飛ぶことはまれ。天敵が近づいても潜って逃げる。

カイツブリ(夏羽)。くちばしの付け根にご飯粒を付けたような斑が目立つ。ひなや幼鳥の顔にはしま模様がある=写真 石田光史

また、小さくても子供でないことは季節でわかる。子が巣立つのは早くても4月以降だ。小鳥にせよ、カモ類にせよ、前の年に生まれた子も翌年の春まで生き延びたら繁殖年齢に達するので、すでに成鳥と見分けがつかなくなっている。

夏にカルガモに混じってカイツブリの親子が泳いでいたことがある。それを見ていた人間の親子の会話がおもしろかった。

母親がカイツブリを指さして「ほらカモの子がいるわよ」と、ここまではよくある話だが、目をやった子供がカイツブリのヒナに気づいて「もっと小さいのもいるよ!」。すると母親はこう応えた。「あれがカモの孫なのよ」

カンムリカイツブリ(冬羽)は全長56センチで大型のカモ類ほどのサイズがある=写真 石田光史

食欲旺盛な外来魚が増えたことにより小魚や水生生物が減った池では、カイツブリの減少が心配されている。幸い、近所の池では外来魚の駆除などが功を奏したのか、一時いなくなったカイツブリが戻ってきた。巣作り、交尾、産卵、抱卵と進んで「カモの孫」が見られることを期待したい。

■湖が凍る北海道では冬は越せず

カイツブリは一年中見られるように書いてある図鑑がある。だが、北海道では秋冬にはいなくなるのが普通だ。凍った湖沼では生きていけないし、潜って冬を越すわけにもいかない。となると、津軽海峡を渡ってどこかで冬を過ごしているはずだから、本州以南には冬鳥カイツブリがいるに違いない。

同じ種であっても、夏鳥、冬鳥は地域で異なる。日本では冬鳥のツグミやガン、カモ、ハクチョウ類はロシアでは夏鳥になることは考えればおわかりいただけるはずだが、厄介なのが日本に一年中いると思われている鳥たちだ。カワセミやウズラ、キジバト、ウグイス、キセキレイなどはカイツブリと同様に北海道では夏鳥として春に姿を現す。

カンムリカイツブリ(夏羽)。繁殖する湖沼ではペアで首を振るようなダンスが見られる=写真 石田光史

南方ではどうだろうか。沖縄ではムクドリやセキレイの仲間、白いサギの仲間は冬鳥なので、春には九州以北に北上するはずだ。例えばキセキレイは本州、四国、九州では一年中見られるが、春夏は北海道、秋冬は沖縄に移動する冬鳥や夏鳥と呼ぶべきキセキレイ、あるいは北上する春と南下する秋に通過する旅鳥キセキレイがいてもおかしくない。

カイツブリの仲間には、大きなカンムリカイツブリもいる。美しい夏羽やペアになると水面でダンスをすることで有名だ。春夏は大陸で繁殖し、日本では秋冬を過ごす冬鳥が多いが、北帰行を前に夏羽を見せてくれることもあるし、青森県や茨城県では繁殖するものがいる。

(日本野鳥の会主席研究員 安西英明)

安西英明(あんざい・ひであき) 1956年生まれ。日本野鳥の会が81年、日本初のバードサンクチュアリに指定したウトナイ湖(北海道苫小牧市)にチーフレンジャーとして赴任。野鳥や環境教育をテーマとした講演で全国各地を巡る。著書に「スズメの少子化 カラスのいじめ」など

※「生きものがたり」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「野のしらべ」(社会面)と連動し、様々な生きものの四季折々の表情や人の暮らしとのかかわりを紹介します。

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