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 出産後の負担を抱える女性を心身両面で支える「産後ケア」。働く女性が増え、職場でも注目する動きが広がってきた。育児休業からの復帰プログラムに採り入れたり、社会貢献活動の一環で支援したりする例が目立つ。子育てしながら働く女性の手助けになるのはもちろん、同僚が産後について知る機会にもなる。職場復帰を促したい企業の意向は強く、働きやすい環境づくりに向けて関心が集まりそうだ。
日本公庫では育休復帰前の職員向けセミナーで産後ケア講座を初めて採り入れた

日本公庫では育休復帰前の職員向けセミナーで産後ケア講座を初めて採り入れた

「妊娠すると、母子健康手帳を受け取りますよね。でもお母さんの健康にはあまり気を配られていない。だからこそ産後ケアなんです」――。東京・千代田の日本政策金融公庫本店に育休中の女性職員10人弱が集まり、産後ボディケア講座のインストラクターの話に聞き入っていた。日本公庫が仕事復帰前に企画したセミナーでの一コマだ。

「子どもを抱くようになって肩こりがひどくて」。職員の悩みに、インストラクターが「肩こり解消はほぐすことから。ポイントは肩甲骨です」など簡単な運動の仕方を交えてアドバイス。参加した提箸友里香さん(35)は「日常生活にも簡単に採り入れられそう。同じように職場復帰を目指す皆と体を動かしながらリラックスした雰囲気で話せたのもよかった」と話す。

日本公庫は職場復帰までの不安を軽くしようと、これまでも育休中の職員と上司が同席して復帰後の働き方や将来のキャリアをともに考えるセミナーなどを続けてきた。さらに産後の体調管理の大切さも意識するようになり、今回初めて産後ケア講座を開いた。協力したのがNPO法人マドレボニータ(東京・杉並、吉岡マコ代表理事)だ。

産後とは妊娠・出産で受けた身体のダメージが徐々に癒え、母としての役割や新たな家族関係を受け入れて仕事や社会活動への復帰に向けた準備に入る1年前後の期間。吉岡さんは自らの出産を機に、この時期の心身をケアする教室を1998年に始めた。筋力や持久力を取り戻す運動に加え、「子どものママ」ではない「私」について語る時間も設けている。孤立しがちな産後から職場や社会に踏み出す橋渡し役を目指す。

産後ケアは出産した女性や家族それぞれの問題とみられがち。だが、うつの人などの復職・再就職支援を手掛けるビューポイントコミュニケーションズ(名古屋市)の柴山慶太社長は「産後ケアを手厚くするのは職場にとってもプラス」と強調する。

同社では産後ケアの教室にかかる費用を会社が全額負担する。「産後ケアに向き合う時間が、なぜ働くかを見つめ直す機会になり、その後の働き方も変わってくる」と考えた。社長が自ら育休を取り、妻をみて産後のつらさを知ったのも後押しになった。

会社側には優秀な女性に出産後も働き続けてほしいという強い思いもある。そこで福利厚生サービスに採用する流れも出てきた。企業向け福利厚生代行大手イーウェル(東京・千代田)が展開する「WELBOX(ウェルボックス)」のメニューに昨年7月、産後ケア教室が加わった。「女性がきちんと職場に戻れる環境をつくりたい企業と、外出もままならず悩みが深まる女性、双方のニーズがあると直感した」と担当の榎本修子さん(38)。約4千のメニューが並ぶなか、新たな申し込みが毎月2~3件のペースであるという。

産後ケアをメニューに採用したきっかけも実は女性の声。第2子を出産後に教室に参加した住友商事の小室伊都子さん(37)が「子どもを介したママ友でなく、産後の悩みを共有しつつ互いに叱咤(しった)激励できる戦友ができた感じ。体の回復に加え、孤立からも抜け出せた」と実感。復職の準備にもなるからと住商の出資先のイーウェルに呼びかけた。

近畿日本ツーリストは産前産後ケア推進協会と組んでホテル滞在型の産後ケアプランをスタート。福利厚生メニューとして、4月導入に向けて複数社が準備中だという。

HISが企画した産後ケアのバスツアーでは職場復帰も意識

HISが企画した産後ケアのバスツアーでは職場復帰も意識

エイチ・アイ・エス(HIS)も産後ケアのバスツアーを始めた。第1弾が母子限定の房総半島日帰り。産後ケアの専門家が同乗して移動中に心身のケアの相談を受けられるなど工夫を凝らした。参加した松本佳代さん(41)も「こういう企画が当たり前になったらうれしい」。第2弾は職場復帰応援と銘打ち、3月上旬に夫婦と子どもが参加して開く予定だ。

社会貢献活動の一環で取り組む企業も出てきた。西友はマドレボニータに助成金を出し始めた。「社内のミーティングで吉岡さんに産後ケアについて話してもらったことで、職場の男性にも理解が進んだ」(金山亮執行役員)

ソニーも電子お薬手帳「harmo(ハルモ)」の事業室が川崎市でのカップル向け産後ケア教室を支援。「CSV(事業を通じて収益と社会問題の解決の両立を図る試み、共通価値の創造)につながればと始めたが、担当の独身男性社員もイクメン予備軍だからか熱心。事業室にとっても仕事への姿勢など様々な形で得るものがある」(渡辺普事業室長)。職場の意識変化にもつながっている。

産後ケアに詳しい東邦大学看護学部の福島富士子教授は「産後ケアはまだこれからの分野。女性の活躍や仕事と家庭の両立という観点からも職場での理解が進めば、大きな流れにつながるはず」と期待を寄せる。子育て支援策や短時間勤務などが整ってきた会社にとっては、さらに働きやすい職場に向けた次の一手になるのかもしれない。

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