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小・中学校の先生が支持する「勇気づけ」子育て法

2015/3/19

日経DUAL

 『ほめるより子どもが伸びる勇気づけの子育て』の著者である原田綾子さんは、アドラー心理学を基本とした「勇気づけの子育て法」を実践。元小学校教員という経歴と、2人の娘を持つ母親としての気づきを基に、子育て講座や講演活動を中心に教育コンサルティングを行っています。原田さんのメソッドは、子育て世代の母親や父親だけでなく、小学校・中学校の先生からも広く支持を集めています。「褒めて育てる」よりも「勇気づけて育てる」ことに重点を置く、原田さんの子育て論について伺いました。

―― 「褒める」ことよりも「勇気づける」ことの大切さをうたっていらっしゃいます。この2つの違いを教えてください。

原田綾子さん(以下、原田) かつて「褒める子育て」ブームが起きて、叱るよりも褒めることで子ども達の良いところを伸ばしていこう、という考え方が一般的にも広まりました。良い教育方針として、今も浸透していると思います。私自身もそれを以前は信じていて、小学校の教員時代には実践していました。

■「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点

原田綾子  HeartySmile代表、勇気づけの親子教育専門家。元埼玉県公立小学校教員、二児の母。勇気づけの子育て講座や、母親自身がさらにHAPPYになるための心理学講座、教育コンサルティングをしている。「心が元気になる」「子育てに迷いがなくなった」「子どもが変わった」と好評で、関東のみならず、全国各地からの受講生も多数。著書に「ほめるより子どもが伸びる勇気づけの子育て」(マイナビ文庫)などがある。ブログは「勇気づけの子育て・自分育て」http://ameblo.jp/haraaya0731/ (写真:鈴木愛子)

 私は熱心に褒めることから始めました。例えば、ごみを拾った子に対して「えらいね、いい子ね、またやってね」と褒めます。するとその子は喜んで次もごみを拾います。褒めれば褒めるほど、クラスはピカピカになりました。褒めた効果が出たと思って、私もうれしかったんですよ。

 しかしあるとき、私が出張で授業ができなかったことがありました。子ども達が帰った後の教室に行ってみると、たくさんのごみが落ちているんです。

 そのときに私は気づきました。「ああ、子ども達は、褒めてくれる私がいなければごみを拾わないんだ」と。

 子ども達がごみを拾っていたのは、褒め言葉というご褒美が欲しいからだったんですね。それは決して自主的なごみ拾いではなく、受け身的な行動です。「褒めて伸ばす」教育には、こんな落とし穴があるのだと分かったのです。

 私は、褒めることの限界について考え始めました。褒めるとは、言い換えれば「できたときには褒める」「できなければダメ」と子ども達を評価するということ。「できるまで頑張れ」と叱咤激励を続けるということでもあります。これは子どもにとっても大人にとっても、本当は息苦しいことです。

 私は「褒める」ことの裏にある評価の概念を捨てなければと思いました。そしてたどり着いたのが「勇気づけ」なのです。

■自分の行為が人の役に立ち、自分の喜びになる

―― 勇気づけとは具体的にどのようなものなのでしょう?

原田 勇気づけとは、子どもを評価するのではなく、共感し寄り添うことです。ごみを拾った子に対して「えらいね、おりこうさんね」と褒めると、それは評価になります。

 そこで、「ありがとう、うれしいわ」と言い換えてみてください。親しい友達に言うように。「ありがとう」は感謝の気持ちです。子どもと同じ目線で立っているからこそ出てくる言葉でもあります。これが「勇気づけの言葉」です。

 勇気づけの言葉をかけられると、子どもは積極性を増していきます。「うれしい、ありがとう、助かったわ」といった言葉から、自分の行為が人の役に立ち、自分の喜びにもなっているからです。勇気づけを繰り返すうち、子ども達は人に見られていなくても、褒められなくても、自主的に行動を起こすようになっていきます。

 勇気づけの効力は、大人である自分に置き換えてみてもよく分かります。例えば、料理や掃除をしたとき、パートナーから「えらいね~」と言われたらどう感じますか? 違和感がありませんか? 

 これは、「えらいね」という言葉が「上から目線」だからです。「おいしい料理をありがとう。うれしい」とか「掃除をしてくれたんだね。助かるよ。ありがとう」と言われたほうが、よほど気持ちがいいですよね。勇気づけの言葉は、言うほうも言われるほうも、気分が良いものなのです。

―― なるほど。確かに褒められるよりも勇気づけられるほうが、気持ちいいです。

原田 そうなんです。大人も子どもも、それは同じなんですよ。子どもにとって本当に必要なのは、褒め言葉という甘いご褒美でも、怒りを向けられる恐怖でもなく、親が自分のことを本当に見ていて、認めてくれると感じさせる言葉がけです。それが勇気づけです

 褒めても叱ってもうまくいかない、と悩んでいるご両親には、ぜひ勇気づけを始めていただきたいのです。

■親子の関係は「上下関係」ではなく「横の関係」で

―― 勇気づけの最大のコツは何ですか?

原田 まず、評価という概念を取り払うことです。通知表をはじめ、順位を付ける様々な物差しによって子ども達を評価することも大切ですが、結果だけではなく、過程や姿勢に対する勇気づけも重要です。

 子どもは一人ひとりが一番星。何かが特別にできたときだけ褒めるのではなく、「毎日元気に学校へ行っていて、お母さんうれしいわ」「おいしそうに食べてくれてありがとう」などと当たり前のような行動に注目し、勇気づけることが大切です。そのとき、ポジティブな視点を持つこともコツです。

 どうしても短所ばかりが目についてしまう、ということもあると思います。そうしたら見方を変えましょう。

「片付けが苦手でだらしない」と考えるのではなく「細かいことは気にしないおおらかな子」

「なかなか物事が決められなくて、優柔不断」と捉えずに「じっくり考えられる力の持ち主」

「わがまま」ではなく「自己主張のできる子」

 そんなふうに短所を長所に置き換えていくのです。

 また、子どもに対する「上から目線」を捨てましょう。子どもと上下関係ではなく横の関係をつくりましょう。上下関係の中で怒られたり評価されたりして抑圧されている子どもは、大人の顔色をうかがうことに長けてはきますが、安心して大人を信頼することが難しくなります。

 相手が子どもであっても、一人の人間として尊敬すれば、子どもとの信頼関係は深まっていきます。

■フロイトとは真逆のアプローチのアドラー心理学

―― 原田さんのメソッドのベースとなっているアドラー心理学とは、どのようなものなのでしょうか?

原田 オーストリアの精神分析学者であるアルフレッド・アドラー(1870~1937)が打ち立てた心理学です。アドラーはフロイトの精神分析に興味を持ち、研究を始めましたが、後にフロイトと袂を分かちます。

 日本ではフロイトのほうが有名ですが、近年はアドラーへの注目も高まっています。アドラーは第一次世界大戦中に世界初の児童相談施設を創設した人でもあり、児童の教育についての著作も多いんですよ。子どもの教育を通して未来を変えていこうと考えていた人なんです。

 アドラーは、フロイトとは真逆のアプローチで心に迫ります。フロイトは、ある症状なり状況なりが出現したとき、なぜそれが起きたのかを過去に遡って検証します。その人のこれまでの経験や記憶を探り、何が原因なのかを探るのです。それはある意味、「犯人捜し」の方法とも言えます。

■原因の追求ではなく、未来のために現在を変えていく

 対して、アドラー心理学では「何のためにその人は今その行為をしたのか(あるいは症状が出たのか、状況が起きたのか)」と、現在を起点に未来に向かって考えます。原因を追究する犯人捜しとは逆に、アドラー心理学は「何のために」と目的に重点を置いて分析するのです。過去よりも、未来を重視した考え方です。

 アドラー心理学では、よりよい未来に向かって現在を変えていくために、「勇気づけ」を行うのです。

 心理学では、人は注目された行動の頻度を増やすと考えられており、これを「強化」と言いますが、勇気づけを繰り返すことで子ども達のやる気と自信が引き出され、それぞれの持ち味もどんどん生かされるようになってきます。

―― アドラー心理学は前向きなものなのですね。

原田 そうなんですよ。アドラー心理学に基づいて子ども達の行動や心を考えてみると、とてもシンプルな一つの答えにたどり着きます。

 問題行動も含め、子ども達を突き動かす動機は「両親や教師など、周りの大人達に注目されたい、大人に認められたい」というものに尽きます。困った行動を取るのも、周囲の気を引きたいがため。しかしそのときに感情的に怒ったり、ご褒美という交換条件で彼らの気持ちを抑え込んだりするのは良くありません。

 そんなときこそ、勇気づけが必要なのです。

(ライター 濱野ちひろ)

[日経DUAL2015年1月29日付の掲載記事を基に再構成]

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