育休、時短勤務経験を持つ32歳マネジャーのリアル

2015/3/12

DUALプレミアム

日経DUAL

2010年に雑誌『FQ JAPAN』の「Mr.イクメンコンテスト」で準グランプリに、2011年に厚生労働省認定「第6回イクメンの星」に選ばれ、厚生労働省イクメンプロジェクト推進チームメンバーとしても活動中の越智聡さん。外資系コンサルティング会社アクセンチュアでマネジャーとして働く32歳、共働きパパです。現在はプロジェクトごとに5人から20人のチームを束ねるイクボスで、過去には育児休暇と時短勤務を取った経験もあります。仕事にも家庭にも本気で向き合う、若手リーダーの等身大の姿をリポートします。

仕事に代わりはいても、育児に代わりはいない

8歳と5歳の子を持つ越智聡さん。今でこそ、育児中などで時間的制約がある部下達を職場でサポートするイクボスとして活躍しているが、子ども達がそれぞれ3歳と0歳だったころは、深夜タクシーでの帰宅が続く”モーレツ社員”だったという。

(撮影:吉澤咲子)

妻からは、「ほぼ一人で育児をするのは体力的にも厳しいから、もう少し早く帰ってきて。この生活はいつまで続くの?」と言われてしまう始末。ふと、「仕事は家族を幸せにするためのものなのに、逆に不幸にしていないか……」との思いが頭をよぎり、思い切って上司に相談したところ、進行中のプロジェクトのタイミングがよかったことなどもあり、しばらく休むことを提案されて2カ月間の育児休業を取るに至った。

休暇中は、保育園の送り迎え、子どものお風呂と寝かしつけを越智さんが担当。食事作りも奥さんと分担していた。「主体的に育児に関わることで、育児の大切さに気づいていったんです」。一方、仕事のほうは越智さんが不在の間、代わりにシニアマネジャーが入ってプロジェクトは滞りなく、順調に進んでいったという。

仕事には代わりがいても、育児に代わりはいない――そう痛感した出来事だった。

そうこうするうち2カ月が経ち、職場へ復帰。ちょうど新しいプロジェクトがスタートした時期にぶつかり、再び深夜帰宅に逆戻りしそうになった。そこで、上司に相談して今度は17時上がりの時短勤務を選択。「時短勤務は2年2カ月続けました。この経験を通して、仕事に対する様々な考え方が大きく変わりました」

例えば、以前は「定時の18時までに終わらない仕事は、残業して片付ければいいや」との気持ちが常にあったが、17時には会社を出て保育園のお迎えに行かなければならない。

「仕事の組み立て方や作業の進め方について、より強く意識するようになりました。ただ、どんなに工夫しても時間内に終わらないこともあります。そんなときは、“周りの人にあらかじめお願いしておく”という、他人の協力を得る方法も覚えました」

様々なメンバーと共に最大限の結果を出す

ここで、越智さんが普段からどんなことを心がけているのか、働き方のコツをいくつか教えてもらった。

●資料作りは、デスクに着いた瞬間からスタートできるように段取り

「資料をまとめたり作ったりする作業は、だいたい朝会社に来てすぐの時間帯に取り掛かります。それまでに、『こういう資料にしよう』『ああいう図を入れよう』などと脳内でイメージしておくんです。資料の読み込みは、前日の「疲れ気味の時間帯」に済ませておきます。アウトプットするにはパワーや集中力が必要ですが、資料を読むことは疲れていてもできるからです。そして、入浴中や寝る前のリラックスした時間に、頭の中で何となく構成を組み立てておきます。いったん眠ることでそれらが整理されて、翌日一気に取り組めるんです。実際の作業に取り掛かるときに大切なのは、資料を読み込んだり、作ったりしている間、メール画面は一切開かずに目の前にあるものだけに集中するということ。マルチタスクをしようとすると、結局気が散ってしまって、効率が落ちてしまうことが経験から分かりました」

●ミーティングのスケジュール調整役になる

「退社時間が決まっていると、遅い時間にミーティングが入っても出席することができません。そこで、自分から進んでミーティングのスケジュール調整役になるようにしています。一見雑務が増えるように見えますが、ミーティングも含め、自分の都合に合わせてタイムマネジメントできるようになるのでお勧めですよ。そして、ミーティングは眠気が襲う午後の時間帯に入れるのがポイント。眠いときにエクセルを使った細かいデータ作りなどをすると、ミスをしやすくなってしまいますが、逆に会話していると頭が活性化され、効率的だと思うんです」

●仕事を一人で抱え込まず、人にお願いをする

「育休を取ったとき、シニアマネジャーに仕事を引き継ぎ、申し訳ない気持ちでいましたが、結果的にプロジェクトは成功しました。情報共有や引き継ぎの仕組みがあれば、実は誰がやるのかはさほど重要な問題ではありません。自分としては少し寂しいですが、自分の仕事だから自分だけで乗り切ろうなどと考えていてはいけません。

部下の数が増えれば増えるほど、人にお願いをする必然性も増えていきます。これまでの私は何でも自分でやりたいタイプで、誰かにお願いするのが苦手でした。でも、時短勤務になったらそうは言っていられず、腹をくくって誰かにお願いする習慣を身に付けなくてはいけません。

これは仕事だけでなく、実は家事や育児でも同じこと。『一人ですべてやらなくちゃ』と思っていると行き詰まってしまいます。祖父母やママ友、パパ友、ファミリーサポートなど周囲にお願いしていくことが大切だと感じました」

●チームメンバーに無駄な残業をさせないよう、随時、確認作業を行う

「部下や後輩とはコミュニケーションを密に取り、仕事のイメージを共有しています。上がってきたものが考えていたものと全然違うとなると、差し戻すことになり、時間的、物理的なロスにつながります。基本、上司と部下は経験値が違うだけで、能力に差があるわけではないと思っています。上司だって、部下に伝える際に頭の中が整理できていないこともあります。その場合は『この部分はまだだから、君のほうでイメージしてもらえる?』と整理できていないところを具体的に伝えるようにしています」

●突発的なことがあっても対応できるよう、メンバー全員と共有する

「作りかけの資料は共有フォルダに入れて、他のメンバーとも共有します。さらにメールで進捗状況をその都度、報告。仕事を属人化せず、誰が見てもどの資料がどこにあり、何がどこまで進んでいるかが分かるように透明化を図っています。そうすれば、誰かが急に休んでも、仕事は止まらずにスムーズに進みます」

家事がうまく分担できるかは、妻の声掛け次第

さて、家庭では家事、育児にも積極的に参加する越智さん。自分自身が子育てと仕事との両立に苦労してからは、妻への配慮も生まれたという。

「仕事から疲れて帰ったら、ひと休みしたい気持ちにもなりますが、子どもとずっと一緒だった妻だって疲れているはず。のんびりごはんが出てくるのを待つのではなく、ささっと洗い物をしたり、洗濯物を畳んだりと、自分から率先して動くようになりました」

そのような気持ちになれたのも、妻の絶妙なコーチングがあったからだという。

「洗濯物の干し方や畳み方って、人によって少しずつ違うものですよね。そのとき、『そうじゃないの、こうやってよ』などと目くじらを立てられたら、『やらないほうがよかったのかな』とやる気がダウンしてしまいます。でも妻は、『ありがとう。どっちかと言うと、これからはこうしたほうがいいかな』などと優しく言ってくれるんです。『喜んでもらえた。次からはもっと頑張ろう』と思えるから、男って単純ですよね」

家事の役割分担も自然にできていった。今では焼きそばやカレー、チャーハンを作るのは越智さんの担当だ。

「妻が『パパの作るカレーが一番おいしいよね』と、子ども達に言ってくれるんです。そうすると、子どもも『パパのカレーがおいしい』と思ってくれるので、『じゃあ僕が作るか』となりますよね」

パパが家事する姿を見せていると、子ども達も自然と家事に参加するようになる。今ではゴミ捨ては長男の、ティッシュの詰め替えは次男の仕事だ。「ティッシュが無くなると、次男は『ちょっと替えてくる』と叫び、すぐに取り換えてくれるんですよ」

制約経験のあるボスは、部下のパフォーマンスを引き出しやすい

入社当時、越智さんの職場は「9 to 9(ナイントゥーナイン)」といって、朝9時から夜9時まで働くのが前提の雰囲気があったという。ところが最近では、社内でも様々な働き方が認められるようになってきている。例えば、育休や時短勤務を選ぶ人は女性社員だけでなく、男性社員でも、さらにはマネジメント層でも確実に増えてきた。

「部長職の女性社員が時短を取ったケースもあります。管理職が率先して早く帰ることで、部下も取り組みやすくなるのだと感じています」

マネジャーの立場にある越智さんはこう続ける。

「今後、育児や介護を経験した人が管理職にもどんどん増えてくれば、会社の成長につながると思います。そういった人達は私生活で自分とは違う価値観や考え方の人をまとめたり、どうにもならない壁を体験したりしているので、様々なバックグラウンドを持つチームメンバーのことを理解しやすい。各人がパフォーマンスを発揮しやすい環境をつくってあげられると思います。

今後、職場は性差や国籍だけでなく、異なる働き方の集合体にもなっていきます。『残業は何時間でもできます』『土日もOK』という人もいれば、『17時以降は一切仕事を入れません』という人もいる。そういう人達を束ね、結果を出していかなくてはいけません。

私も経験から学んだことを後輩達に伝え、不平不満が出ないようにするにはどうしたらいいのか、それぞれの能力を引き出すにはどうしたらいいのかを考えながら、それぞれにとっての働きやすい環境を整えていけたらと思っています」

(ライター 西山美紀)

[日経DUAL2015年1月21日付の掲載記事を基に再構成]