住宅を購入するときに親や祖父母からおカネを借りることがあります。税理士の藤曲武美さんは「身内に資金的な余裕があると、金融機関から借りるよりも手間がかからなくてよいと思い、借りる例が目につく」と言います。
その場合に注意したいのが税金の扱いです。税務署は親族間のおカネの貸し借りには神経質です。本人は借りたつもりでも、きちんと返済していないこともあり、「実質的に贈与と変わらないケースが目立つ」と税理士の阿保秋声さんは指摘します。贈与を受けたら原則、贈与税を支払う必要があります。
税務署は、収入に見合わないような高額の不動産を手にした人などには「資産の買い入れ価額などについてのお尋ね」という質問文書を送ることがあります。購入資金の出所や贈与の有無について聞くためです。親から借りたと答えても返済の証拠がなければ後日、贈与とみなされ、課税される可能性があります。
Aさんのケースで1000万円が親からの贈与とされれば177万円もの贈与税がかかる計算です(表)。課税を防ぐには「おカネの貸し借りであることを示す証拠を残したうえで、実際に返済していることが必要」と藤曲税理士は言います。
確実な方法としてはまず「金銭消費貸借契約書」を作ります。契約書には貸し借りの金額、返済する期間や利息、方法などを明記し、借り手と貸し手の双方が署名なつ印します。契約書を作っても返済実績がないと贈与とされてしまいますし、現金で返済すると証拠が残りません。阿保税理士は「銀行口座で振り込むことが必要」と言います。
親子間では市中金利よりも低い利息で貸し借りする例が目立ちます。無利息での貸借もあります。弁護士の上柳敏郎さんは、「契約上は無利息もありうる」としていますが、税務署の目を考慮すると、できれば無利息は避けた方が無難でしょう。
金利を支払わないとその分、貸し手が借り手へ経済的利益を贈ったとされ、贈与税の対象になる可能性があるからです。Aさんの場合、「市中の住宅ローンの金利を参考にして、年1%程度の金利を付した方がいい」と阿保税理士はいいます。なお、利息をゼロにするか低くすることに伴う年間の経済的利益が、贈与税の基礎控除にあたる110万円の範囲内であれば課税されません。
[日本経済新聞朝刊2015年2月18日付]