チャンバラ、カーリング……社員旅行は皆で汗

チャンバラや廃校での授業、カーリング……。日本の企業文化の象徴で、バブル崩壊後に衰退した社員旅行が内容を変えて復活しつつある。宴会やカラオケといったかつての旅行内容から一変し、世代を問わずに参加できるチャンバラや鬼ごっこなどを取り入れたプランが人気を集める。社員旅行の最新事情を探った。

職場旅行先でスポーツチャンバラを楽しむアンテリオの社員(栃木県日光市の江戸ワンダーランド日光江戸村)

2月上旬の金曜日の昼すぎ、栃木県日光市にある歴史テーマパーク「日光江戸村」に武士や町娘など江戸時代の仮装をした約80人の会社員が集まった。医療ベンチャーのアンテリオ(東京・千代田)が実施した社員旅行だ。

今年の社員旅行では、約80人の参加者を所属部署や肩書とは関係なく、徳川軍や伊達軍など10のチームに分けて、スポンジ状の「剣」でたたき合うスポーツチャンバラを実施。参加者は童心に返り、夢中で真剣勝負を繰り広げていた。

同社は毎年1回社員旅行を実施しており、旅行に合わせて、例年雪合戦やチャンバラ合戦などのイベントも催す。毎年2月ごろに開催する社員旅行のために、前年の4月に「社員旅行担当役員」を置くほどの熱の入れよう。今回の旅行もチームごとに事前に衣装内容やチャンバラ時の戦略を数カ月前から話し合うほどの盛り上がりぶりだ。

伊達政宗にふんしてチャンバラに参加した仁司与志矢社長は「社員旅行に真剣に取り組むことで、普段交流のない部署の社員の人柄も分かり、日常業務も円滑になる」と狙いを話す。

また中途採用が多いベンチャー企業にとって、転職組がスムーズに他の社員と打ち解けられる効果もあるという。実際、2010年に同社に転職してきた山田岳広さん(35)は「入社してすぐ社員旅行があり、その時は社員全員で雪合戦をした。社員旅行を通じて、普段交流がない社員と話すことで実際に仕事をする時に相談をしやすくなった」と打ち明ける。

社員旅行はバブル時期がピークで、全国の温泉地にあるホテルで宴会を実施したり、海外旅行に出かけたりするなど企業の愛社精神を育む福利厚生の一環として多くの企業に定着していた。しかしバブル崩壊後、若者の意識の変化もあり、廃止が相次いだ。

プロティア・ジャパンは社員旅行で廃校を活用(栃木県大田原市)

しかしここ数年は一転して、社員旅行を復活させる企業が増えている。民間シンクタンクの産労総合研究所が約2千社を対象に実施した調査によると、社員旅行を実施している企業は14年に46%となり10年前(36.5%)に比べて9.5ポイント増えた。

法人向けの団体旅行を手掛けるJTBコーポレートセールス(東京・新宿)の大塚雅樹常務によると「旅行という共通体験をすることで生まれる一体感を重視する企業が増えている」。特に「コミュニケーションや自己表現力などを高められる社員旅行を希望する企業が目立つ」という。

化粧品や医療機器販売のプロティア・ジャパン(東京・千代田)が昨秋に実施したのは木造の旧校舎を活用した社員旅行。栃木県大田原市にある廃校を活用し、参加者は校舎内で国語と家庭科、体育といった科目を経験。国語では制限時間内にどれだけ多くの俳句を詠めるかを競ったり、家庭科では地元産のトウガラシを使って七味を作ったり、全員で取り組んだ。

同社の担当者は「飲食だけで終わる社員旅行ではなく、世代や部署を超えた社員旅行にしたかった」。参加者からも好評で、今年もイベントを中心にした社員旅行を開く予定だ。

ほかにもプリントシール機メーカーのフリュー(東京・渋谷)が北海道で鬼ごっこをしたり、買い取り専門店を運営するエンパワー(東京・新宿)が長野・軽井沢でカーリングを体験したり、イベントを盛り込んだ社員旅行を実施する会社は少なくない。

買い取り専門店運営のエンパワー(東京・新宿)は軽井沢でカーリング体験
プリントシール機メーカーのフリュー(東京・渋谷)は北海道での鬼ごっこ

仕事の学習論を専門とする東京大学の中原淳准教授は「バブル崩壊後に非正規雇用や派遣社員など人材の多様化が進み、価値観を共有することが難しくなっている」と指摘。「組織の一体感や力を引き出すことができる参加型の社員旅行を希望する企業は今後も増える」とみる。楽しみながら組織の一体感を生むにはどんなイベントを催せばよいか。社員旅行担当者の腕の見せどころだ。

(篠原英樹)

[日経MJ2015年2月18日掲載]

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