大切な食事の場を的確に手配する
食事をともにすることは密接な信頼関係構築に役立つもの。デートでも、最初は食事に誘うことが多いのは、一緒に食事をすることで関係を深められるからです。これは日本だけでなく、世界共通のことだと言えます。大切な食事の場を的確に手配できるようになることは、コミュニケーションを円滑にするうえで非常に重要なポイントです。

しかし、外国人のために食事の手配をするのは、想像以上に配慮が必要なものでもあります。たとえば、海外から出張してきた取引先の外国人の方のために、ディナーやランチの手配をするとしましょう。いつも日本人の取引先を接待するのと同じように考え、「美味しい和食だったらきっと喜ぶだろうと」思っても、一般的な和食店ではNGということもあります。というのも、外国人の場合、ベジタリアンであったり、生ものが食べられない方だったりといったように、食事について制約があることが珍しくないからです。いざお店に着いてから、お客さまが食べられるものはないと分かったら取り返しがつきません。
そこで今回は、そのようなことが起きないようにするためのポイントをお伝えします。
まず、外国人は日本人以上に、宗教的な理由や個人の食習慣、アレルギーなどの理由から、食事の制限が多いことを強く意識しておきましょう。特にインド人、ユダヤ人、イスラム教徒の方が相手の場合は十分な確認が必要です。
最初にすべきことは、相手の食事制限(food restrictions)を知ること。それを確認するため、相手にどのように質問すればよいかを押さえましょう。
・Do you have any food restrictions?(食事制限は何かありますか?)
・Are you allergic to any particular food?(食アレルギーはありますか?)
・Do you have any preferences when it comes to food?(「こういう食事がいい」という好みはありますか?)
・Are you a vegetarian?(ベジタリアンですか?)
・Do you only eat Kosher food?(コーシャ認定食[注]だけ食べるのですか?)
・Do you eat fish? (魚は食べますか?)
食事の制約の英語表現を押さえておこう
さて、このように相手に確認しても、慣れないうちは思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあるので注意が必要です。私もかつて失敗してしまった経験があります。ベジタリアンの外国人のお客さまを食事にご案内する際、「天ぷらやお蕎麦なら大丈夫」と思い込んで連れていってしまったのです。ところが、天つゆや蕎麦つゆなどの汁もの(soup)が鰹出汁(bonito stock)ではそのお客さまは食べられないことが分かりました。このときは、野菜の天ぷらをお塩で食べていただいて何とかその場を凌いだのですが、日本で良く使われる出汁にも注意が必要だということを学びました。
このような失敗例はほかにもあります。私がかつてイスラエルの会社の日本支社で働いていた頃、夏の暑い最中のことでした。同僚の技術者から、「イスラエルから出張してきた方を鰻屋さんに連れていったら、鰻をとても気に入っていたよ」と言われたのです。しかし、同僚はあまり英語が得意ではなく、出張してきた外国人に鰻が何なのかを伝えていませんでした。彼から私が「What's unagi?」と聞かれ、「It's eel.」と答えたとき、彼の顔が真っ青になったことは今でも忘れられません。ユダヤ教徒の場合、水中に住む鱗(scale)を持たない生き物は食べてはならないとされています。つまり鰻は宗教上食べてはならないものだったのです。
このような点にまで配慮するのは、知識がないとなかなか難しいものでしょう。せっかくですから、ここでどのような食事の制約があるのか、その英語表現も押さえてしまいましょう。
・vegetarian(ベジタリアン):菜食主義者
・vegan(ビーガン):卵も乳製品も食べない絶対菜食主義者
・avoid red meat(赤い肉を避ける)
・allergic to seafood(海鮮食品を食べない)
・do not eat raw meat(生ものを食べない)
また、日本で外国人の方の食事を手配する場合に備え、ベジタリアンに喜ばれるレストランにはどのようなお店が考えられるのかもご紹介しましょう。
・インド料理……インド人の方は宗教的に牛肉を食べないため、多くのお店にベジタリアン向けのメニューが用意されています。
・豆腐料理……出汁が鰹節などでとられている場合もあるので注意が必要ですが、豆腐は健康食として認知度が高いため、宗教的ではない理由によるベジタリアンの方には好評です。
・ビーガンカフェ……東京ではかなり増えてます。一度、インターネットで検索してみましょう。

同時通訳者。71年生まれ。実践女子短期大学国文科卒業、2004年早稲田大学社会科学部副総代で卒業。短卒後のTOEIC は280点。独自の勉強法で、半年後に805点を取得して英会話学校講師に抜擢。後、TOEIC 950点、英検1級を取得し、短大卒業から3年半で通訳者に。通訳した現場は、5000件以上。
(構成 千葉はるか)
[nikkei WOMAN Online 2014年8月21日付記事を基に再構成]