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ももクロ主演『幕が上がる』 演技輝かせた製作の裏側

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ももいろクローバーZ主演の『幕が上がる』。高校の演劇部を描く、この青春映画の評判が高まっている。本広克行監督らスタッフは、これまであまり演技経験のない5人をいかに鍛え上げたのだろうか。企画からクランクインに至る準備段階、そして撮影現場で繰り広げられてきた製作・演出の舞台裏について、関係者に話を聞いた。

撮影前に異例のワークショップ開催、演技ができない不安を解消

2014年は国立競技場や日産スタジアムで2日ずつ公演を行うなど、人気を拡大し続けるアイドルグループ・ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)。アイドル界の常識を打ち破ってきた彼女たちが、新たな挑戦として次に選んだのは「主演映画」だった。

2015年2月28日に公開された『幕が上がる』は、高校の演劇部を舞台とした青春ストーリー。同年1月中旬より一足先に関係者やマスコミ向けの試写が始まった時から、「アイドル映画の枠を超えた」「青春映画の新定番」など、高く評価する声が相次いだ。ももクロは本格的な映画出演はこれが初めてながら、ファン以外も楽しめる上質の作品に仕上がった理由のひとつは、通常の映画ではなかなかできない周到な準備をしたことにある。

企画の中心を担ったのは、『踊る大捜査線』で知られる本広克行監督だ。『幕が上がる』は劇作家・演出家である平田オリザ氏が2012年に出版した小説が原作。平田氏がもともと親交のあった本広監督に、出版前の原作を託し、「見た人みんなが楽しめる青春映画にできないか」と持ちかけたことが発端だったという。

一方、本広監督とももクロとの出会いは2013年の1月。トークイベント「ももクロ試練の七番勝負」にゲスト出演した際、5人の反応の良さに芝居もできるだろうと直感、『幕が上がる』と結びついた。そして、制作会社ROBOTとフジテレビがプロデュース、脚本は『桐島、部活やめるってよ』を手がけた喜安浩平氏が担当することとなり、映画は動き始める。

ヒットしない…「アイドル映画」への危惧

しかし、スタート時は不安を持つスタッフも多かった。プロデューサーとして参加することとなった守屋圭一郎氏は、本広監督からももクロ主演で映画を作ると聞かされ、「メンバーには申し訳ないのですが、ちゃんとした作品になるのか、正直、最初は懐疑的でした」と当時の心境を語る。

守屋氏が危惧したのは、悪条件の下制作されている「アイドル映画」が少なくないためだ。

ひとつ目はスケジュールの問題。ライブやテレビ出演などで多忙を極める人気アイドルは、十分な撮影時間を確保するのは難しい。スキルの問題もある。歌や踊りのレッスンは積んでいても、演技経験が豊富なアイドルは少ない。

実力のない俳優が限られた時間で撮れば、当然質の高い作品にはなりにくい。公開規模は小さく、劇場に足を運ぶのは一部のファンだけ。その結果、「アイドル戦国時代」と呼ばれるブームが数年続いている割には、アイドル主演の映画は本数自体も少なく、ヒットした例もほとんどない。

「どんなに小さな映画でも、主演ならスケジュールは最低1カ月必要。また、5人そろって出るからこそ、ももクロではなく役の人物に見える演技力も求められる。果たしてそれが可能なのか。オーディションをやって主役の女優を選んだほうが良いのではと考えた」(守屋氏)というわけだ。

「時間がない」「演技ができない」「ヒットしない」――スタッフが不安に感じたアイドル映画の"3つのない"を克服するため、本広監督は『幕が上がる』の製作にあたってレールを敷いていた。

スケジュールに関しては、マネジメントを担当する川上アキラ氏の理解があったことが大きい。川上氏はもともと俳優のマネージャー出身。過去に安藤政信を担当しており、『スペーストラベラーズ』で本広組の現場を経験している。

「ももクロには何でもできるアイドルとして、演技も身につけてほしいと以前から考えていたんです。エンタテインメント性の高い作品を手がけられる本広監督の映画に出られるなら良い機会だと思い、1年くらい前からスケジュールを調整していました」と川上氏。撮影期間として、約2カ月を確保。さらにクランクイン前には、異例の「準備期間」まで用意した。

その期間を利用して行われたのが「メンバーへの面談」と原作者の平田氏による「ワークショップ」だ。これはいずれも演技経験の少ないメンバーをサポートするため、本広監督が発案したものだった。

クランクインまで2カ月に迫った2014年6月上旬には、本広監督、守屋プロデューサー、脚本家の喜安氏がメンバーとの個人面談を実施。目的は5人の配役を決めるとともに、本人たちが持つ背景を脚本にフィードバックすることだった。メンバーの実体験などの要素を、おのおのが演じる人物のキャラクター設定やセリフに加えることで、本人たちに演じやすくさせる配慮だ。

「役ごとに誰が演じそうかを想定しながら、準備稿を用意していました。メディアでのイメージや本広監督から聞いた情報などを基に、ある程度の当て書きをしていましたが、メンバーと話してみて、さほど大きな変更は必要ないと分かったんです」(喜安氏)

それでも、この日の話を基に配役を決め、おのおのに細かな設定を加えたことで、メンバーからは演じやすくなったとの声が聞かれた。

「演出家の動き方」も学ぶ

そして平田氏によるワークショップは、2014年6月末から4時間ほどのものを4回開催。さらにクランクイン目前の8月にも2度行われた。

前半は与えられたシチュエーションで、自然にセリフが言えるきっかけを俳優自身で考えてみるなど、演技をする上での助けとなる思考を学ぶのが中心。後半はオーディションで選ばれた演劇部員役の女優らも加わり、『幕が上がる』そのものと、映画の中で部員が演じる舞台『銀河鉄道の夜』の台本を基に稽古をしたという。

「演劇部を舞台にした物語なので、監督から演劇を作る過程や俳優はどういうことを考えるかを体験させてほしいと依頼された」と平田氏。演出を担当する高橋さおり役を演じる百田夏菜子は、常に平田氏の横に立ち、演出家の動きやしゃべり方を学んだそうだ。

「多くの現場を経験しましたが、撮影が始まる前にワークショップを開く作品なんて初めて。分刻みで動く人気者がこれだけの準備をしてくれたことで、徐々に不安は薄らいでいきました」(守屋氏)

そして2014年8月22日、『幕が上がる』はついにクランクイン。現場で5人と対峙し、スタッフはその本気を見せつけられることとなった。

プロ意識の高さと吸収力の速さで演技力は急成長チームが一丸に

「クランクイン初日は自転車で走るシーンだけだったので、ほとんど会話がなくて、お芝居が始まったのは2日目から。その日には大丈夫、イケるって思いました」と話すのは、守屋氏とともにプロデューサーを務めるフジテレビ映画制作部の片山怜子氏。ワークショップなどで準備をしたとはいえ、不安は残っていた。現場に入ってそれを完全に払拭したのは、他でもないメンバー自身の力だ。

スタッフが最初に驚いたのは5人の現場に臨む姿勢。「すごく長いセリフもあるのに、メンバーが現場で台本を開いている姿は一度も見なかった。メイクルームでも移動の車でも読んでなかったらしい。全員がセリフを完璧に頭を入れてきていることに驚きました。しかも、撮休日にはライブや新曲のレコーディングもしているんですから」と言うのは守屋氏。ラインプロデューサーの巣立恭平氏も「現場ではいつも笑顔で、気さくに誰にでも話しかけてくる。疲れた顔なんて一切しないのが素晴らしいと思いました」と振り返る。

プロとして準備をしっかりしつつ、現場では積極的に盛り上げていく。そんなももクロの姿勢に、スタッフのほうが巻き込まれていった。「『あんなに頑張っているメンバーの前で失敗したら申し訳ない』『ももクロのためにいい画を撮ろう』という雰囲気がどんどん高まっていった」(守屋氏)と言う。

「もっと自由に」で生き生き

5人の演技は撮影に入って飛躍的に伸びた。それに伴い、本広監督のプランも変わったという。

あまり芝居のできない俳優の場合、望遠でアップを狙い、「目線を下げてしゃべって」「上げて空を見よう」といった細かい指示を出し、後から良い表情を編集でつなぐという手法を取ることもある。しかし、「現場で5人の演技を見たら、そんな小細工は必要ないと感じました」と本広監督は言う。

例えば百田夏菜子の場合、演技の経験が少ないことから「撮影開始当初はガチガチに固めたんです。2歩前に歩いて、ゆっくり右を向いてから空を見上げてセリフを言って、というように。でも、それだと彼女らしさが全然出ない。そこで、じゃあ自由にやっていいよ。動きやセリフの言い方も考えてごらんと言ったら、すごく生き生きとし始めましたね」(本広氏)。

可能な限り、台本の順に撮って行ったのも功を奏した。物語は、百田演じる演劇部の部長・高橋さおりを中心にその成長を描くもの。イヤイヤ部長を押しつけられたさおりだが、黒木華演じる「元学生演劇の女王」である美術教師・吉岡との出会いによって演劇の面白さに目覚め、全国大会を目指して演出家として部を引っ張っていく。

「最初は硬くて、セリフを言うのも自信がなさそうだった彼女が、撮影が進むにつれ、だんだんニュアンスを出せるようになったんです。そこに登場した黒木さんの芝居のうまさが反射したかのように、さらに良くなっていった」(本広氏)。百田の演技の成長と合わせるように、劇中のさおりは演劇にのめり込んでいく。結果、後半にいくほど、表情はどんどん輝いた。

撮影に慣れるに従い、対応力の高さも際立ってきた。百田が演出をするシーンは、実はセリフがなくアドリブ任せの場面も多い。「一度、10分以上カットをかけずにいたらちゃんと続けるんです。しかも、どんどん演出家の顔になっていくんですよね」(本広氏)。

ほかのメンバーも、それぞれ持ち味を発揮。5者5様の個性があったと、本広氏は振り返る。

集中力の高さを評価されたのは看板女優・橋爪裕子役の玉井詩織。彼女が主役を演じる劇中劇『銀河鉄道の夜』のシーンを撮った際には、カットがかかっても現場から動かず、照明を直している間もずっと立ち位置にいて、そこからスタートするほど入れ込んでいた。

しっかりものの後輩部員・加藤明美を演じた佐々木彩夏は、安定感があった。「肖像画」という自身について語る一人芝居のシーンでも、異様な緊張感のなか、見事にトップバッターで演じきった。

転校生・中西悦子役は有安杏果。素直に気持ちを言えなかった彼女が、大好きな演劇への思いをついに解放する場面では、本広監督に鳥肌が立ったと言わしめた。

そして演劇部のムードーメーカー・西条美紀役の高城れに。もっとおかしな動きをという監督の注文に応えて様々なアドリブを披露。彼女のアイデアが生かされたシーンも、しっかり本編に残っている。

お互いが切磋琢磨(せっさたくま)する中、5人を中心に"演劇部"は結束。「劇中劇の『銀河鉄道の夜』のシーンを撮っているとき、演劇部員役の子はセリフが出てこなくなると悔しくて泣くんですよ。(高城)れにちゃんも1回あったかな。すると、ほかの部員の子が『頑張れ』って励ますんですよね。メンバー以外の子も含めて本当にいいチームになったと思いました」(本広氏)。

ももクロと1本映画を作り、本広氏は改めて感じたことがある。「アイドル映画は手を抜いているものが多いって言って、ネットで炎上しちゃったんですが(苦笑)、それはアイドルを批判したわけじゃなくて、ちゃんと時間を取ろうよと運営の人に言いたかったんです。ももクロのように、しっかり歌や踊りを鍛えているアイドルなら、舞台度胸もあるし、表現力のポテンシャルも高い。そこに演劇のノウハウを少し入れてあげれば、女優としてもすごいパワーを出すんです。アイドル映画は時間さえかければ、いいものが作れると思うんですよ」(本広氏)。

131回の舞台挨拶を予定

高校生たちが成長する姿を真っすぐ描き、老若男女が楽しめる正統派の青春映画となった本作。本広監督の元には、大林宣彦監督、山田洋次監督といった大先輩から賛辞の声が寄せられていると言う。

あとはこの評判の高さを武器に、動員面でも実績を残せるか。数々の常識を破ってきたももクロだけに、プロモーションでも型破りな施策を展開。そのひとつが2月13日からスタートした「全上映館での舞台挨拶」。ももクロのメンバーが手分けをして『幕が上がる』を公開する全国127館を訪問。計131回の舞台挨拶をするというものだ。

2015年5月1日からは、映画の劇中劇をベースにした舞台版も上演される。話題満載の『幕が上がる』。アイドル映画、そして青春映画の歴史を変える1作となるかもしれない。

(ライター 高倉文紀、日経エンタテインメント! 山本伸夫)

[日経エンタテインメント! 2015年3月号の記事を基に再構成]

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