アスピリン・シャンパン… 「○○スノー」何が違う?

冬のレジャー、スキー・スノーボードは2月がピーク。滑走に適した雪として名高いのは「パウダースノー」だが、「スーパーファインスノー」「シルキースノー」などゲレンデごとに様々な雪質を指す新しい言葉を耳にする機会が最近増えてきた。こうした多様な雪質表現は実は1980年代に登場したものが多いようなのだが、なぜ最近になって「復活」してきたのか。

「雪だるまがつくれない」

丸沼高原スキー場は「スーパーファインスノー」をうたう

「雪が細かく乾いているので、スキー板のエッジがよく利く」(34歳男性)「雪があまりにもサラサラで、雪だるまがつくれなくて驚いた」(27歳女性)――。

群馬県片品村にある丸沼高原スキー場はゲレンデの雪を「スーパーファインスノー」と呼んでいる。前出の来場者は「スーパーファインスノー」という言葉自体は知っていたものの、実際にゲレンデでその雪質の特長を体感したという。

今年で開業40周年を迎える同スキー場は、日本海側の雪雲が隣の新潟県などとの境の山にぶつかって雪を降らせた後、水分が減って山を越え、同スキー場に到達するとサラサラの粉雪を降らせるのだという。

独自の名称でアピール

ところ変わって裏磐梯猫魔スキー場(福島県北塩原村)。ここでは、ゲレンデに降る雪を「ミクロファインスノー」と呼ぶ。ゲレンデの斜面が北向きで日光が当たることが少なく、降り積もった軽いサラサラの雪が残るのが特徴で、「新潟県に比べると格段に雪質が良い」(56歳男性)「良いパウダースノー」(英国人男性)などと来場者にも好評だ。

ほかにも同じように独自の雪質の呼び方をするところがある。毎年ジャンプ大会が開催される名寄ピヤシリスキー場がある北海道北部の名寄市。同市では、降る雪を「シルキースノー」と呼ぶ。なよろ観光まちづくり協会によると、その定義は「パウダースノーよりもきめ細かい、シルクのようにきめ細かい雪」。2月には「なよろ雪質日本一フェスティバル」というイベントも開いており、雪質に対する同市の自信のほどがうかがえる。

スキー客らでにぎわう丸沼高原スキー場

良い雪質を表す言葉として広く知られている表現は、おそらく「パウダースノー」だろう。日本国語大辞典第2版(小学館)によると「気温の低いときに降る細かい粉状の雪。水分が少なく、スキーに好適」とある。新英和大辞典(研究社)によると、英語での初出は1929年とされ、日本でも昭和初期の1932年には掲載している辞書があるという。

雪質の表現でもう一つ、辞書に載っているのが「アスピリンスノー」。「アスピリンの結晶のような、ひとつひとつの粒が小さい、さらさらした雪のこと。気温が低いときの新雪」(日本国語大辞典第2版)と説明される。アスピリンとは、かつてドイツの製薬会社バイエルが商標登録していた頭痛薬の商品名だ。ほかにも、辞書には載っていないが米ロッキー山脈の雪質を示す英語「シャンパーニュパウダー(Champagne Powder)」から転じたとみられる「シャンパンスノー」という言葉もある。

名称の盛衰、バブルとともに

ゲレンデごとに雪質に固有の名称をつける風潮は、70年代まではあまりなかった。ところが80年代に入ると様相が一変する。バブル景気の波に乗って日本各地にスキー場が相次ぎオープンし、競合が激化。各スキー場が差別化を進めようと躍起になった。そんな中で各スキー場が独自に生み出したのが、雪質を示す新しいキャッチフレーズだったというわけだ。

86年に開業した裏磐梯猫魔スキー場の「ミクロファインスノー」は「現場のスタッフが呼び始めた名称」(総支配人室の倉上哲哉氏)。その名称をパンフレットやテレビCMなどに使用した。丸沼高原スキー場の「スーパーファインスノー」という名称も90年に登場。「立地が地理的に不便であるというハンディを補うために、売り物である雪質をアピールしようと、独自の用語を使い始めた」(営業部の千明靖久氏)のがきっかけだ。名寄市で「シルキースノー」と呼ばれ始めたのも80年代だ。

しかし、その後の長期にわたる不況のあおりでスキーブームは遠のくことに。予算上の制約から宣伝の機会も減り、雪質の名称などが話題に上ることもなくなっていった。

SNSが状況を一転

そんな状況を一転させたのが、フェイスブックやツイッターなどのSNS(交流サイト)の出現だった。

各スキー場は、費用をほとんどかけることなく雪質を広くアピールできるという利点に着目。こぞって「現場のスタッフが日々ツイッターで雪質を発信するようになった」(猫魔スキー場総支配人室の倉上哲哉氏)。そして、SNSの普及に伴い「スーパーファインスノー」や「ミクロファインスノー」などといった言葉を含む情報が消費者の間に急速に拡散していったというわけだ。

多様な雪質の名称を耳にする機会が増えたもう一つの要因は、スキー人気の復調だ。日本生産性本部のレジャー白書によると、スキー場の売上高を示すリフトやゴンドラなどの索道収入は2011年は540億円と1990年代の3分の1に縮小した。だが12年は560億円、翌13年は570億円とこのところ回復傾向にある。

かつてのスキーブームを知る中高年が再びスキー板を履く機会が増えてきているようで、さらに2014年のソチオリンピック・スノーボード競技で10代のメダリストが出るなどして以来「子連れでスキー場を訪れる家族が大幅に増えた」(丸沼高原の千明氏)のもスキー人気が復活しつつある証左であろう。

《ゲレンデの雪質を表す言葉は多彩だ》
雪質の名称主な使用地域特徴
パウダースノー北海道など気温が低いときに降る、粉状の雪
アスピリンスノー安比高原スキー場(岩手県八幡平市)、Mt.乗鞍スキー場(長野県松本市)などアスピリンの結晶のような、さらさらした雪
シャンパンスノーニセコモイワスキー場(北海道ニセコ町)、箕輪スキー場(福島県猪苗代町)などシャンパンの泡のような雪
シルキースノー名寄ピヤシリスキー場(北海道名寄市)、黒姫高原スノーパーク(長野県信濃町)などパウダーよりもさらにシルクのように細かい雪
スーパーファインスノー丸沼高原スキー場(群馬県片品村)標高が高く、気温の低い山を越えてきた軽い粉雪
ミクロファインスノー裏磐梯猫魔スキー場(福島県北塩原村)太陽が直接当たらない斜面に降る、軽い粉雪

熱心なスキーファンは使わない

久々に巡ってきたスキーヤーやスノーボーダー増加の好機を逃すまいと、各スキー場は独自の言葉でゲレンデの雪質の特長を強調している。ただ「サラサラの粉雪」を示すという点で言えば、言葉の意味はどれも同じように思えてならない。実際のところ、それぞれの雪質にどの程度違いがあるのだろうか。

多種多様な「○○スノー」という言葉について、季刊スキー雑誌「Bravoski」編集者の小川尊氏は「厳密には粒子の大きさや軽さなどが少しずつ違う」としながらも、「宣伝やタイアップなどの際、相手に印象づけるための言葉と考えた方が良い。そもそも、熱心なスキーファンはこういった言葉を使いませんよ」と話している。

(石川雄輝)