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この茶室は時空を超えるカプセルだ  如庵 ~『日本遺産巡礼』

2015/3/4

日経アーキテクチュア

 世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人として少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある。そんな「日本遺産」の中からいくつかピックアップし、現地取材に基づく「旅立ちたくなる」ようなリポートを、ほのぼのとしたイラストとともにお届けする。今回は如庵。

 木曽川を見下ろす小高い丘にそびえる犬山城。そのすぐ隣に名鉄犬山ホテルがある。小坂秀雄の設計で1965年に完成した堂々たる昭和のホテルだ。その敷地内に、国宝茶室「如庵」はある。

 もともとこの茶室は1618年ごろ、京都の建仁寺正伝院に建てられた。それが明治時代に入って売却され、貸座敷として運営されていたが、1912年、東京の三井家本邸に移築される。この本邸は太平洋戦争時の空襲でほとんど焼失するが、如庵は三井家が1938年に神奈川県大磯町の別邸に移していたため、難を逃れた。国宝に指定されたのは、その直前である。

 1970年、今度は所有者が名古屋鉄道へと変わる。移築先には明治村も候補に挙がったが、「明治の建物ではない」などの理由から、現在の場所が選ばれた。

如庵。茶匠・織田有楽(うらく)が晩年に建てた茶室。待庵(たいあん)、大徳寺龍光院密庵とともに国宝3 茶室の1つ。織田有楽は織田信長の実弟として1547 年に生まれ、波瀾に富んだ人生を送った。如庵はもともと京都にあったが、明治以降は場所を転々とし、1972 年、犬山城の東にある有楽苑(名鉄犬山ホテル敷地内)に移築された (写真:磯達雄)

 如庵の周囲は有楽苑(うらくえん)という庭園として整備されており、入場料を払ってその中に入る。ただし如庵は、通常は南側の窓からのぞき見るだけで、中に入るには月に1回ほど開催されている特別見学会に参加しなければならない。

 この取材では特別に許可が出て、中へ入らせてもらった。隣接する重要文化財の正伝院書院の建物から如庵へ。勝手側から茶道口を抜けて、茶室に入る。その第一印象は「意外と明るくて広いな」というもの。続いて室内に凝らされた数々の趣向が目に入ってくる。

 勝手側を除く3面の壁と屋根裏に、合わせて6つも設けられた窓は、それぞれに異なるデザインで光の効果に違いをもたらしている。そのうち東側の2つが竹を細かく並べた「有楽窓」だ。

 壁は腰の高さまで紙が張られている。よく見るとそこには、文字がびっしりと書かれていた。暦が張られているのだ。ゴミにしかならないはずの反古(ほご)紙を、あえて目に付くところに使う。こういうのがカッコいいというセンスが、江戸の初期からあったことに驚く。

 この茶室のもう1つの特徴が、床の脇と茶道口の間に斜めの壁を設けて、三角形の板(鱗板)を床に張ったことだ。この工夫により、給仕口を茶道口に兼ねさせて、しかもスムーズな給仕の動線を確保することが可能となった。

 美しさ、面白さを達成しながらも、機能性や快適性も同時に実現する。そんな万能茶室が、この如庵である。

■「二畳半台目」の意味

 作者は織田信長の弟である織田有楽(うらく)だ。茶室作家として先行する千利休は、「待庵」で2畳という究極の最小限空間に挑んだが、有楽はそうした狭い茶室を「客をくるしめるものなり」として避け、もう少しゆったりとした小間の茶室をつくっている。

 如庵の間取りは「二畳半台目(だいめ)」、つまり通常の畳2畳+半畳+台目畳という広さである。台目畳を4分の3の長さとして換算すれば、これは3.25畳。一畳を1.8平方メートルとすれば5.9平方メートル、そこに鱗板の分を足せば、およそ6平方メートルと少しというところだろうか。

 この広さの意味を理解するために、自分が体験した現代建築の空間で類するものを思い浮かべてみる。小さな建築空間といえば、そう、中銀カプセルタワービル(東京・新橋、1972年)があった。

 資料を引っ張り出して寸法を確認する。取り付けられたカプセルは、内法が2.3×3.8メートルで8.74平方メートルである。ここからバスユニットと壁面収納部の面積を引くと、だいたい6平方メートル。おお、見事に一致したではないか。

 これは人間が普通に使える空間の最小単位が、これぐらいであるということの証左だろう。待庵では狭すぎるが、如庵の広さなら住むことだってできるのだ。

■移動する建築空間

 如庵とカプセルの関連をもう少し考えてみよう。

 中銀カプセルタワービルのカプセルは滋賀県の工場で製作し、トラックで東京まで運んだ。その寸法は、実は輸送を考えてのサイズでもあった。

 また、設計者の黒川紀章はカプセル建築の発展形として、週末にはカプセルを外してリゾート地に運び、別荘にするなどといった使い方も構想していた。

 カプセルは移動を前提にした建築手法である。中銀のカプセルは、取り付けられた後は移動を果たせていないが、入り口前に置かれていた展示用のカプセルが、森美術館の「メタボリズムの未来都市展」(2011年)の際に、展覧会が開催された六本木に移動。現在はさらに、さいたま市の埼玉県立近代美術館に移された。その移動性を遅まきながら発揮したのだ。

 一方の如庵は、前述のとおり、京都、東京、大磯、犬山と移動して現在に至っている。その移動性からも茶室は、カプセルに近い。

 日本発の建築ムーブメントとして、世界から注目を集めたメタボリズム。その建築は、江戸時代の茶室とその遺伝子を共有しているのではあるまいか。

 そんな捉え方で改めて如庵を眺めると、外側に付けられた袖壁の下地窓が目に入ってきた。中銀のカプセルに付いていたのと同じ円形。やはり如庵はカプセル建築のルーツなのだ。

(ライター 磯達雄、イラスト 日経アーキテクチュア 宮沢洋)

[日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』を基に再構成]

(参考)日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』では、開業100周年「東京駅」、近代化の傑作「富岡製糸場」から古代の最先端「伊勢神宮」、「三内丸山遺跡」まで東日本の珠玉の名所の30選をイラスト入りでリポート。これまでの旅行本とは一線を画すダイナミックな写真も見物。旅のお供にお薦めの一冊です。『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』、および両書の電子書籍も同時発売。

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著者:磯 達雄、宮沢 洋
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