健康・医療

日経実力病院調査

脳腫瘍、レーザーが威力 薬剤注入治療も症例数増加 日経実力病院調査2014年

2015/2/18

脳腫瘍は脳やその周辺にできる良性や悪性の腫瘍の総称だ。悪性腫瘍の中でも全体の約3割を占める神経膠腫(グリオーマ)は進行が早く、再発率も高い。

原発性脳腫瘍の年間の罹患(りかん)率は人口10万人に対し10人程度で、50歳代が最も多いとされる。種類と頻度ではグリオーマが全体の約3分の1を占め、次いで脳を包む膜にできる「髄膜腫」、脳下垂体にできる「下垂体腺腫」、聴神経など神経にできる「神経鞘腫(しょうしゅ)」と続く。

東京医科大病院の秋元治朗教授(左)らによるPDT手術の様子。レーザ光を照射して化学反応を引き起こしがん細胞を変性・壊死させる

けいれんや頭痛、視野や視力の異常などの症状をきたすグリオーマは最も軽度なグレード1を除き、腫瘍を摘出する外科手術、抗がん剤、放射線を組み合わせるのが標準治療だ。

脳腫瘍治療の主流は外科手術による腫瘍の摘出だ。良性であれば腫瘍と正常な脳組織との境界がはっきりしているため全摘すれば完全に治る可能性がある。悪性の場合は周囲の脳組織に染み込む「浸潤性」を持つため、正常な脳組織まで摘出すると言語障害やまひなどの後遺症を残す恐れがある。手術でどこまで腫瘍を取り除けるかが、生存率や再発率に大きく影響する。

最先端の治療法の一つがレーザーを使った光線力学的療法(PDT)。2014年1月、悪性脳腫瘍に対して保険の適用可能な治療として認められた。調査で「手術あり」が全国で9番目に多かった東京医科大学病院の脳神経外科、秋元治朗教授を中心とした、同大と東京女子医科大の共同研究グループが開発した。

PDTは開頭による腫瘍切除手術と併用して実施する。患者にレーザー光線に反応しやすい特殊な専用薬剤を注射し、手術をする。腫瘍を切除した後、光る部分にレーザー光を照射し、がん細胞を変性、壊死(えし)させる。秋元教授は「手をかざしても熱さを感じない程度のレーザー光のため患者への侵襲性は低く、正常な細胞を傷つけるリスクも少ない」という。

09年に臨床試験を始め、患者13人を手術した結果、12カ月の生存率は100%で、平均生存期間は従来の14.6カ月から24.8カ月と大幅に延びた。言語障害やまひなどの症状の緩和や改善も確認された。「患者のQOL(生活の質)の維持と向上に加え、再発も相当遅らせることができる」(秋元教授)。保険が適用されて以降、東京医大病院と東京女子医大学病院合わせて約50人を手術した。

PDT手術を受けられるのは現在東京医科大と東京女子医大のみだが、東京医科大で講習会を開いており、これまでに全国約120病院が参加している。将来的にはレーザーの強弱や照射時間の調整で、より効果的な手術を目指す。腫瘍をつくる親玉的な細胞であるがん幹細胞を消滅させる可能性も期待される。

外科手術では摘出しきれないがん細胞に効果的に薬剤を投与する――。薬剤による治療で症例数を積み上げているのが東北大学病院によるCED法を用いた新治療だ。東北大病院は調査で「手術あり」が全国で8番目に多かった。

血液中に投与された薬剤は全身を巡るが、脳には血液脳関門と呼ばれる有害な物質が脳内に侵入するのを防ぐバリアーがあるため、薬が効きにくい。CED法は直接脳内にカテーテル(医療用細管)を挿入、長時間にわたって陽圧をかけながら薬剤を注入し続けることで患部に染み渡らせ腫瘍の消退を狙う。

脳に数時間カテーテルを差し入れ、その後2日間かけて抗腫瘍薬の注入を持続する。その間は安静にしながら、食事をとったり寝たりして自由に過ごせる。同大の斎藤竜太助教は「負担の少ない手術法で、子供から高齢者まで治療を受けられる」と説明する。

11年にはグリオーマの一種、脳幹部再発神経膠腫だった当時14歳の男児にCED法を用いた。治療前に悪化していた二重に見える複視や目まいが改善し、中学校に一時復学できるまでに回復したという。これまでの症例数は30余りにのぼる。薬剤の量や注入する際の圧力の高低など効果的な治療方法を模索しており、成果によってはさらなる効果が見込めるという。

冨永悌二・同大教授は「グリオーマだけではなく、てんかんやアルツハイマーなど脳全般の症状にも応用できる可能性はある」と話す。機器の開発も同時に進めており、導入病院の広がりも期待される。

■脳腫瘍治療の実力病院(50病院)

※(地域別詳細版)はこちらを参照

【調査概要】 調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
診療実績 厚生労働省が2014年9月に公開した13年4月~14年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入・準備中の全国1741病院を対象にした。表では「手術あり」と「手術なし」の合計の上位50病院を掲載した。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例で詳細不明。
運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼を受け、医療の質や安全管理、患者サービスなどを審査した結果を100点満点で換算した。点数の前の*は同機構の評価方法「3rdG」での結果が公表されている病院で、S=4点、A=3点、B=2点、C=1点として計算した得点を100点満点に換算した。
施設体制 医師や看護師など医療従事者の配置や、医療機器など、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。14年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。

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