健康・医療

日経実力病院調査

胃がん、内視鏡が進化 化学療法の選択肢広がる 日経実力病院調査2014

2015/2/12

世界的に高い水準にある日本の医療を支えているのは、全国各地の医療機関だ。日本経済新聞の「実力病院調査」では、胃がんや大腸がんの治療で、生存率を高めたり、患者への負担を減らしたりするための取り組みを進める病院が目立った。ロボットによる手術や新薬など治療の選択肢も増えている。
胃がんの内視鏡手術を行うがん研有明病院の藤崎順子医師

胃がんは日本では年間12万人超が発症し、がんの部位別では患者数が最も多い。初期であれば内視鏡を使った治療が可能で5年生存率も100%に近い。

■電気メスで剥離

胃の内壁にある粘膜の細胞が、ヘリコバクター・ピロリ菌などが原因でがん細胞になり、増殖を繰り返す。胃表面の粘膜から胃壁の深部へと進行する。粘膜表面にとどまる初期段階はリンパ節や他の臓器に転移している可能性が低く、内視鏡で治療できる。

内視鏡を使った手術には腫瘍にワイヤを引っかけて高周波電流で焼き切る内視鏡的粘膜切除術(EMR)という方法がある。ただ近年は粘膜内の腫瘍に電気メスを入れて粘膜下層から剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流という。

今回の調査で、がん研有明病院(東京・江東)の内視鏡切除手術の症例数は全国で2番目に多い357例。大半がESDだ。消化器内科の藤崎順子・上部消化管担当部長は「EMRに比べ、ESDの方がより確実に病巣を取り除くことができる」と説明する。ESDの手術時間は1~2時間程度だが、1週間程度の入院が必要だ。

学会の治療ガイドラインによるとESDの対象は「がんの大きさが2センチ以内」などの条件を満たす必要がある。ただ同病院では2センチ以上の大きさでも、粘膜のがんと判断すれば内視鏡で切除している。がんの大きさよりも、深さが進行の度合いを表すためだ。

正確な診断には治療方針を決める前段階が重要。同病院では、消化器系に詳しい医師らが内視鏡画像などを観察して話し合う。藤崎部長は「胃がんは健康診断で早く発見されるケースも多く、内視鏡手術の件数・技術も世界でトップクラスにある」と話す。

早期でもがんが粘膜の下層を越えたり進行した胃がんになったりすると、胃を切除する必要がある。最近は腹部に数カ所穴を開けカメラや器具を入れる腹腔(ふくくう)鏡手術が浸透している。

今回の調査で内視鏡を含めた手術件数が476例と、近畿で最も多かった大阪府立成人病センター(大阪市)では、このうち100例以上が腹腔鏡手術だった。

腹部に1~2センチほどの小さな穴を5~6カ所開け、電気メスなどで切除する。胃の内部に入れたカメラの映像をモニターで確認しながら、医師が執刀する。患者にとっては開腹手術に比べて傷口が小さく、体への負担が小さいメリットがある。出血量も50cc程度と、開腹手術(200~300cc)より少ない。

ただ開腹手術より手術時間が長いことや、特殊な器具を扱うため高度な技術が必要だ。同病院は専用の訓練施設を設け、若手医師らがトレーニングを続ける。消化器外科の藤原義之部長は「高度な手術ができるようになるには手術中に助手らと円滑にコミュニケーションを取る能力も欠かせない」という。

切除手術では完治が難しい患者の苦痛の改善や病の進行の抑制、腫瘍縮小には抗がん剤を使った化学療法を用いる。今回の調査で「手術なし」の症例数も多かった、がん研有明病院・消化器内科の陳勁松医長によると、患者によって副作用や効力に差があり、主力の抗がん剤である飲み薬の「S―1」と点滴で投与する「シスプラチン」などを病状に応じて組み合わせる。

■外来治療可能に

昨年、点滴投与薬として新たに「オキサリプラチン」が保険適用の対象になった。陳医長は「オキサリプラチンは、シスプラチンを使用する際に腎障害を抑えるため必要な大量の点滴が不要。外来治療が可能になり、使用する患者が増えるなど選択肢が広がった」と話す。ただ手足のしびれなどの副作用もあるとされ、十分に患者に説明した上で使用しているという。

がん細胞を狙い撃ちにする「分子標的薬」も普及する。トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)は副作用が少ないとされ、がん細胞を増やすたんぱく質「HER2」と結合し、増殖を抑える。

抗がん剤の効率的な投与方法の研究も進む。がんが胃の表面を覆う腹膜に転移した場合、大阪府立成人病センターでは先進医療として承認された「腹腔内化学療法」を行う。抗がん剤を腹腔内に直接注入する。抗がん剤が高い濃度で行き届き、持続して腹腔内を満たすことができるため、「腹膜への転移の治療に有効」(藤原部長)という。

■胃がん治療の実力病院(50病院)

※(地域詳細版)はこちらを参照

【調査概要】 調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
診療実績 厚生労働省が2014年9月に公開した13年4月~14年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入・準備中の全国1741病院を対象にした。表では「手術あり」と「手術なし」の合計の上位50病院を掲載した。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例で詳細不明。
運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼を受け、医療の質や安全管理、患者サービスなどを審査した結果を100点満点で換算した。点数の前の*は同機構の評価方法「3rdG」での結果が公表されている病院で、S=4点、A=3点、B=2点、C=1点として計算した得点を100点満点に換算した。
施設体制 医師や看護師など医療従事者の配置や、医療機器など、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。14年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
<お詫び・訂正>
2月12日2時に掲載した「胃がん、内視鏡が進化 化学療法の選択肢広がる」の「胃がん治療の実力病院(50病院)」の表中、「腹腔鏡切除術など」のデータの一部に誤りがありました。  (2015/3/6 19:31)

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