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男性に比べ結婚や出産で働く期間が短く、給料も少ない女性は、公的年金が少なくなりがちだ。特に正社員で働いた期間が短かったり、離婚したりしたシングルの女性は厳しく、老後に生活苦に陥る人もいる。賃金や物価の上昇分より年金支給額の伸びを抑えるマクロ経済スライドが適用されることもある。早めに対策を考えよう。

年金事務所では年金に関する相談を受け付けている

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「もっともらえると思っていたのに」と、困惑した表情で話すのは、東京都内に住む青木宏美さん(仮名、46)。ねんきん定期便が届いたので、知り合いの社会保険労務士に年金の見込み額を計算してもらったところ、65歳から受け取る厚生年金と国民年金(基礎年金)の合計は月約12万円だったという。

頭の中には、両親の年金額があった。夫婦で20万円以上もらっており、厚生労働省のモデル世帯の月額(2015年度は22万1507円)に近い。独身だが、大学を卒業して以来、ずっと働いていれば、これに近い額はもらえると思い込んでいたのだ。

厚労省の調査では、女性の厚生年金(国民年金含む)受給額は平均で月約10万2000円(13年度末)にとどまる。青木さんは女性としては多い方ではあるのだが……。

神奈川県に住む馬場春奈さん(仮名、50)も65歳からの年金見込み額に驚いた。23歳で一般企業に就職。10年後に退職し、以後はフリーランスで働く。独り身の馬場さんの見込み額は月約6万円。「これでは老後の暮らしが成り立たない」とため息をつく。

シングル女性の場合、2人のようなケースは珍しくない。典型的なのは、馬場さんのように正社員として働いた期間が短いケースだ。

会社員の年金は主に厚生年金と国民年金の合計額。厚生年金は収入と加入期間で金額が変わり、高い収入で長く働けば増える。だが、フリーランスや自営業者の公的年金は国民年金のみ。定額の保険料(15年度は月1万5590円)を40年間払い続けても、月当たりの年金額は満額で約6万5000円にとどまる。

都内在住の佐々木陽子さん(仮名、60)もそのケース。25歳で結婚し専業主婦となったが、40歳で離婚。その後は長男を引き取り、一般企業で正社員として働いた。手取りの月収は約15万円。60歳になってもらい始めた金額は月約2万円(厚生年金の報酬比例部分)。65歳まで働いて全額を受給する場合も、同約8万円にとどまる。貯蓄をする余裕もあまりなく、「死ぬまで働かなければならないのか」と憂鬱な気分に陥っている。

日本の年金制度が夫婦世帯を基準としていることも大きい。厚労省のモデル世帯は会社員の夫が平均的な収入で40年間働き、妻はその期間専業主婦という設定。シングル女性の老後があまり想定されていなかった面はある。

公的年金は先行き支給額の抑制が予想されていることもあり、「十分な年金額が確保できない単身女性は、とりわけ厳しい状況だと自覚する必要がある」と、社会保険労務士の音川敏枝さんは警鐘を鳴らす。実際、十分な老後資金を用意できず、生活苦に陥る女性は多い。厚労省の調査では70歳以上の生活保護受給者の約6割を女性が占める。その4分の3が単身世帯だ。

老後の生活苦を避けるには「早いうちから年金制度の仕組みを知り、もらえる年金額をつかんでおくことが重要」と話すのは社会保険労務士の望月厚子さん。ねんきん定期便には50歳を過ぎると、現在の条件で60歳まで加入した場合の年金見込み額が載る。不明な点や制度に関する疑問は、年金事務所や年金相談センターに問い合わせたい。

「老後対策の基本はやはり長く働くこと」と指摘するのはファイナンシャルプランナーの金子祐子さん。できるかぎり厚生年金に加入できる正社員などの働き方を選べば、もらえる年金額は増える。

退職や転職、離婚など、環境に変化があった際、各種の手続きを忘れずにすることも大切なポイントだ。例えば、収入が減って国民年金の保険料を納めることが難しければ、免除を申請する。免除を受ければ加入期間に含めることができ、10年以内なら追納も可能だ。目先の手取り収入にこだわり、納付を怠ると年金額が減る。長期間未納だと無年金になることもある。

離婚では、婚姻期間に保険料を払った厚生年金を、離婚後に双方で分ける年金分割の仕組みがある。多いのは夫から妻に50%を分けるパターン。前述の佐々木さんの離婚は制度ができる前だった。分割が可能だったら、年金額は増えたはずだ。「分割でもらえる年金はたかが知れているとの声もあるが、あるのとないのとでは大違い」と行政書士の藤原文さんは話す。

支出を見直したり、預貯金などで資金を蓄えたりすることも、もちろん重要だ。一般に女性は男性よりも老後が長い。年金を考慮したうえで将来の資金計画を早めに作り、実践していく必要がある。(編集委員 土井誠司)

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