名前で世相を読む 男子は「蓮・はると」時代へ編集委員 小林明

書店などで販売されている様々な「名付け本」

昨年(2014年)に生まれた新生児の名前の人気ランキング(明治安田生命保険調べ)が発表された。名前の流行にはどんなサイクルや法則があり、今はどんな時代に差し掛かっているのだろうか? 過去103年のランキングの推移を細かく追いかけながらまとめてみた。まず今回は男子名編。

名前の流行はほぼ10年周期

男子名で多かったのは「蓮」「大翔」「陽向」「陽太」「悠真」「湊」「悠人」「陸」「駿」「朝陽」の順。これがトップ10の顔ぶれ。首位の「蓮」(前年3位)、2位の「大翔」(同4位)、3位の「陽向」(同8位)、4位の「陽太」(同15位)がそれぞれ順位を上げた一方、前年首位の「悠真」は5位に順位を下げ、上位の顔ぶれが大きく変わった。

比較できる過去103年のランキングで首位の変遷を追うと、流行のサイクルが浮かび上がる。例外はあるが、ほぼ10年くらいの期間で「清」→「勇・勝」→「博・茂」→「誠」→「大輔」→「翔太」→「大輝」→「大翔」→「蓮」と変遷しているのだ。つまり、現在は「蓮」時代の初期に差し掛かっていると判断することができる。

2011年から「蓮」時代に突入

では、「蓮」人気はいつごろから始まったのだろうか?

「蓮」がトップ10に顔を出したのは1999年(平成11年)の9位が最初。その後、ジワジワと順位を上げて2004年(平成16年)に初めて首位に輝き、「大翔」とトップ争いを繰り広げるようになる。本格的な「蓮」時代に入ったのは2011年(平成23年)以降のことだ。

流行の変遷は時代の空気や世相を明確に反映している。

戦前は「清らかさ」、戦中は「勇ましさ」「勝つ」など武運が強く求められた時代。それが戦後になると、「茂」「稔」「隆」など経済発展や「博」「誠」など学問による立身出世を願う風潮に切り替わり、やがて「大輔」「翔太」「大輝」「大翔」など雄大さや躍動感、ロマンのある名前が好まれる時代に突入する。テレビなどメディアの発達に伴い、ドラマや映画、アニメの主人公、芸能界やスポーツ界の有名人にあやかろうという機運も強まった。

武運、経済発展、学問、ロマン……元号も

参考までに、首位の変遷をさらに細かく検証してみよう。

1912年(大正1年)、1913年(大正2年)、1914年(大正3年)の首位はそれぞれ「正一」「正二」「正三」。元号(大正)と年を組み合わせた名前の人気が高まった。1927年(昭和2年)、1928年(昭和3年)にも「昭二」「昭三」という元号(昭和)と年を組み合わせた名前が首位にたった。元号が変わった初期には元号にちなんだ名前が流行する傾向があるようだ。ただ平成の初期には「翔平」という名前がトップ10入りしたくらいで、この傾向は薄らぎつつある。

1916年(大正5年)に突然、首位になった「辰雄」は辰(たつ)年だったことにちなんだ名前。1960年(昭和35年)、1961年(昭和36年)に首位になった「浩」は現皇太子の浩宮さまのご生誕(1960年)にあやかった名前と考えられる。

秋篠宮家の長男、悠仁(ひさひと)さまが誕生された2006年以降は「悠」という字を取り入れた名前が急速に増え、2013年(平成25年)にはついに「悠真」が首位に輝いた。

■読みからも世相が見えてくる

さて、名前の表記ではなく、読みの流行について探ってみると、異なる法則が浮かび上がる。同じ表記でも読み方が多くなるのだ。

たとえば2位の「大翔」には「ひろと」「はると」「やまと」「そら」「たいが」「たいと」など様々な読み方がある。3位の「陽向」も「ひなた」「はるた」、4位の「陽太」も「ひなた」「ようた」「はるた」などと読み方にかなり幅が出てくる。

かつて「清」は「きよし」、「誠」は「まこと」、「大輔」は「だいすけ」などと名前の読みがほぼ定まっていた時代と比べると、表記と読みの関係は明らかに異なっているようだ。

表記と読みでランキングが乖離するワケ?

そこで注目したいのが読みのランキング。表記のランキングとはまったく一致していないことに気が付く。トップ10は「はると」「ゆうと」「そうた」「ゆうま」「りく」「そうま」「はるき」「れん」「あさひ」「ゆうせい」「ひなた」「かいと」の順。名前の表記のランキングで首位だった「蓮」(れん)は7位にとどまった。

なぜ表記と読みのランキングがこれほど乖離(かいり)しているのだろうか?

書籍では「音や響きから名付ける方法」を紹介している

実は名付けの方法が大きく変化したことと関係している。最近の子どもの名前は、最初に音や響き、リズムで読みを決め、そこに好みの漢字や文字を当てはめるケースが増えているのだ。

これは最近の両親が名付け本を参考に名前を付けているためと考えられる。多くの名付け本が音や響きやリズムで読みを決め、その後に当て字で表記を決める方法を紹介しているからだ。だから読みで「はると」「ゆうと」などに人気が集中しても、名前の表記は多様化する傾向が強くなる。

まず音や響きで読みを決め、漢字を当てはめる

たとえば、読みランキングで首位の「はると」の表記は「大翔」「陽翔」「陽斗」「春翔」「晴斗」「悠人」「晴翔」「悠翔」「遥人」「陽大」「遥斗」「春音」「春斗」「晴人」など30種類以上もある。2位の「ゆうと」だと「悠人」「悠斗」「優斗」「優人」「悠都」「悠翔」「弓人」「結仁」「佑都」など20種類以上もある。

そうなると「悠人」や「悠翔」が「はると」とも「ゆうと」とも読めるややこしい現象も起きる。人気が高い名前ほど読みや表記が分かりにくいのはこのためだ。

多くは限られた音の組み合わせ

読みのランキングを見ると、意外な事実に気がつく。ごく限られた音(読み)の組み合わせによる名前が大部分を占めているのだ。

目立つのは「ゆう・はる・しょう・りょう・こう・そう」+「と・き・た・ま・すけ・せい」という組み合わせ。「はると」「ゆうと」「しょうた」「りょうた」「こうき」「そうた」「ゆうせい」「そうま」……などトップ10の名前のうちの多くがこれに属する。

名前の読みにも流行のサイクルがある。比較可能な2000年からランキングの変遷を追いかけると、首位は「ゆうき」→「ゆうと」→「はると」と大きく推移している。つまり、現在は「はると」の黄金期のまっただ中に差し掛かっているといえる。

ちなみに「はると」が初めてトップ10入りしたのは2003年。以降、急速に順位を上げ、2009年から6年連続で首位の座を維持している。一方、2000~2005年に首位だった「ゆうき」は2013年からはトップ10圏外に沈んでしまった。

このほかランキングの変遷からは、(1)「しょう」「りょう」が付く名前から「はる」「そう」が付く名前に人気がシフトしている、(2)名前の末尾は「と」「き」「た」の人気が高いが、最近は「ま」「すけ」「せい」も増えている――という傾向も読み取れる。

このように名前の流行は、生き物のように世相を反映しながら、絶えず変貌を遂げているのだ。

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