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2016年10月から、パートタイマーの待遇改善を目的とする制度改正で、年106万円以上稼ぐ大企業のパートは厚生年金など社会保険に加入することになる。ただ、新たに保険料負担が企業とパート双方に生じるため、働き方の抑制につながる可能性もある。「106万円の壁」の出現はパートの働き方にどんな影響を与えるのか。

レジ係から店長

パートから正社員に転換し、店長になった西友の増田さん(左)(埼玉県川口市)

パートから正社員に転換し、店長になった西友の増田さん(左)(埼玉県川口市)

1月16日に大手スーパー西友の鳩ケ谷店(埼玉県川口市)店長になった増田真奈美さん(50)。子育て中に入社、10年間パートで働き、正社員になった。パート出身の女性店長は同社で2人目だ。最初は週5日、1日4時間勤務のレジ係だった。接客担当への抜てきを機に夫の扶養から外れ、1日7.5時間勤務に。「上司も後押ししてくれたし頑張りたかった」

西友は02年に米ウォルマートの傘下に。以来、正社員とパートを分け隔てなく評価し昇進させてきた。正社員転換制度も設け、14年末時点で379人が正社員になった。増田さんは「パートの中からもやる気と能力のある人を見つけ育てたい」と話す。

人材不足や女性の活躍推進を受け、戦力となるパートが増えている。労働政策研究・研修機構によると14年4月時点でパートなどを正社員にする制度を設けた企業は34%。5年前に比べ19ポイント増えた。

パート戦力化への障害が、専業主婦世帯を優遇する税制の「103万円」と社会保険制度の「130万円」の2つの壁だ。年収基準を超えると税金や保険料負担が発生したり、夫の配偶者控除に影響したりするため働く時間を抑える主婦が多く、キャリアアップを阻害してきた。

ここに16年10月から「106万円の壁」が加わる。週20時間以上働く月収8.8万円、年106万円以上稼ぐ大企業に勤めるパートが、新たに社会保険に加入、企業とパート双方に保険料負担が発生する。この壁は、働き方調整の新たな目安になるのか。

アイデム人と仕事研究所(東京・新宿)の岸川宏さん(社会保険労務士)の試算では、例えば40歳以上の主婦が週5日、1日5時間(週25時間)、時給950円で働くと、月に1万4500円ほど保険料負担が発生する。補うには月に15時間ほど追加で働かねばならない。「育児などで時間に制約のある主婦がさらに働けるかは微妙」

リクルートジョブズ(東京・中央)の「主婦の就業に関する1万人調査」では、子どものいる主婦は週4日、1日5時間程度の勤務が理想の人が多かった。ジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子さんによると、時給800円の場合、週4日なら1日6時間働いても年収は100万円に届かないという。

既婚女性の稼ぎは年収100万円近辺に集中している。みずほ総合研究所の上席主任研究員、堀江奈保子さんは「そもそも、今回負担増になる人は多くない。106万円で就労調整するよりは、103万円の壁を引き続き意識するのでは」とみる。

パートを雇う企業の動向も壁を高くするかを左右する。「保険料負担は経営を圧迫する。より短時間で働くパートを増やすしかない」(飲食企業)との声があるものの、制度改正はまだ先とあって、様子見が多いようだ。

そんな中、イオンの総合スーパー運営子会社、イオンリテールは14年11月、パートを対象に制度改正の意識調査を実施した。約5万人が回答。16年10月以降、社会保険の加入希望者は4割で、6割は希望しないと答えた。

制度改正知らない

ただ「制度改正を『初めて知った』という声も多く、働く側に情報が行き渡っていない」(人事企画部長の片寄志津さん)。同社は「働く人のニーズを把握しながら真剣に対応を考えたい」と今後も調査を続ける。

厚生労働省は今後、中小企業のパートにも社会保険加入拡大を進める方針。103万円の壁の根拠となってきた税制の配偶者控除も見直し方向にある。パートをめぐる年収の壁の問題は、働き方を占ううえで、さらに不透明になる可能性もありそうだ。(編集委員 武類祥子)

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