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冬季うつ、光はいつ浴びるかより「浴びた量」が大事

2015/2/24

ナショナルジオグラフィック日本版

旧年の話題で恐縮だが、2014年の冬至は12月22日であった。2014年は冬至と新月が重なる19年に一度の朔旦冬至(さくたんとうじ)で、昼夜を通して最も明かりが少ない1日らしい。これ以降は明るくなるばかりということで、おめでたい日とされているらしいが、暗いのが苦手な冬季うつの方にとっては迷惑この上ない。縁起物のカボチャはトリプトファンをたっぷり含んでいるので、日光浴と合わせて冬を乗り越えていただきたい。

これまで2回にわたり日照時間の話ばかりしてきたが、実は冬季うつの発症に「日長」と「日照」のどちらが大事か、というかなりマニアックな科学論議がされてきた。この2つの違い、お分かりですか。

日長時間とは日の出から日没までの時間である。一方、日照時間は1日のうちで「直達日射量」が1平方メートル当り120W以上になる時間と定義される。ざっくりと言うと、直射日光で物の影ができる程度の日差しが出ている時間である。日長時間と日照時間はおおむね比例するが、もう1つ日照には「量」という考え方がある。日照時間は同じでもお天気次第で日照量は大きく異なってくる。

日長時間は日の出から日没までの時間。日の出時刻は太陽の上縁が地平線(水平線)から現れる時刻。日没時刻は太陽の上縁が地平線(水平線)に隠れる時刻。ちなみに、「昼」とは夜明けから日暮れまで。夜明けとは日の出前の薄明が始まる時刻(太陽の俯角が7度21分40秒)で日の出の約36分前。日暮れとは日の入り後の薄明が終わる時刻(太陽の俯角が7度21分40秒)を表す(イラスト:三島由美子、以下同)

冬季うつは高緯度地域でよく発症することが疫学調査ではっきりしたので、当初は日長時間の大きな季節変動が主な病因と考えられていた。緯度が高くなるほど日長時間の季節変動が大きくなるからだ。日長時間は夏至で最長、冬至で最短となり、札幌では4時間半もの変動が生じる。

冬季うつに有効な高照度光療法も、朝と夕方に数時間ずつ太陽光に近い強い光を浴びる、すなわち夏季の「日長時間」をシミュレートするという極めて単純な発想から始まった。人工光でニセの日の出と日没をでっち上げ、脳と体を夏と勘違いさせようというのである。ジョークのようなその試みは大成功した。1980年代初めのことである。即効性があり、治療効果の大きい患者さんでは数日でうつ症状が改善する場合もある。

高照度光療法とは1日の特定の時間帯に数千~1万ルクスの強い人工光を浴びる治療である。光が網膜にしっかり届くように正面から目で見るのがポイント。光療法は冬季うつ患者の6~7割で効果が見られる。卓上型の照射器が一般的であるが、最近ではLED光源を用いた照射器も販売されている。数千ルクスの高照度光を浴びられる光照射ルームもある

■「ダークホルモン」がカギを握る

実際、日長時間の季節変動は多くの生物の行動に大きな影響を及ぼしている。例えば、動物では渡り、回遊、生殖などが、植物では花芽形成、落葉などが日長時間に応じて特定の時期に正確に生じており、このような現象を「光周性」と呼ぶ。

光周性のメカニズムもかなり詳しく解明されていて、メラトニンがその鍵を握っている。メラトニンは体内時刻を体中に伝えるホルモンだが、別名Dark hormone(暗闇を伝えるホルモン)とも呼ばれる。というのも、メラトニンは昼にはほとんど分泌されず夜になると活発に分泌される特徴があり、日長時間に応じて分泌時間が変動するためだ。鳥やネズミなど多くの動物は日長時間をメラトニンの分泌時間の長短という信号に変換して季節を感知しているのだ。

さて、人でも日長時間を通じて季節を感知する能力が残っているのであろうか。

残念ながら、一般人ではその能力はだいぶ弱くなっているようだ。ワシントンD.C.の郊外にあるベセスダに居住する健康成人を対象にした調査では、夏と冬でメラトニンの分泌時間に全く差が見られなかった。ベセスダは北緯38度53分、日本だと新潟や山形あたりにあり、それなりに日長時間の季節変動は大きい。

なぜ人で日長時間の感知能力が衰退したか、その原因は分かっていない。現代生活では人工照明が発達したため、日長時間の季節間差が乏しくなっているからであろうか。低緯度地域で進化の初期を過ごした人類が、その後に高緯度地域に移動していく際に、季節を感知できない人間の方がより多く生き残れたという説を唱える研究者もいる。

■冬季うつになりやすい人の傾向は…

冬季うつの患者さんでは夏にメラトニン分泌時間が短縮している。冬の分泌時間は健常者と患者さんとの間に差は無い。Wherら(2001年)から改変して引用

ところが、である。どうやら冬季うつの患者さんではこの季節感知能力が残存しているらしいのだ。同じベセスダに居住する患者さんで調べたところ、夏と冬でメラトニン分泌時間に明瞭な差があったのだ。しかも、である。冬の分泌時間には健常者との間に差が無く、夏の分泌時間が有意に短くなっていたのである。

日照不足で発症することから、光に対する感受性が低下しているイメージがあったが、むしろ敏感であったのだ。光に過敏であることが、何故にうつ症状をもたらすのか詳細は不明である。しかし、秋から冬にかけての光環境の落差が何らかのトリガーを引いて、気分や食欲、睡眠に関わるセロトニン神経機能の低下をもたらしていると考えられている。

次に、日長時間や日照時間よりも、日照量が少なくなるのが問題なのではないかという意見が医療現場から湧き上がってきた。いくら夏の日長時間をシミュレートするのが効果的とはいえ、慌ただしい朝夕に数時間も光療法器の前に座っているのは大変である。もう少し負担を減らす方法はないだろうか。これが患者さんと治療者の悩みであった。そのため、朝だけ、昼だけ、時間があるときに行う、などさまざまな変法で光療法が行われるようになった。

その結果、「光療法の時間帯を変えても効果に違いが無いのではないか…」、そのような印象を持つ治療者が増えていった。冬季うつが広く知られるようになった1980年代後半、私は新米精神科医として秋田で診療をしていた。冬季うつの患者さんをおそらく日本でも最も多く診察していたと思うが、やはり同じような印象を持っていた。「いつ浴びるか」より「浴びた量」だと。

■どれくらい強い光が必要なのか

1990年代に、さまざまな時間帯における光療法の効果検証試験が多数行われた。体内時計(生体リズム)に及ぼす影響は光を浴びる時間帯によって大きく異なるため、どの時間帯の光療法が最も有効であるか知ることは、冬季うつの病因論にもつながる関心事でもあった。

これまでのデータを総合すると、日中いずれの時間帯で行っても光療法の効果はほぼ同等であることが判明している。朝の光療法がベターだという意見もあるが、実際にはさほどの違いはない。光療法を行う時間に制限がないことは、治療を受ける側から見れば福音である。ちなみに夜の光療法はダメ。体内時計を大幅に夜型にしてしまうし、そもそも眠れなくなる。

光のタイミングよりもむしろ光の量の方が重要だとして、光療法にはどれくらいの強さの光が必要なのだろうか。一般的には2500~1万ルクスの高照度光を用いる。大まかに言えば、「照度×照射時間」に比例して治療効果は高くなる。1万ルクスの光を1時間程度浴びると確かな効果が得られる。日常生活で浴びることのできる光照度の目安を付けたので参考にしていただきたい(下図)。

曇天でも屋外であれば1万ルクスの照度が得られるが、視線の方向で目に入る光量は大きく変わる。できるだけ明るい日差しの方向を眺めよう

■冬季うつになる人はどれくらいいるのか

以上ご紹介してきたデータは何を意味するのであろうか。まとめてみよう。

まず、冬季うつの患者さんは光に対して敏感らしい。結果的に日長(日照)時間や日照量の季節変動を感知する能力が残っており、むしろ敏感に反応してうつ症状や過眠過食が発症していると考えられる。光環境のどの要素に反応しているのか。これはまだ不明な点もあるが、日照量の減少が大事な役割を果たしていることは間違いなさそうだ。

ちなみに冬季うつは病気なのか、という質問を受けることがあるが、冬季うつは間違いなくうつ病の一型である。精神疾患の国際診断基準でも気分障害の季節型、季節性感情障害などの診断名が明記されている。本稿ではもう少しなじみやすい通名である「冬季うつ」という名前を用いた。先にご紹介したように健常人でも気分や食欲、睡眠に季節変動が見られるが、冬季うつではさらに変動が大きく日常生活に支障が出るほどになる。そのような段階に至った場合、病気として診断される。

冬季うつ病の患者さんはどれくらいいるのだろうか。米国で行われた面接調査では「それまでの人生で罹患(りかん)した人の割合(生涯有病率)」が0.4~1.0%、より高緯度のカナダでの調査では約3%であった。同じ時期のカナダのうつ病(大うつ病)の生涯有病率が26%なのでうつ病の1/10が冬季型であると試算されている。以前紹介した(「『もっと光を!』冬の日照不足とうつの深い関係」を参照)簡易診断スケールであるSeasonal Pattern Assessment Questionnaire (SPAQ)を使った調査では、「調査時に罹患している人の割合(時点有病率)」は北国で3~4%、全国平均では1%であった。冬季うつは決してまれな疾患ではない。今そこにある病気なのである。

冬季うつの発症メカニズムや光感受性の分子メカニズムなどについて、現在も精力的に研究が進められている。冬季うつで悩む方に少しでも早く朗報が届けられるよう私たちも微力ながら頑張っている次第である。

   三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2015年1月8日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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