円を扇形に切って並べ直してみると…
ではなぜ、この式になるのだろうか。様々な証明方法があるが、まず、大雑把な説明から紹介しよう。中でも次のものはよく知られており、小学校高学年から中学生なら理解できるだろう。

ただ、上の説明は数学的には厳密性に欠ける。例えば、横の長さが本当にπrに近づくかどうか、きちんと示されていないからだ。この連載でも何度か触れたが、「限りなく」という用語はイメージを伝えるには使い勝手はよいが、厳密に語るのは、意外と難しい。
次に、高校生向けの説明である。よく知られるものに、積分を用いる方法があるが、これも大きな欠陥が潜んでいる。それは、円の面積を求めるのに「ある公式」を使うのだが、実は高校の教科書ではその「ある公式」を求めるのに円の面積(扇形の面積)の公式を用いるからである。要するに、円の面積の公式を求めるために円の面積の公式を用いるという「循環論法」に陥っているのである。
なお、「ある公式」とは以下の通りだ。

ここで、角度xの単位はラジアン(πラジアン=180°)である。
円周率でも様々な業績を残したアルキメデス

では、循環論法に陥ることなく円の面積の公式を厳密に求める方法はないのであろうか。実は今から2000年以上も前にそれを考えた偉人がいる。紀元前にギリシャで活躍したアルキメデス(紀元前287年頃から紀元前212年)である。
アルキメデスは風呂に入って偶然発見した浮力に関する「アルキメデスの原理」、あるいは「地球を動かしてみせよう」と言ったとされる「てこの原理」など、物理に関する発見が有名である。数学でも円周率で様々な業績を残したことで知られる。
いろんな和書を調べたところ、志賀浩二著「中高一貫数学コース 数学3を楽しむ」(岩波書店)に、アルキメデスの発想を紹介する形で、円の面積公式の証明が部分的に書かれてあった。その概要を紹介する。

( II )の矛盾についてはその本では省略してあったので、拙著「無限と有限のあいだ」(PHPサイエンス・ワールド新書)に掲載した説明の概略を簡単に紹介しよう。これには、曲線の長さを定義してから以下の定理を使う点で、( I )の場合より難しくなる。
【定理】(証明省略) 円Oの周上に線分ABが直径にならない異なる2点A、Bをとる。A、Bにおけるそれぞれの接線の交点をCとすると、
円弧ABの長さ≦AC+BC
が成り立つ(図3参照)。

以上でアルキメデスの発想を基にした円の面積公式を導く証明のごく大雑把な説明を終わることにする。なお「無限と有限のあいだ」では、( I )と( II )それぞれから矛盾を導く部分は、とくに丁寧に記述したつもりである。
円周率が3よりちょっと大きなことの証明
次に、円周率π(円周÷直径)の近似値が3ちょっとであることを示す。この部分は中学生でも理解できると思う。
まず、半径1の円Oに内接する正六角形ABCDEFをとる。

図4において、
円Oの円周=2π、 正六角形ABCDEFの周りの長さ=6×1=6
が成り立つ。円周より正六角形の周りの長さの方が短いので、
2π>6
が成り立つ。すなわち、
π>3
を得る。
今度はまず半径1の円0に外接する正六角形ABCDEFをとる(図5参照)。


を得る。ここで、
円0の面積=1×1×π=π
となるので、

を得る。
以上から、円に内接する正6角形と外接する正6角形を用いて
3<π<3.465
を得たのである。
アルキメデスは円に内接する正96角形と外接する正96角形を用いて

を証明している。
数学好きな方へ 球と円錐台の問題
最後に数学好きな方に、アルキメデスの墓標に彫刻されていた「球がぴったり内接する円柱」に絡んだ証明問題を出したい。あるホテルのバーで、丸氷をグラスに入れてウイスキーを飲んでいるときに、ふと思いついた関係式である。

準備として、いくつかの用語を説明しよう。円錐(えんすい)台とはプリンのような形で、円錐の底面と平行な平面でその円錐を切断し、2つに分けたうちの頂点を含まない方である。また円錐台の上底面および下底面とは、元々の円錐の底面と切断面のことであるが、置かれている上下の位置関係によって名付けることになる。
図6においては、円錐台の側面に球はぴったり接していて、円錐台の高さは球の直径と等しいとする。それゆえ、球は上底面および下底面とそれぞれ1点で接している。
【問題】 いま、球の半径をr、円錐台の高さをh、上底面の半径をa、下底面の半径をbとすると、次の関係式が成り立つことを証明せよ。

【証明】 まず、上底面の中心をC、下底面の中心をEとして、CとEを通る断面を延長させた図7を考える。

AE=xとおくと、
AE:DE=AC:BC
であるから、

となる。また、
AF:FG=AC:CB
であるから、(5)、(6)を使って以下を得る。

これで(*)が証明されたのである。
今回をもって、第2巡目の「おとなの数学」は終わりとなります。毎回のように多くの皆様に読んでいただき、心から感謝いたします。

1953年東京生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)を経て、現在、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(同志社大学理工学部数理システム学科講師)。理学博士。専門は数学・数学教育。『反「ゆとり教育」奮戦記』(講談社)、『新体系・高校数学の教科書(上・下)』、『新体系・中学数学の教科書(上・下)』(ともに講談社ブルーバックス)、『ほんとうに使える数学 基礎編』(じっぴコンパクト新書)など著書多数。