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職場の知恵

育児休職後「私は走れた」 一段と柔軟に

2015/1/20

出産などを機に職場を離れていた総合職社員が短時間勤務や再雇用制度を使って古巣に返り咲く動きが広がっている。かつては復職後に任される仕事は限られていたが、最近は本人の力量次第で再び活躍できる職場が増えているからだ。復職者が戦力となるにはどうすればいいのか。先進職場の知恵と工夫を探る。

ずらりと並ぶ黄金色の液の入ったグラスを1つずつ手に取り、香りや色合い、泡の状態をチェックしたら飲み込む。キリンビール名古屋工場(愛知県清須市)の一室で、「一番搾り」などの出来栄えを確認するのは品質保証室に勤める三品美紀さん(31)だ。入社8年目で、2児の母親でもある。

■分割で短時間勤務

顧客に資産運用のアドバイスをする松井さん(東京都新宿区の大和証券新宿支店)

 「今は軽自動車かもしれないが、いずれは再びスポーツカーで走りたいから、高速道路は降りません」。三品さんが「高速道路」のように皆が全力で走るキャリア街道を走り続けてこられたのは短時間勤務とフルタイム勤務を上手に切り替えながら職場に“軟着陸”したからだという。

入社4年目で産んだ長女のときは最初の3カ月間、6年目で授かった次女のときは1年4カ月間、それぞれ短時間勤務で復職。慣れたところでフルタイム勤務に戻った。これなら他社でもある話だが、キリンでは子が小学3年生修了まで通算48カ月(育休期間を含む)を上限に、3カ月以上を1回として最大5回に分けて短時間勤務を利用できる。フルタイムに戻っても必要なら短時間勤務に戻れ、その後もフルタイムに変更できる。勤務時間も1日5時間、6時間などから選べる。

「私の場合、20カ月分残っていて、あと4回まで分割して利用できると思うと安心して仕事ができる」と三品さん。利用者は現在33人と柔軟な制度に見直した2006年より前に比べて倍増した。

3歳未満の子を持つ社員に短時間勤務を認める制度は10年から順次、企業に導入が義務付けられた。厚生労働省によると、短時間勤務や始業・終業時刻の繰り上げなどの導入企業は62.1%(13年度)。社員500人以上では98.2%に上る。ただ、短時間勤務で復職した社員の間では、「『段取り力』しか評価されず、他の部署と連携した仕事は任せてもらえない」(商社、31)、「『大変そうだから』と重要なプロジェクトから外された」(不動産、34)という声は根強くある。復職者が開花する前に失望し、外資系やNPO法人などに転職する例は珍しくない。

「短時間勤務で復職したが、成果を上げるため残業することもある」という榎本さん(写真(右)から2番目。東京都渋谷区のテンプスタッフ)

そんな中で、短時間勤務で復職した社員にも他の部署と連携した仕事を任せ、本人が希望すれば他の社員と同様に残業を認める企業も出てきた。人材派遣大手のテンプスタッフもその一つ。同社が登録スタッフ向けに開く研修講座の中で受講予約が即満席となる看板講座を企画しているのは、短時間勤務の榎本友美さん(34)だ。

入社10年目で娘を出産、13年6月に復職して以来、勤務時間は朝9時から夕方4時まで。年300超開く講座の中で榎本さんの講座が人気なのは、どんな技能を備えた人材を派遣先が求めているかを知る営業担当者と連携しながら、派遣先ですぐに役立つ内容に常に見直しているからだ。だが、仕事で成果を上げ続けるには「時間が足りない。2カ月に1度は夜8時まで残業している」と話す。

日本では年功色の濃い賃金体系や長時間労働の企業は多く、いったん職場を離れた総合職が再び力を発揮し続けるのは難しい。東京大学の大湾秀雄教授は「日本企業は管理職の選抜時期が遅い。昇進の過程で長時間労働ができない人材は能力が高くても脱落してしまう例が少なくない」と指摘する。

最近は育児や介護などで辞めた元社員を再雇用する企業も増えているが、復職した元社員にブランクを克服しやすくするような支援態勢を整える動きも出てきた。

「リスクを抑えながら、株や投資信託で資産を殖やしたいんですが……」。東京・新宿にある大和証券新宿支店資産コンサルタント課の松井恵美さん(33)のもとには多いときで1日に5人前後が資産関連の相談に訪れる。

■チームでカバー

03年に入社し、個人向けの営業をしてきたが11年春に退職。娘を出産、育児に慣れてきた13年4月に営業経験のある元社員を再雇用する制度を使って1年11カ月ぶりに復職した。当初は「どこまでできるか不安だったが、クラサポに配置してもらったおかげで自信が持てるようになった」と松井さんは振り返る。

クラサポはクライアントサポート課の略称で、複数の顧客をチーム全体で担当する。通常は顧客と営業担当者は1対1だが「ここでは子どもが急に熱を出して早退しても、皆でカバーし合える」(人事部の谷本雅宣副部長)。松井さんは13年秋から営業職に完全復帰。今は上席課長代理として活躍中だ。

今後はどこの職場でも親の介護などで制約のある働き方しかできない社員が増える。働く側と経営側の双方にアドバイスを続ける昭和女子大学の坂東真理子理事長兼学長は「(高速道路を降りずに)キャリアを積めば将来『見える景色』が違う。貴重な人材を失わないために企業は柔軟な働き方ができるようにし、キャリア形成の早期のうちに仕事のおもしろさややりがいを味わう機会を与えることが重要」と指摘している。

(編集委員 阿部奈美)

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