茂みで見つけた笑顔のツボミ
コスタリカ昆虫中心生活
ぼくの部屋があるラボ棟から本部棟へ向かう道に、ゆるやかな階段がある。そのわきに何種類かの小木でできた茂みがあって、いつも何かいないかなと葉の上などを見ながら歩いているのだが、あるとき、そこにほほ笑ましい空間があることに気づいた。
「笑ってるやん!」
あれも、これも。逆さから見ると、「オヤスミ」に見える。
笑顔の正体は、クルシア(Clusia属)の花のつぼみ。ニコッと笑った目に見えるのは、花びらや雄しべを包むガク(萼)の切れ目の模様だ。
クルシアは、果物の女王として有名なマンゴスチンを含むフクギ科に分類されている。ぼくが観察している木は雄株で、雄花だけが咲き、実はならない。花はしだいに茶色くなって、わずか1日ほどで地面へ落ちるが、つぼみはどんどんできて、花がぽつぽつ咲いていく。年中それが繰り返されているようだ。
花を観察していると、いろんな生き物が集まってくる。アシナガバチ、ハリナシミツバチ、タテハチョウの仲間…ハチドリもやって来た。夜中は、小型のゾウムシやハネカクシ、アザミウマにショウジョウバエの仲間、あとハサミムシとオオアリの仲間がやって来ていた。蜜や花粉に興味があるようだ。
花の香りは、ぼくの好きなキンモクセイに似ている。キンモクセイほど強い香りではないけれど、コスタリカにないあのなつかしい香りを年中楽しめるのはうれしい。
お昼すぎ、ラボ棟の横の茂みに近づくと、突然ガサガサッと音がして、ハナグマのピソちゃんが登場(コスタリカではハナグマは「ピソテ/Pizote」と呼ばれているので、ぼくは「ピソちゃん」と呼んでいる)。倒木の上に座り込み、後ろ脚で前脚の付け根をかきながら、あくびを連発していた。日だまりでお昼寝していたところを起こしてしまったようだ。どうもすいません。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2014年1月28日付の記事を基に再構成]
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