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谷間から世界を思う 旧閑谷学校

~『日本遺産巡礼』

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NIKKEI STYLE

日経アーキテクチュア
世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人として少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある。そんな「日本遺産」の中からいくつかピックアップし、現地取材に基づく「旅立ちたくなる」ようなリポートを、ほのぼのとしたイラストとともにお届けする。第4回は旧閑谷(しずたに)学校。

閑谷学校は岡山藩主の池田光政が1670年に設立した学校だ。江戸時代の各藩が設けた藩校の多くは藩士の子弟のためのものだったが、閑谷学校は庶民のための教育を行ったことで知られる。

所在地は岡山県備前市。JR山陽本線の吉永駅からタクシーに10分ほど乗ると、入り口のすぐ前にたどり着く。が、もし時間の余裕があるなら少し手前の分岐でタクシーを降りて、徒歩専用の旧道を歩いて行くことを薦めたい。山の中の小道を進んでいくと、1924年に開通したという古いトンネルがある。それを抜けると、いきなり開けた明るい場所に出て、閑谷学校の建物群が現れる。その様子はなんともドラマチックだ。

そこは周囲を緑の山に囲まれた、名前の通り「静かな谷間」。わずかに開けた平地を、さらに塀で囲んで学校の敷地としている。

塀はカマボコのような断面をした分厚い石塀だ。4つある門のうち、東端のところに受付があり、入場料を払って中へと入ると、芝生に覆われた広庭。北側は斜面となっていて、階段で上がった先には、創設者の池田光政をまつった神社と、儒教の祖である孔子をまつった聖廟(せいびょう)が並んでいる。

広庭の西側には、講堂が妻面を見せて建っている。南側と東側は前述の石塀だ。建物と石塀と斜面に囲まれた長方形の平地に立つと、自然の地形の中に生み出された明快で近代的なランドスケープが見て取れる。

ふと思い出したのは、盈進(えいしん)学園東野高校(1985年)だ。そのキャンパスは、建築家のクリストファー・アレグザンダーが、パタン・ランゲージの理論をもとに、生徒や教員が抱いている「学校かくあるべし」のイメージを具現化したもの。この閑谷学校も、それに似たある種の理想郷を見る者に想起させる。

磨き上げられた床面

敷地の西端は、学生たちの宿舎があったエリアだ。ここには明治期になって中学校が建てられ、その校舎が現在は閑谷学校の遺物を展示する資料館となっている。

講堂と宿舎エリアの境には、小高い丘が敷地に突き出ている。これは火災の延焼を防ぐために設けられた火除(ひよけ)山だ。見た目だけでなく、機能を持ったランドスケープがつくられているところにも近代性がうかがえる。

講堂へと引き返そう。閑谷学校のなかで最も規模が大きいこの建物では、1と6が付く日に儒教の講義が行われたという。現在、見ることができる講堂は1701年に建て替えられたもので、桁行7間、梁間6間の建物に、備前焼の赤い瓦をふいた入母屋の屋根が載っている。

これに付属して、日常的な学習空間である習芸斎や、食堂として使われた飲室などの棟がある。いずれも彫刻や装飾が一切ない、合理主義的な建築だ。

いよいよ講堂の中へと入る。外側を広縁が巡っており、そこをぐるりと一周できる。花頭窓を通して内部をのぞくと、床は漆塗りで鏡のように光を反射している。往時の学生たちが、雑巾がけをしている光景が思わず目に浮かぶ。

内部には10本の丸柱が立っており、この柱が緩やかに内外を分けている。つまりこの建物の空間構成は、中心から外側に向かって、内室、入側、広縁という3重の入れ子になっている。

こうした多層構造の建築は仏教寺院などにも見られる。寺の本堂では、その中心にあたる内陣にご本尊が安置されているものだが、この講堂の内室に置かれているのは、素読のときに使う書見台だけだ。皮をむいていくと最後には何もなくなってしまうタマネギのような建築なのだ。

反復する入れ子構造

講堂の広縁に腰を下ろして庭を眺めていると、入れ子状の構造は、建物の外側に広がるランドスケープでも共通していることに気付く。

講堂の外側には石塀という囲いがあり、そのさらに外側には、盆地を囲む山々がある。つまり、閑谷学校は、建物のインテリアから周囲の地形に及ぶ5重の囲いで出来上がっているのだ。

しかも、それぞれのゾーンを区切っている囲いは、仕切りが緩やかである。内室と入側の間には建具があるわけではなく、床は同じレベルで連続している。また入側と広縁の間も、障子を開け放てば、視線は外の庭へと抜けていく。

そして、石塀も厚みはあるが高さは低くて、外側の山を借景として取り込んでいる。このような開放的な多重の入れ子構造が、この建築の最大の特徴といってよいだろう。

学生たちはこの学校で学びながら、この多重的な空間構成を頭の中で広げていって、山の向こうにある日本、さらには日本の外にある世界のことを思い描いていたのではないか。

ちなみに閑谷学校は、時代が明治に改まると閉校するが、ほどなくして閑谷黌(こう)として再開。そこからは、童謡「赤とんぼ」の作詞者である三木露風、自然主義文学の正宗白鳥、西洋絵画を収集して大原美術館の開館も果たした実業家の大原孫三郎らが出ている。閑谷学校の建築が、彼らを育んだのである。

(ライター 磯達雄、イラスト 日経アーキテクチュア編集 宮沢洋)

[日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』を基に再構成]

(参考)日経アーキテクチュア『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選』では、古都の名所「桂離宮」「龍安寺石庭」から必見の秘境「三仏寺投入堂」「今帰仁城」まで、西日本の珠玉の名所の30選をイラスト入りでリポート。これまでの旅行本とは一線を画すダイナミックな写真も見物。旅のお供にお薦めの一冊です。『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選』、および両書の電子書籍も同時発売。

旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選

著者:磯 達雄, 宮沢 洋
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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